遠い筈の場所から聞こえた2台のタイヤのきしむ音。

 そして多くの人の叫ぶ声…。


『敦賀さん!』

 キョーコは不安を吹き払いたくて、早く、早くと『Darkmoon』の撮影現場に駆け付けた。

 直ぐ前で、自分達の監督が息を切らして止まっていた、そしてそのまま関係者の立ち入り場所から入っていくのが見えると『ナツ』のままのキョーコも『私も』と言いながら入っていった。

「緒方君! どうしたんだ?」

「ああ…。そちらまで聞こえましたか?」

「聞こえたよ。偉いブレーキ音に、悲鳴も凄かったし…」

 監督二人が話していると、キョーコは周りを見回した。

 車道でうずくまる子供は泣いている。そしておばあさん。その周りに数人のスタッフ。

 緒方監督はそのおばあさんに聞こえないようにと、足を進めながら説明した。

「カーアクションについては少しご説明していた通りなんですが、

2台が近づいてきたところで子供さんが飛び出されて…」

「なんだって? それで怪我は?」

「大丈夫です。子供さんも驚いて足が止まりまして、車との接触は避けられたんですが…」

「敦賀さん! 敦賀さん! 目を開けて下さい! ドアロックを外して下さい!」

 監督二人耳に聞こえてきたのは、叫び声に近いキョーコの蓮を呼ぶ声だった。

「京子? どうして此処に…? ……というか、どうして、敦賀君の車は後ろ向きなんだ?」

 只2代の車が止まっている状況は分かるが、何故か蓮の車は逆を向いている。

「俺ん所にもブレーキ音は聞こえたが、ぶつかるような音は聞こえなかったが…」

「それについては、僕も目の前で起きた事が信じられなくて、カースタントのプロに尋ねたんです」

「で、何が起こったんだ?」

「正直お子さんとの距離が近くてスピードも出ていますし、ダメだと思いました。

それが敦賀君の車がスピンするように回転しまして…」

「……どうすればそんな事が出来るんだ?」

「ええ、ですから驚いているうちに、敦賀君の車が貴島君の車を押さえる様にして右の路肩に止めたんです」

「……それは、かなりのカーテクニックで、敦賀君が2台をクラッシュさせない様にして止めたって事か?」

「プロに訊いてもそう言われました…」

「敦賀君は、カーアクションの仕事でもしていたのか?」

「いえ、詳しくは知りませんが……」

 驚いて2人が話している後ろでも、キョーコは蓮に叫んでいた。

「車のキーは未だ来ませんか!」

 温厚な緒方監督も、スタッフに呼びかけていた。

「敦賀君もだが、向こうの2人も大丈夫か?」

「車の接触の仕方を考えても大きなケガはないと思います。

敦賀君の車がこする様に止めましたので。

ただ、双方とも気を失ってますので心配で…」


蓮の記憶がフラッシュバックしていた。

(親の七光りでやってるんだ。陰でやっていればいいさ…)

日本語では無い声…昔の?

「敦賀さん! 敦賀さん? 気が付かれたのなら、ドアロックを解いて下さい!」

 最上さん? でも君は…。

 薄っすらと開く蓮の目には『ナツ』。

 ぼんやりした頭で言われるままに腕を動かしてロックを解く蓮だが、動かした腕に痛みを覚えて顔が歪む。

 ロックを解かれて中に入るとキョーコが言った。

「敦賀さん! 敦賀さん! 何処かを痛められてますね? 腕ですか? 肩?」

「それよりも…、向こうの2人は……」

「こんな時ぐらい、ご自分の心配もして下さい!」

「いや、俺がぶつけたから…。それに、子供…」

「子供さんもおばあさんも大丈夫です。隣の車のお2人も、今お車から出てます」

 キョーコの目の端に、車から出る2人が映っていた。

「……そうか…、よかったよ…」

「ですから…ですから、ご自分の心配もして下さい!

意識を失ってらっしゃったって事は、頭を打ってらっしゃると思いますから…」

「大…丈夫……。ちょっとこぶが…出来るぐらい…だよ…」

「し…心配…したんですから! 御守…いらない筈じゃなかったんですか? 御守…」

 助手席に、正座の様な形で座り込んでいたキョーコの目から涙が零れ落ちた。

「最上さん…?」

 キョーコの涙に蓮は意識がはっきりしてきた。



「あの…社君」

「なんですか、監督?」

「僕達…いつ声を掛けて良いんでしょうか…」

 2人の会話に、口を挟みづらくて緒方監督が社に訊いた。

「俺に訊かれましても……」

 軽井沢での膝枕、バレンタインデーでのひと騒動も見ているだけに、

緒方監督はこの二人の関係をどうとらえて良いのか分からなかった。

 そうかと言って、ケガをしているだろう蓮をそのままにしておくことも出来ない。




               《FIN》




この妄想癖暴走、止める方います?(^^;;;;;

運転出来ないのに、どういう『ドライビングテクニック!?』(爆)

そう言えば…とぼんやり思い出したのは、

「ナナハン」とか(こっちはバイク)

「狼」とか、昔々ありましたね…(昔1コじゃ足りない昔)。

そんな記憶を辿った訳ではないのですが、

妄想走り過ぎました!!が、本筋は普通に妄想?(^^;;

どうせなら本筋でも暴走したら?と思ってしまった…(コラ)




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