『ホタルノヒカリ ナツジカン』
ホタルノヒカリを追いかけた先に
キミとのナツジカンが終わる
バイバイ
またね
#4「ホタルノヒカリ ナツジカン」
6月21日 夏至
この島ではまだ雨が多いけれど
今日が1年のうちで一番昼の時間が長い日
ワタシとキミはいつも通り
果物を採ったり
ご飯を作ったりしながら
のんびりと楽しく過ごす新しい日常
この島に来て
本当に良かった
不思議なもので
たった1か月という短い期間で
ユウさんとワタシはとても仲良くなれた
波長が合うというか
何と言ったらよいのか
この島で出会った時から
「はじめまして」ではない
そんな感じで……
夜になれば
ホタルを追いかける
移住してはじめての夜は不安でいっぱいだったけれど
この島の美しく温かなホタルノヒカリを観て安心できた
ユウさんと出会えたのも
ホタルノヒカリが導いてくれたからだと信じている
この島のホタルは6月にしか姿を現さない
この島のホタルノヒカリは儚い
たとえ
6月が終わって
ホタルノヒカリが姿を消したとしても
これからもずっとユウさんと一緒に楽しい毎日を過ごしていけるはず
だから
6月が終わるまでの夜は
大好きなホタルノヒカリを追いかけよう
6月30日
ヨーロッパで行われている夏至祭を真似て
この島の発展を祝ってお祭りを開くことにした
ユウさんはこの日の為に
ヒマワリで作った冠をワタシにかぶせてくれた
キャンプファイヤーの周りで
歌ったり
踊ったり
かき氷やわたあめを食べたり
とても楽しい二人だけの時間
近くに寄ってきたホタルを手でそっと捕まえて
ソラへ逃がす
《もっとキミとの時間を大切にしたい》
刹那
たくさんの想いが溢れて
止まらない
「ねぇ、
見て見て
ホタルノヒカリ
とてもきれいだよ
クロ
ちゃんと見てる?
クロ」
どうしてワタシはずっと忘れていたのだろう?
クロのこと
クロが泣いていたから
ワタシも泣いたよ
クロがココロから
ワタシに会いたいと願ったから
ワタシも
クロに会いたいと祈った
ワタシは
6月にこの島で飛ぶホタルノヒカリを
恋しいキミの魂に重ねて
カタチ無きワタシと
カタチ無きキミの魂と
触れ合う時間を望んだ
一か月だけでも
キミが昔
ワタシにプレゼントしてくれた
大好きなヒマワリが咲き誇る夏が
訪れようとしているこの時間を
祝いたいと想った
それでも拭えなかった
同じ存在になれない事への
不満や
後悔が
素直にキミの魂をキミとして
受け入れることができなかったんだ
有限な時間を
「知らなかったから」と
永遠と思い込んで甘い夢に浸る
受け入れようと覚悟した時には
不思議なホタルノヒカリが生みだした
ナツジカンが終わろうとしていた
後悔
でも
ワタシたちは
後悔ばかりしてきたから
また後悔を
積み重ねていくだけなんだよ
だからね
7月になろうとしている
このとてもとても短いナツジカンだけは
一つでも後悔を減らすために
泣き虫で
でも
優しくて
大好きな
キミの魂に触れてもいいかな?
いつか
クロがワタシと同じ存在になる
それまではずっと
キミに気づかれませんようにと
つよがりを言いながら
そばに寄り添っているから
そして
ワタシは最期に祈った
「どうかクロが異世界の終着点へたどり着けますように」
と
<Fin>