葵の上にとりつく生き霊
本文 御几帳の帷子引き上げて見奉り給へば、いとをかしげ
にて、御腹はいみじう高うて臥し給へるさま、よそ人だに見
奉らむに心乱れぬべし。まして惜しう悲しうおぼす、ことわ
りなり。
現代語訳 源氏の君が几帳の帷子を引き上げると、美しい葵
の上が、お腹だけ高くふくれて横になっていた。そのいたわ
しい姿は、誰が見ても心乱れるに違いない。夫の源氏が悲嘆
にくれるのは当然である。
本文 白き御衣に、色あひいと華やかにて、御髪のいと長う
こちたきを、引き結ひてうち添へたるも、「かうてこそ、ら
うたげになまめきたる方添ひてをかしかりけれ」と見ゆ。
現代語訳 葵の上は、白い着物に黒々とした髪がよく映えて
いた。その長く豊かな黒髪を束ねて、横に添えてあるのを見
て、「とり澄まさないで、いつもこんなふうだったら、かわ
いく、あでやかで、うつくしいのに」と、源氏は思った。
角川ソフィア文庫ビギナーズクラシックス
日本の古典源氏物語より