宮本茶が届いて、各々お茶を楽しむ様子が

Twitterにも盛んに上がっている。

私も本格的な茶器が無いのが残念だが、

美しいグリーンが楽しめるガラスの器で一服。

いや、二煎、三煎と味わい尽くす。

最後まで美味しく頂ける。

 

 

味もさることながら、茶葉の美しさにも見惚れた。

美しく濃い緑色でしっかりとしている。

湯を注ぐと柔らかな緑に葉が広がり、最後まで濁らない。

良いお茶は見た目も麗しいのだと実感する。

 

宮本さんの選んでくれた本物は、

音楽に限らず、私たちの心に温かく沁みた。

本当にどうもありがとう。

 

 

ゾウあせる

さて、お茶好きの宮本さんの作る歌、エレカシの楽曲に、

お茶は出てくるのだろうか。

 

酒であれば、すぐに思い浮かぶ有名な歌がある。そう、

おい今夜は酒もってこい

で始まる【化ケモノ青年】だ。

これもとても興味深い歌だが、今日はお茶の話。

またの機会にするとして、お茶の歌が思い浮かばない。

 

探して漸く見つけたのが【人生の午後に】だった。

佐久間正英さんプロデュースの名盤「町を見下ろす丘」に収録。

お前、此処にいたのかという、キャスティング。

 

 

うれしいこと悲しいこと色々あるけれど

つまらないよ全部全部 色あせて見えるから

 

野望は疲れ果ててる

夢にゃあ傷が付いてる

思ひ出 時に鮮やかすぎて

 

思ひ描いた日々と今の自分を重ねて

窓の外を眺めてゐた 重く垂れこむる雲

人生の午後に

 

 

冒頭から、重く苦しく、辛いほどに哀しい。

エレカシ史上一、二を争うほどに暗い歌ではないか。

地元の朝】といい勝負かも知れない。

この歌の何処にお茶が出て来るのだろうか。

 

 

カーテンが揺れてる 風で

(ご覧よ ベイベー)

さっきいれたお茶がもう冷めてしまった

(入れ直さなきゃ)

 

 

・・・お茶は人生の悦びではなく、

時間の経過を示す小道具として、ささやかに登場した。

モノクロームの世界には、恐らくは味も存在しない。

入れ直さなきゃ、とは言っているけれど、

また気づけば、お茶は冷たくなっているのだろう。

 

 

自分だけの人生を見つけたくって・・・

ベイベーキミを抱きしめたくて

この世を抱きしめたくて

ああ僕らは生きてきたはずさ

 

希望も展望も見いだせないまま、歌は終わる。

この頃、宮本さんは39歳。

まさに人生の午後に「町を見下ろす丘」は発売された。

 

私の沼落ちを決定的にした【シグナル】を含む

この名曲だらけの名盤は東芝EMI時代最後のアルバムであり、

まさに‘夜明け前’を彷彿させる、静かなエネルギーに満ちている。

 

だが、それも今だから言えることで、

当時の宮本さんは、もがきのピークに居たことが想像される。

収録曲には心の変容が色濃く反映され、

聴く人の胸を打つ。

 

頑なな絶望から希望へと移りゆくさまには段階があるが、

曲は大きくはふたつに分けられる。

即ち焦燥、繰り返される絶望、空虚・・・が強く押し出された前者。

理想の朝

すまえねぇ魂

人生の午後に

雨の日に・・・

 

そして、諦観、開き直り、展望、希望・・・

心に色が生まれ、時が動き出したことが感じられる後者。

地元のダンナ

甘き絶望

シグナル

今をかきならせ

流れ星のやうな人生

I don't know たゆまずに

なぜだか、俺は祈ってゐた。

 

目に光が戻り、自身を揶揄する余裕も生まれ、

ついには祈りや感謝にまで到達する様は感動的だ。

 

いつもながら、詞と旋律はシンプルで美しく、かつ力がある。
今回、久しぶりに「町を見下ろす丘」を繰り返し聴き、

当時の宮本さんの心を思って震えた。

人生の午後に】は、まさに絶望のピークの曲だった。

 

エレカシの3人は、このミヤジの苦悩を

ずっと傍で感じてきたのだと思うと、

改めてその絆の深さを思い知らされる。

 

そして【シグナル】の歌詞に

いつかこの空ひとり占め

とあるのに気づき、胸がいっぱいになった。

ハレルヤ、そのままじゃないか。

本当によく此処まで歩いてきた。

改めて祝福を贈ろう。

 

 

☆彡

さて、話をお茶に戻そう。

宮本茶は冷めても美味しかった。

そして私事で恐縮だが、昨日は誕生日だった。

幾つになったかは内緒だが午後も午後、夕暮れも近い。

 

私の人生の午後は、幸いなことに

美味しいお茶を味わい、

花を愛でる幸せに恵まれている。

感謝。


 

 

最後に、以前も紹介したが

「町を見下ろす丘」発売当時のインタビューが

下記リンクから読めるので、ご興味が有ればぜひ。

なかなかにレア、かつ詳細で面白い。

「ニューアルバム『町を見下ろす丘』を全曲解説! 宮本浩次インタビュー」(excite music)
 

 

「町を見下ろす丘」というタイトルは、

当時の宮本さんの家が高台にあったからだという話だが、

私の脳裏には、どうしてもあの赤羽の団地の風景が浮かぶ。

本当に町を見下ろす、という感じで広がっているからだ。

 

宮本さんの心象には

若い頃から繰り返し眺めた風景が息づいていて、

焦燥や絶望と深く結びついていると、勝手に想像している。