私は20代の頃から、ずっと結婚に対して恐怖を感じてしまう。自分も母のようになるんじゃないかと不安になってしまうのだ。私にとって、いつまでも結婚の結末は母の姿なのだ。母の事を思い出す度に、私は家族なんてもう絶対に作りたくないと強く感じてしまう。母の存在が黒い影のようにどこまでも私に付き纏う。
それなのに、記憶の中の母の笑顔が時々私を惑わす。私がまだ小さい頃の母はとても幸せそうだったからだ。父と結婚して兄と私を産んだ。家族皆んなでよく父の趣味の釣りに付いて行った。誕生日には母が手作りケーキを作ってくれた。とても幸せそうにいつも、微笑んで私達を見守っていてくれた。
では、何故母は亡くなったのか?そんなにも、何に追い詰められていたのだろうか?育児ノイローゼや色々な原因があっただろう。だけど、一番は母の性格だろうと思う。とにかく優しくていつも相手の気持ちを優先してしまう。祖母や父に言い返す事が出来ない。そして、完璧主義で料理も掃除も何もかも頑張りすぎてしまう。頑張っているのに自分を認められずに自分をずっと責めていたのかもしれない。
私は、ずっと母のようにだけはなりたくないと思って生きてきた。専業主婦だった母、家庭から逃げ出せずに自死を選んでしまった。今思うと私はそうなるのが怖くて、必死で手に職をつけたのかもしれない。1人でも生きていけるように。
だけど、30代になった私は完璧主義でいつも頑張りすぎて自分を責めてしまっている。すぐにめそめそして、まるっきり母にそっくりなのだ。そして、今一緒にいるパートナーは自然が大好きで父にそっくりだ。あんなにも、
「家族だけは作りたくない」
と、強く思っていた私が今、その彼との結婚を考えている。
母は、私に一番してはいけない事を身体を張って見せてくれたと思っている。その悲しみは影のように私に一生纏わりついて、離れない。だけど、だからこそ私はどんな事があっても
「生きているだけでいい」
そう思えるようになった。それは、紛れもなく母のお陰なのだ。母が亡くなって20年以上経って思うことはいつだって、
「生きていて欲しかった」
それだけだから。私は母が乗り越えられなかった世界を、この目で見続けていたい。