「県庁おもてなし課」有川 浩 | co・co・ro・jiyu

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心に思い浮かんだことを、自由に書きたいなと思っています。

 「阪急電車~片道15分の奇跡」。たまたま以前読んだのが,有川氏のこの作品。本当に原作も映画もすばらしいと思った。

 

 そこで,「県庁おもてなし課」を購入する。県庁おもてなし課の一員の

主人公掛水を錦戸亮が演じ映画化されている。しかし,ずっと読まずにいた。今回やっとページをめくる。出版されて時間が経っていてしまい,今ではかなり行われている観光行政が,当時斬新なものだったんだんと思う。イナカであることを,生かそうとするのだ。

 

 小説の舞台になっているのが高知県。地形は山がち。交通が不便。遠い。何もない。でも,それだけに豊かな自然に恵まれる。美しい川

と海,ダイビングスポット。ホエールウオッチング。おいしい海鮮,柚子文旦,地酒。特に有名なのは,カツオのたたきと柚子。

 

 高知は歴史的には,フロンティア精神にあふれる幕末の志士で有名だ。彼らの足跡は,ミュージアムに行けば知ることができる。

 江戸末期,はるか遠く離れた高知から,大きな志をもって行動した

坂本竜馬,岩崎弥太郎,中岡慎太郎たち。彼らはイナカから日本を

変えようとし明治維新の礎となる。

 jジョン・万次郎もすごい。漁をする舟が嵐で漂流し,無人島にたどり着く。数人でのサバイバル生活の末,アメリカ船に救出される。万次郎は,アメリカ人船長のもと現地で英語で教育を受ける。

 恵まれた生活をしながらも,母に会いたい一心で,鎖国状態の日本に決死の覚悟で帰国する。江戸末期,最もネイティブな英語を話すことのできた日本人だった。

 彼の出身地である土佐清水市の港は,カツオ漁に出航する船で賑わう。元は貧しい家に育ったジョン・万次郎の長い波乱に満ちた冒険談が,ここに始まる。 

 

 おもてなし課の考える色んな企画に対し,県庁というお堅い壁が立ちはだかる。「何もない。けど光がある。」のキャッチフレーズで「るるぶ」を意識しながらの公式ガイドブック作り,情報ネットワークを作り,予算を通すなどスムーズにいかない。

 

 観光というのは,名所旧跡,街並み,絶景やグルメを楽しむこと。

それと共に訪問した先で空気感,風情,人情といったものを感じる。

印象に残るのが,いい事ばかりとは限らないが…。でも印象に残らない旅は,忘れてしまいそう。

 

 ラグジュアリーでなくても,絶景が見えなくても,木の温もりのある部屋に癒される。近くを散策し,澄んだ空気を吸ったり,清らかな川の流れの音を聞いたりするだけで清々しい気分になる。暮れゆく山の稜線をみると,一日が締めくくられるように思う。お風呂に入り地元の食材を生かした食事を味わう。イナカであっても十分楽しめる。

 

 「イナカ」を楽しむツアーに,今では日本人だけでなく,外国人観光客のリピーターが数多く参加する。日本の原風景を体験することができるというのが魅力。彼らも,どこか郷愁のようなものを覚えるのだろうか。