斎藤佑樹がプロを引退した。


僕の人生で誰よりも応援したプロ野球選手だった。







お互い18歳の春。

僕らは大学の同期で、同じ中国語の授業を選択していた。社会学と、あと一つ同じ授業があった気がする。


周りはソワソワしていて、あれハンカチ王子じゃね?っていう感じに、見えない壁を作ってた。


僕にとってはただの同い年だったし、席も近く小さな中国語の授業で、打ち解けるのに時間は要らなかった。


ミーハーとは縁遠い僕は、斎藤にとっても一緒にいやすかったと思う。

毎日つるむような仲じゃなかったけど、授業後などよく話し、自分が芸術の道に進みたいことを話したことさえあった。


人懐っこくて表情が豊かで、とても話しやすい友達だ。



当時の彼の人気は本当にすごくて、道を2人で歩いていると必ず声をかけられた。


それも老若男女から。


ただの学生だからサインはできませんって感じだったけど、求められる握手にはすべて笑顔で応えていた。


そんな老若男女に、隣にいた僕もおどけて握手をしようと手を差し出すと、


あ、いや、大丈夫です。って引いた感じで断られたものだ。



急な雨で、高田馬場駅まで相合い傘で帰ったことが一度ある。



その姿が女性週刊誌に撮られ、目を四角くぼかされた僕は斎藤の恋人?!として同性愛者に仕立てられた。


地元では笑われ、斎藤より先に「持ってる」人になったのだった。

目をぼかされても分かる人には分かるのだ。



そんなくだらないことが記事になる程、当時の彼の人気は凄かった。


SNSなどまだ全然発達してなくて、mixiがあったくらいのあのときに、足で稼ぐ記者たちがこぞってあらゆることを記事にしていた。



斎藤佑樹は実際、メディアで見るより体が大きくて、筋肉はハリがあって野球選手!という感じだ。

それはいま会っても変わらない。

お酒も飲まずタバコも吸わず、常に前を向いて頑張る姿に僕は背中を押されてきた。


怪我で力の入りにくい手でふるふる持つウーロン茶を、彼は笑いながら説明してくれた。つい数年前のことだ。



時折ふざけつつも根は真面目。

僕が多くの批判に落ち込んでいる時も、


俺に比べたら全然大したことないよって笑ってくれた。


たしかに、自分など彼の比ではなかった。



しかし彼の強さは先天的なものではない。

きっと何度も傷ついてカサブタが固くなったのだ。


その強さを、知ってほしい。

どれだけ辛い強さかを。


引退を表明してから労いの声が見受けられるようになった。単純にすごく嬉しく思う。



僕は彼のファンなので、彼が野球選手じゃなくなっても、彼の真摯な姿勢に心を打たれ続けるだろうと思う。


これまでも極力野球の話はしてこなかった。

野球関係以外の友達でいたかったからだ。



斎藤は怪我の辛さも知っているし、批判される苦しさも知っている。


挫けたことがある人の笑顔は素敵だ。

僕は本当に彼を強い男だと思う。


華のある人なので、今後どういう方向に行くか楽しみ。

どんな道に進んでも良いと思う。


ご飯の約束をしたので、

シーズンが終わるまで見守って、少し落ち着いたら焼肉で労おうと思う。


本当にお疲れ様。格好良かったよ。