黄花藤ラバナ -4ページ目

黄花藤ラバナ

キバナ様は
最愛の推しキャラ❦

✡15✡この気持ちに、名前を付けるなら⑤



 ✡✡✡



 あのね、とおずおずと

 サンタとトナカイのイラストが描かれた包み袋を俺様に渡してきた。

 まさか、と思い、鼓動が速まる中、包み袋からプレゼントを取り出す。

 出てきたのは、綺麗な色をしたアメジストのパワーストーンだ。

 何でも、日頃のお礼をしたくて、と慌てながら説明する菫の言葉に

 思わず困惑してしまった。


(マジ、か…………)


 だって、菫からクリプレを貰えるなんて、

 全く考えてもみなかったし。

 って言うより、俺様の為に

 こんなサプライズをしてくれたことが凄え嬉しい。

 そりゃ、喜ぶのは当たり前だろ?

 俺様にとって、人生初、好きな女から貰ったものなんだから。


「や、やっぱり、別のプレゼントを」


 男にパワーストーンをプレゼントしたことが気になってるのか、

 返して欲しそうに小さな手が伸ばされてきたけど、

 ダーメ、と言って、素早く左手首に付けた。


「有難うな、菫。大切にするぜ」


 紫は俺様の好きな色だからさ、と

 左手首に付けたアメジストのパワーストーンに軽くキスする。

 その際、女の悲鳴が響き渡ったけど、

 俺様は菫にしか眼中にねぇから、当然無視。


「ど……どう致しまして……」


 ちょっとたんま!

 恥ずかしそうにもじもじとする菫があんまりにも可愛すぎるぜっ!

 それと同時に『あの子、可愛いな』と言う男の、

 下心有りな言葉が耳に聴こえてきて、一瞬苛立ちを覚えた。

 冗談じゃねぇ、菫は俺様の大切な宝なんだ。

 お前らみてぇなスケベ野郎に菫を渡してたまるかよ。

 他の男に見せたくない一心で

 もう一度俺様の方に引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。


「き、キバナ君……?」


 抱き締められる行為に慣れてねぇせいか、

 未だに身体を強張らせてるもんな。

 大丈夫だ、とトントンと背中を優しく叩いてやると、

 それに安心したのか、俺様に身を委ねてきた。

 しまいにはすりすりと顔を擦り寄せてさ。

 ん゙……っ、ほんと可愛いよな、菫は。


「……なんで、抱き締めるの?」


「んー……菫ちゃんが可愛いことするから」


「ほえっ!? か、可愛いことってっ!?」


「ふふ……内緒」


 パワーストーン有難うな、と

 赤ん坊みたいに滑々な肌を堪能しようと早速頬をもみもみする。


「ち、ちょっと……っ、もみもみ」


「やだ、俺様の楽しみを取らないで」


 それでも、反論したいのか、

 両側の頬を大きく膨らませて見上げてきた。

 まるで、怒ったプリンみたいで、可愛いな。

 もみもみタイムが終わると、今度は頭ナデナデタイムに。

 すると、あんなにぷんぷんと怒ってた菫だったが、

 次第に表情が柔らかくなり、太陽みたいな眩しい笑顔を見せてきた。

 その笑顔にドキッと一際鼓動し、暫く見惚れてたけど、


「キバナ君、お顔赤いけど……大丈夫?」


「〜〜っ、だ、大丈夫だっ!」


 名前を呼ばれたことではっと我に返った俺様は

 咄嗟に菫から顔を逸らした。

 太陽みたいな笑顔を見ただけで、

 こんなにも動揺するなんて、我ながら情けねぇ話だよな?

 でも、──それだけ、菫のことが好きで好きでたまらねぇんだ。


「あのね、フライゴンにもクリプレを用意してるの。

 お家に帰ってたから、渡そうかなって」


「フライゴンも喜ぶと思うぜ」


 菫のことが大好きだからな。

 嬉しそうに目を輝かせる筈だ。


「更にクリスマス限定のプリンアラモードまであるんだ!」


「おいおい……いつの間に、買ったんだよ?」


「昨日!」


 帰ったら、一緒に食べようね、と屈託ない笑顔に釣られて、

 俺様も自然と笑みを零してた。



 ✡✡✡



 折角、菫からクリプレを貰ったので、

 出来れば、俺様もお返しがしたい、と家に帰りながら、

 頭の中でそう考えてたが、

 菫が喜びそうなものが中々思いつかねぇ。

 そもそも、こいつが欲しいものって何だろ? と

 モヤモヤした感情を抱えながら、家路に就くと、


「只今ーっ!」


「只今」


 最初の頃は只今を言うのがちょっと照れ臭かったけど、

 今となっては、当たり前のように言葉が出るし、

 葵さんや藤哉が出迎えてくれるから、凄え嬉しい。


「お帰りなさい、外は寒かったでしょ」


『フリャ〜!』


「寒いのは慣れてるから、平気だもん」


「何言ってんだよ? この間、嚔してたくせに」


「むぅっ! そう言うキバナ君だって、寒そうに首隠してるじゃんっ!」


「こら、痴話喧嘩しないの」


 葵さんに嗜められて、不服そうに両側の頬を膨らませる菫。

 因みに俺様は寒いのは大の苦手だ。

 ドラゴン使いと言うものもあるが、

 何でも、ガキの頃から寒がりで、よくブランケットに丸まってた、と

 育ての親であるリュウゲンさんが言ってたけ?

 流石に成人した今はそんなことしねぇけどな。

 だけど、こっちに来てからと言うものの、

 家族の温かさを思い出したお陰で、寒いって思わなくなった気がする。

 やっぱり、家族っていいもんだよな。


「菫、さっさと荷物置いて来いよ」


 フライゴンの散歩に着いて来るんだろ? と言うと、


「あ、そうだった! フライゴン、後で渡したいものがあるから」


 ちょっと待っててね、と

 甘えるように擦り寄せてたフライゴンにそう言い聞かせると

 フライゴンは分かったと言わんばかりに鳴き声を上げた。


「きゃあ〜っ、フライゴン可愛い〜っ!」


『フリャリャ〜!』


 その仕草に胸を射抜かれた菫は益々フライゴンにベッタリと抱き着く。

 ズルい。俺様だって、菫とベッタリしたいのに!

 すっかり、ヤキモチを妬いた俺様は無理矢理と言うより、

 最早強引にフライゴンから菫を引き離す。

 その光景を、あらあらと微笑ましそうに葵さんが見てた。


「フライゴンと構うのは、別に後でもいいだろ?

 それよりも、早く行こうぜ」


「むぅ~……」


 未だに剥れる菫だったけど、

 フライゴンにクリプレを渡すことを思い出して、

 慌てた様子で2階にある自室へと駆け上がっていった。


「もう……菫ったら、御免なさいね。

 全く気づいてないものね。キバナ君の気持ちに」


「ははっ……

 これでも、分かりやすくアピールしてるつもりなんですけど……」


 やっぱり、あれか?

 手っ取り早く『好きだ』って伝えた方が早いような気がするぜ。

 他の男に横取りされる前に。


「こればっかりは仕方ないわね……

 菫の鈍感さと天然は亡くなった主人にそっくりだわ」


「え? そうなんですか?」


 それは初耳だ。

 菫の天然と鈍感は父親譲りだったなんて。

 と言うことは藤哉の勘の鋭いのは葵さん譲りか?

 俺様が菫に好意を抱いてるの、すぐに気づいて、

 何かとアドバイスしたり、応援してくれるから。


「そうなのよ。

 あの人ったらね、私の好意に全く気づいてもくれなかったし……」


 中々振り向いてくれなかったんですもの、と

 嘆息に似た溜息を零してた。

 葵さんの話を聞いて、俺様は改めて思った。

 ──これは行動で示すより、絶対に言葉で伝えた方がいい、と。


「お待たせーっ! フライゴンのクリプレも持ってきたーっ!」


 さっき、自室に駆け込んだ菫が慌ただしく戻って来た。

 毎回思うけどさ、そんなに慌てなくてもいいのに。

 転んで怪我でもしたら、どうするんだよ?


「さて、慌てん坊のサンタ姫が来たことだし……、

 今から、散歩に行ってきます」


「気を付けて行ってらっしゃい。夕ご飯の時間までには帰って来るのよ」


「分かりました。ほら、行くぞ」


 葵さんに見送らながら、玄関を閉める俺様だが、


「ぶぅ~、私は慌てん坊のサンタクロースじゃないもんっ!」


「はいはい……」


 俺様からしたら、慌てん坊のサンタクロースみたいだけどな。

 そんな独り言を心の中だけで呟き、

 菫と一緒にフライゴンの散歩へともう一度出かけるのであった。