✡巡り合わせ② | 黄花藤

黄花藤

剣盾のキバナ様が推しで、
pkmn夢の小説を書き始めました。何卒宜しくお願いします

✡2✡巡り合わせ②


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 身を起こしたキバナさんは私の方を見るなり、

「おい、あんた!
 ベルデを知らねぇかっ!?」

 いきなり、そんなこと言われても、その前に“ベルデ”って誰?
 名前からして、女の子……だよね?

「い、いえ……そんな子、見てませんし……
 此処で倒れてたのって」

 キバナさんだけ、と一瞬名前を言おうとしたんだけど、
 今思えば、私とキバナさんは初対面だし、
 無闇に口に出すのは良くないかも。

「その……あなただけでしたよ」

「マジ、か……」

 キバナさんはこの様子からすると、
 どうやら、何かの弾みでこっちの世界に飛ばされてきたみたい。
 俗に言うと、トリップっていうものだよね?
 それにしても……、と私の目の前にイケメンを見る。
 ほえ〜っ、顔良すぎて、ヤバい! 流石顔面600族。
 モデルさんみたいで手足長いし、
 噂のヌメラスマイル見られるのかな?
 私はゲームでまだ見たことないけど、
 青果部門で働くポケ友ちゃんから聞いた情報によると、
 キバナさんは通常モードとバトルモードとのギャップがあって、
 それで、多くの女性の心を鷲掴みにしたとか。

(あ、文字も読めるのかな……?)

 そう言えば、私の言葉分かってたみたいだし、
 もしかしてと思い、バッグからスマホを取り出す。
 慣れた動作で指を動かして、
 今日の最新ニュースと書かれた記事をキバナさんに見せると、
 何だこれと不審そうに眉を顰めた。

「読めますか?」

「いや……初めて見るぜ。この文字」

 喋る言葉は通じるのに、日本の文字は読めないみたい。
 確かに、ポケモンの世界の文字は
 私から見ても、意味分かんないものだし、
 いつも、頭の上に?マークを浮かべてた。
 と此処で、肌に染みる冷たい風が吹いてきて、
 キバナさんが寒そうに身を震わせた。

「寒……っ、つーか、今何月だよっ!?」

「もうちょっとで、11月終わりますね」

「道理で寒い筈だ……」

 見てるだけでも、可哀想かも。
 首元に巻いてたお気に入りのマフラーを取って、
 どうぞ、とキバナさんに渡す。

「これ、あんたのマフラーだろ?
 俺様が使ったら」

「このぐらいの寒さは慣れてるので、ご心配なく。
 なので、あなたが使って下さい」

「レディに風邪でも引かれたら、流石の俺様も困るし」

 流石ガラル紳士。女性を最優先にしてくれるのは嬉しいけど、
 今はそれ所じゃない!

「大丈夫ですから!
 ほら、しゃがんでっ!」

 キバナさんの背が高すぎて、正直見上げるのが辛い。
 185cm以上はあるよね?
 ポケモン公式サイトで検索した訳じゃないし、
 正確的な身長なんて分からない。
 少なくとも、お兄ちゃんより高い気がする。
 意地でも私のマフラーを巻いて貰おうとしたら、

「分かった! 分かったからっ!
 その……有難く使わせて貰うぜ」

 私の鬼迫で観念してくれたのか、
 キバナさんの方が先に降参の旗を挙げて、
 マフラーを巻いてくれることに成功した。
 よしっ! 人生初、お兄ちゃん以外の男の人に勝ったっ!

「寒いの我慢するなんて……変な人」

「……あんたに言われたくねーよ」

 もうすぐで日が暮れるし、此処で出逢ったのも何かの縁。
 取り合えず、キバナさんをお家に連れて帰ろうと思ったら、

「流石に、見ず知らずの男を家に連れて帰ったら……、
 あんたに迷惑がかかるだろ?」

 警戒心が無さ過ぎって言いたいのかな?

「じゃあ、あなたはこんな寒い場所で、野宿するつもりなんですか?」

 夜になれば、この辺りは街灯の光しかなく、
 ましてや、雨風を凌ぐような場所すらもない。
 それとキバナさんには言わなかったけど、
 少し離れた場所に墓地が佇んでるから、
 余計に不気味さを増すんだよね。

「……あんたさえ、良ければ……、その…………」

「勿論。最初からそのつもりでしたよ」

 こんな寒い場所にキバナさんを置き去りにするなんて、
 余りにも可哀想だよ。

「あ、私、他の人より歩くの、かなり早いので、
 迷わずにちゃんと着いてきて下さいね!」

 さて、人助けしたことだし、さっさと家に帰らなくちゃ!
 途中まで歌ってた海賊アニメの主題歌を歌いながら、
 ご機嫌良く歩き出す。
 時々、立ち止まっては後ろを振り返ると、
 キバナさんは迷うこともなく、ちゃんと着いてきてる。
 良かった。これがダンデさんじゃなくて。
 あの人だったら、瞳をキラキラさせて、
 あちこちに行った挙げ句、
 特性の方向オンチを発動……なんて、有り得る。
 気になって、目が離せないよ。
 キバナさんはそういうことないし、
 これなら、と思ったんだけど、──すぐに問題発生した。

「…………おい」

「ほえ?」

 一瞬呼び止められたような気がして、肩越しで顧みたら、
 さっきまで、私の後ろにいたキバナさんだったんだけど、
 いつの間にか、距離が離れてる。
 あれ? おかしいなぁ。そんな早く歩いたつもりはないんだけど……。
 とことことキバナさんの所まで戻ると、

「……あんたさ、
 なんで、平気そうに坂道を歩いてるんだよっ!?」

「なんでって言われましても……、
 私は毎日この坂道を歩いてますからね。
 それより、大丈夫ですーか?」

「全然大丈夫じゃねぇよっ! 
 つーか、この坂道が異常過ぎるだろっ!」

 近くの石壁に手を当てて、荒い息を整えてるキバナさん。
 うわぁ、流石イケメン。何しても、許される。
 確かに初めて歩く人にとって、この坂は地獄だもんね。
 でも、別ルート歩いたら、もっと坂道続くし……。
 そう言えば、一度遊びに来たなっちゃんも
 この坂を見て、無理って嘆いてたな。
 因みにこの坂を上りきった先に私のお家があることを伝えると、
 もう歩くのが限界なのか、既にギブアップって訴えてる。

「だらしないなぁ……
 さては、乗り物ばっかりで移動してるでしょ?」

 ガラル地方にはアーマーガアタクシーがあった筈。
 私はそこまで物語を勧めてないし、
 いつから、乗れるかは知らないけど、
 先にプレイしてるお兄ちゃんに聞いたら、分かるかも。

「…………」

 私に図星を指されて、不貞腐れたキバナさんがぷいっと顔を背けた。
 なんか、そっぽを向くヌメラみたいで可愛いかも。
 仕方ないな、とキバナさんのおっきな手を取ると、

「もう少しで、お家に着きますので、
 それまで、頑張って下さい!」

 引っ張るように歩かせることにした。
 うん、我ながら、いい作戦だ。

「わ、分かったから! そんなに引っ張んなよっ!」

「ダメです! 私は早くお家に帰りたいんです!」

 キバナさんのペースに合わせてたら、
 完璧に日が暮れて、お家に着くのが遅くなって……、そんなのやだ!
 のんびりしてたら、ゲームで遊ぶ時間がなくなっちゃう。
 私には可愛いリオルをゲットして、
 推しポケであるルカリオへと進化させないといけない使命があるの。
 最初から、こうすれば良かったんだ、と
 ぶつぶつと呟きながら、急いで家路に就く。


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 何だかんだと言いつつ、
 日が沈む前に家に着いたのは良かったけど、
 そこでも、問題発生した。

「あらやだ、菫ったら! ついに彼氏を連れて来ちゃって!
 それも超イケメンじゃないっ!」

 お仕事から帰ってきた私を出迎えてくれたお母さんは
 隣にいたキバナさんに気づくと、そんなことを口に出して……って。
 そもそも、私に彼氏いるなんて話したこともないし、
 これにはちゃんとした事情があるんだから!

(……ほえ〜……どうやって、説明しよう……?)

 確かに、キバナさんみたいな男の人が
 私の彼氏だったら……、なんて、考えたりしたけど、
 pixivでよく見られるキバナ女子に刺されたら……?
 嫌々、そんな女子に会いたくもない!
 それより、先にこの状況をどうにかしないと……。
 悩んだ挙げ句、頼まれてたじゃが芋が入ったビニール袋を
 お母さんに押し付けると、
 早く、キバナさんを温かい家の中に入れなくちゃと思い、靴を脱ぐ。

「先に居間で待ってて下さい。私、荷物置いて来ますので」

「え? あ、ちょっと待てよ!」

 一瞬、階段を上りだした私を呼び止めたような?
 気にしない気にしない。
 逃げ込むように自室のドアを開けて中に入ると、
 今まで、冷静に保ってた糸がぷつんと切れちゃって、
 力尽きたかのようにへにゃりとその場に座り込んだ。

「……夢じゃない、よね……?」

 ほえええぇーっ、ホントにどうしようっ!
 あんなイケメンが現実世界にいるなんて、未だに信じられないよっ!
 自分の頬っぺたを指で抓んで、思い切り引っ張ると、
 余りの痛さで、ちょっと涙目になったけど、
 間違いなく、現実であることを証明された。
 はぅ〜、お母さんになんて説明しよう……?
 居間に行ったら、あれはアルセウスが見せてくれた幻で、
 キバナさんはもういませんでした〜。めでたしめでたし。
 それだったら、説明する手間が省けるんだけどな。
 ラフな格好に着替えた私は自室の外に出て、一階へと降りる。
 お母さんの弾む声がする。と言うことは……?
 恐る恐ると居間の障子を開けて、中の様子を窺うように覗き込むと、

「ねぇ、あの子とは何処で知り合ったのかしら?
 いつから、お付き合いしてたの?」

「えっと、…………その…………」

 うわぁ、お母さんによる質問攻め攻撃で
 キバナさん、タジタジになってる。
 これがポケモンバトルだったら、勝負有りと言いたい所だけど、
 余りにも可哀想だったので、
 バーンっ! と大きな音を立てて、障子を開けて、
 キバナさんを助けることにした。

「お母さんっ!
 そんなに質問攻めしたら、キバナさんが困るでしょっ!」

「何言ってるの?
 菫がこんなイケメンの彼氏を連れて来るから」

「これには海より深い事情がありまして……。
 とにかく、お母さんはあっちに行ってて」

「え〜っ、お母さん、まだイケメン君とお話が」

「はい! ご退場ーっ!」

 キバナさんと話したいと言うお母さんを
 無理矢理居間から追い出すことに成功、と思ったら、

「おい、菫。リオルが出る巣穴を見つけたからさ。
 お前も草バッジをゲットして、
 ヨーギラスをさっさと寄越…………はあ?」

 今度は医療事務のお仕事に務めてる、
 私より三つ上の藤哉お兄ちゃんが
 グレー色のSwitchを持って、居間にやって来た。
 あ、お仕事休みだったもんね。

「……おかしいなぁ…………。ゲームのし過ぎで、キバナが…………」

 キバナさんの存在に気づいたお兄ちゃんは
 一瞬、幻覚でも見たかのような表情を見せたけど……。
 そうだよね。誰だって、驚くよね。うん。
 これは、夢でなく現実です。

「お兄ちゃん、正真正銘本物のキバナさんだよ」

「はあああぁっ!? いや、ちょっと待てっ!
 なんで、現実世界にキバナがいるんだよっ!?
 マジでどうなってんのっ!?」

 そう言えば、言い忘れてた。
 お兄ちゃんは剣盾を始めたその日から、
 キバナさんに憧れを抱いてしまい、
 過去作の手持ちにドラゴンポケモンを入れる程の
 キバナ推しになったんだよね。
 そのお陰で、Switchのアルバムはキバナさんの写真や動画で一杯。

「……ほえ〜……説明するのが、面倒臭くなってきた…………」

 誰でもいいので、この状況を覆す方法を教えて下さい。