2021 夏 京都の旅20 勧智院 | 楢丁(YOUTEI) 旅の話

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趣味で書きためた旅日記が、膨大な量になりました。2020秋に脳出血、2023には食道癌を発症と、様々なことが起こりますが、克服してまた旅に出たいという気持ちは変わりません。
お付き合い頂けたらありがたいです。どうぞよろしく。

2021 夏 京都の旅20
勧智院

8/19(木)⑥
 勧智院は、今までその存在すら知らなかった。東寺の裏手にあたる場所といえばいいだろうか、行ってみると、付属の塔頭という位置づけになるのか、規模は東寺の境内から来ると小さく感じられるのは仕方がないが、建築は古いものだろう、素晴らしい風格である。


規模は大きくないが重厚な建築


 安土桃山時代、ねねの寄進によるところが大きい、というが、9世紀半ば、入唐した高野山の僧が青龍寺から持ち帰ったという五大虚空蔵尊が、数奇な運命を経て、ここに安置されていた。ボランティアガイドのおじさんがこれらを説明してくれたわけだが、この人の言葉にあった「唐宋」の頃、という表現は明らかにおかしく、9世紀半ばに持ち帰ったというのが正しいとすれば、「隋唐」の、というのがそれにふさわしいはず。


五大虚空蔵尊(WONDER国宝より転載)


 HPを見てみると「山科の安祥寺の恵運が請来したと伝えられ、学僧の賢宝が安祥寺から移して本尊としました。まさに密教教学の勧学院としての観智院にふさわしい智慧の仏です」とある。

 そこで安祥寺を調べてみたら、その経緯が書かれていた。それによれば恵運は9世紀半ばの密教僧、入唐の後、当時の皇太后の発願により山科の安祥寺を開創したというから、これは半ば国家的なプロジェクトだったということだ。創建当時は広い寺域を持ち、寺勢も盛んだったが、時は移って14世紀半ば頃には、すでに安祥寺は荒れ果てていたようで、14世紀末になり、賢宝がこの五大虚空蔵尊を東寺に運んで修復し、勧智院の本尊にした、という経緯らしい。これが重要文化財にとどまっている理由が、その修復にあったのだったか、そこはちょっとはっきりしないが、素晴らしい仏像であることは間違いない。

 

 

 ただし、仏像の様式は宋時代のものという情報もあって、このあたりは専門家の見解を聞いてみたいものだ。だからガイドさんは唐宋の、という表現を使ったか、という気もする。おおよそ寺社の伝承というのは古い方に傾きがちだから、9世紀中頃の時点で日本にもたらされた像ではない、ということは十分あり得る。

 「原色日本の美術 密教寺院と貞観彫刻」にはここの五大虚空蔵尊が紹介されていた。その解説では、9世紀半ばに唐からもたらされたことに疑問を差し挟むような記述は見られない。

 虚空蔵求聞持法を修法する、その一歩手前の修行に関することがどこかに書かれていたが、すでにどんなものだったか思い出せない。なにしろ、虚空蔵求聞持法というのは、ある条件下で真言を百万遍唱え、満行の暁には記憶力が驚異的に増進する、というものだ。それは並大抵のことではないはずだが、空海のことを考えると、そのような能力を獲得でもしない限り、たった2年の留学であれほどの業績を上げること自体、到底かなうはずはない、とは従来から考えていたことだ。このことを巡って、ガイドさんと少ししゃべったのだが、詳しい内容はすでに憶えていない。

 庭園はよく手入れが行き届いていた、という印象が残る。あるものは枯山水に近い様式、五重塔を借景にする庭もあり、さすが、と思わせた。

 

庭園はいずれもよく手入れされている


 その他にも、ここの障壁画等は素晴らしく、その中に宮本二天(武蔵)の描いたものがあった。この絵はかなり損傷がある、ないしは劣化が進んでいる印象があったが、武蔵は京都では、一乗寺下り松で吉岡一門と決闘していることもあり、報復を避けるためにその後、ここに匿われた、というガイドさんの解説だったように思う。

 

 その昔読んだ、吉川英治「宮本武蔵」のくだりが思い出されたが、これはNHK大河ドラマでも取り上げられた。しかし、あれは「通」に配役された米倉涼子が原作のイメージとあまりにもかけ離れていたのと、武蔵は若い頃の市川團十郎が務めたが、その過剰な演技に嫌気がさし、何話かで見る気を失ったのだった。

 

 

 更にずっと昔、やはりNHKで放映された、役所広司の武蔵はよかった。古手川祐子の「通」もはまり役だったが、脇を固めた奥田瑛二が存在感を放っていたのが思い出される。

 

 

 

 それはともかくとして、この勧智院には天井が紙張りの間があったが、そこは床下に入り込めない工夫が施されるなど、つまりは間諜が忍び込めないような設計になっていて、秘密裏の会談などの用途で使われることもあったのだろう、と想像された。



2021 夏 京都の旅21につづく