2015夏の北陸1
序章①
過去に何度か北陸へは旅をしたことがある。結婚する少し前にはふたりで金沢へ行った。途中でけんかになり、帰ってから必死に関係の修復を図ったのは今からすれば笑い話だが、金沢から五箇山に抜けるルートの途中で「銭がめ」に寄り、昼飯を食べたのはこのときだっただろう。確か1989年だったから、今からもう四半世紀以上も前のことになる。後に書いた旅行記の中に「回想」の形でその時のことが出てくるが、そこのところを抜き出しておく。
金沢の郊外に江戸村がある。日光のそれなどとは違って、いたって地味なところ、との記憶しかないが、ここから五箇山へ抜ける街道の途中に、「お食事」の看板を掲げる古民家があった。店の名前を「銭がめ」といったはずだが、ここへ立ち寄ったときのこと。
ご予約の方ですか、の問いに、いいえ、と答えたが、どうぞ、といわれるままに、囲炉裏端へと案内される。磨き込まれた柱といい、黒光りする梁の太さといい、まさに文化財級の建物だ。感心してあちこち見ていると、そのうちに料理が運ばれてくる。注文も聞かれていないのだが、次々と。いったいどうなってるんだ、と初めは思っていたが、今まで食べたこともないようなものが次から次へ運ばれてくるうちに、もうどうなってもいいや、という気持ちに変わっている自分が恐ろしい。
「銭がめ」の店内(トリップアドバイザーより転載)
少し後に若い二人連れが通されたが、予約とはあの人たちのことだったろう。
今思い出せるのはイワナの刺身と塩焼き、そして最後に出された桜のシャーベットくらいだが、このイワナは養殖ですか、の問いに、いいえ、これは天然物です。この近くの名人が釣ってきたものです、というやりとりがあったのは覚えている。
途中で、これは一緒に酒でも飲まなきゃ損だ、という気になってお燗の酒を2本ばかり頼んだのだろう。
しかし、常識的に考えて、こんなのありだろうか。何も知らずに昼飯を食べに立ち寄った二人連れだ。予算も聞かず、メニューも見せずにこれなのだ。
果たして、勘定は一人あたり6千円を超えていた。高いという感じがしなかったのが救いではあった。
※金沢江戸村は移転し、現在は金沢湯涌江戸村として再オープンしている。
2015夏の北陸2 序章②につづく