2019トルコ共和国9 カッパドキア1 | 楢丁(YOUTEI) 旅の話

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趣味で書きためた旅日記が、膨大な量になりました。2020秋に脳出血、2023には食道癌を発症と、様々なことが起こりますが、克服してまた旅に出たいという気持ちは変わりません。
お付き合い頂けたらありがたいです。どうぞよろしく。

2019トルコ共和国9 

カッパドキア1

 

10/28(月)①
 オプションの気球ツアーを選んだ客は、朝4:30に起こされる。それも、気球の上からご来光を拝むため、というからこれまた仕方がない。だから季節によってはもっと早い場合も想定されるわけだ。

 

 ロビーに集合すると、ピックアップの車が来たが、これが日本では見たことのない車種。大きめのミニバンといえば外れてはいないが、デザインからするとフランスかイタリアあたりの車かも知れなかった。揺られること30分くらいだったろうか、最後にはかなり坂を上り、何もない丘陵地で下ろされた。

 

              まだ暗いうち、こんなところで降ろされた。寒い!


 周囲はまだ暗く、照明代わりにつけられた車のヘッドライトの先にテーブルがあり、インスタントコーヒーや紅茶が用意されていたが、テントが張られているでもなく、風を防ぐ工夫もない。

 

 大方の人はトイレを心配して、飲み物には手をつけようとしなかったが、後から考えれば、どこかに簡易トイレの用意くらいはあったのだろう。このあたりは標高もかなり高いせいで、未明の気温は低い。防寒の用意はしてきているが、それでも冷えてくるのは避けがたく、こんなところで待つのかよ、と思ったがこればかりは仕方がなかった。普通に日本語が通じるという気配はなく、ちょっと不安を覚えるというのが、こういう場合にはむしろいい方に作用するのだろう。

 

                           ガスバーナーがたかれると、気球が明るく光る


 周囲には気球がいくつも据えられ、出発の準備に人々が忙しく立ち働いている。一緒の気球に乗る客は我々のツアーメンバーばかりではなく、英語圏から来た人たちも一緒だった。巨大なガスバーナーで暖気が送り込まれると、カラフルな気球が明るく照らされて膨らみはじめる。間近で見るとその巨大さに驚くが、何人もの人を乗せて宙に浮くのだから、そんなの当たり前だろう、という声が頭のどこからか聞こえてくる。バスケットは案外にも植物の蔓で編んだ籠である。十分にしっかりしているから不安はないが、オペレーターを挟んでおよそ10人ずつ、一つのバスケットに20人ほどが乗せられ、ゴーッというバーナーの音とともに、我々の乗った気球は宙に浮いた。

 

                   次々に宙に浮く気球


 みるみる高度が上がり、それとともにカッパドキアの異様な地形と奇岩が眼下に見えてくる。もうこうなってみると、怖いという気持ちなどどこかに飛んでいた。周囲には、まず無数と言っていいほどの気球が上がりはじめ、バーナーが点火されると、まるで電球がともったようにバルーンが明るく輝く。地上の奇観と相まって、もう表現しようのないくらい素晴らしい景観だ。陽が昇るにつれて周囲は明るくなり、天気は晴れといっていいが、東にかかった雲に隠れてご来光が拝めなかったのは残念。

 

                 雲がかかって残念!太陽は見えない


 出発前の日本で、気球体験のオプションをどうするか迷ったのは、料金が一人2万円ほどと、かなり高額に設定されていたからだが、今となってみれば申し込んでよかったという思いだけだ。朝が早くて寝不足だの、朝食ブッフェが食べたかったのに、小さいボックスになってしまっただのという、さっきまでの不満はどこへやら。


 操縦しているのは女性のオペレーター、さすがにたくましい感じの人だ。この人が話しているのは英語、この人を隔てて反対側に乗っているのが英語圏の客だが、この人たちはオペレーターの話に反応してノリノリだ。といって我々が沈んでいるというのではないが、そんな状態をちょっと羨ましい気持ちで見ている自分がいた。

 

 

                    中央左がオペレーター


 まさにキノコの形の岩や、川が削った地形、石灰質なのだろうか白く見える岩肌が連なる峡谷など、眼下にはもう絶景というしかない光景が広がるばかり。遠くには上が真っ平らのテーブルマウンテンが見え、あそこから浸食されたんだという様子が、はっきりと分かる。途中、高度を下げ、峡谷に降りていくなど、操縦の腕はなかなかのように見えた。近づいてみると奇岩に開いた(開けられた?)穴に扉がつけられているのが見え、住居として利用されているようなところもある。

 

                空中からの眺め。すっかり時間を忘れた


 時間の感覚が全くといっていいほど麻痺してしまい、どれくらい経ったかまるで分からなかったが、終いには出発点とは全く違う、家も疎らな畑地に向かった。オペレーターが無線で通信しながら、着地点を知らせ、そこに車が迎えに来るというシステムだが、見ていると、上手い具合に車の曳いている台車に、直接着地する気球もある。しかし、我々の乗ったそれは、地上間近で相当手こずった挙げ句、道から大分離れた畑の中に降りてしまった。

 

                よその気球は見事に台車の上に着地!


 彼女の操縦の上手い下手の問題なのかどうかは分からなかったが、こうなると迎えの車は大変、四駆の駆動力を以てしても、でこぼこの柔らかい土の中を進むのは難渋を極めた。大男が数人がかりで奮闘した挙げ句、何とか台車に載って一安心、と思いきや、土の傾斜に乗り上げて、あろう事か我々の乗ったバスケットは台車ごと横転!その瞬間、何が起こったのか分からなかった、というのが正直なところだが、延岡から夫婦で来ていたおじさんは、奥さんをかばって手を少しすりむいたみたいだった。群馬から来ているというおばさん二人のうちの片割れは、この事故で相当ショックを受けたようで、数時間経っても、まだ震えが止まらないという状態が続いていた。我々は幸い何ともなく、却って旅の思い出に残るハプニング程度に考えていたが、確かにあれで一歩間違えば、骨折くらいする人が出ても不思議はない。

 

              畑に降りた我々のバスケットは台車ごと横転!


 いち早くバスケットから脱出した俺は、証拠代わりに横転した模様を写真に収めておいた。ちらと頭をかすめたのは、後から保障問題が発生するかも知れないということだった。


 畑から歩いて道に出る途中、枯れ枝に残っていた小さなブドウの房を見つけ、口に入れてみたが、大変甘く、おいしい。粒が小さいところを見ると、ワイン用だろうか。しかし、とっくに収穫を終えた後だからいいようなものの、実をつけている季節はどうするのだろう、という疑問は残った。


 帰り道、車の中で朝食のボックスを開けてみたが、何だよという程度の中身で、食べる気が起きない。丸ごと入っていたリンゴはこの後しばらく持ってまわることになった。

 

 

2019トルコ共和国10につづく