六大将軍伝説

 

 

【284 第二次西部攻略戦(十八) ~新生クーロ軍Ⅱ~】

 

 

〔本編〕

「ロボ将軍、これは敵の罠です! すぐに全騎兵に追撃中止の命令を出して下さい!!」ロボの隣を駆けている現状分析が正確にできる冷静な兵が、将軍に大声でそう告げる。

「追撃を中止しろだと! ……ロボ大将軍と呼ばないか!」

 ロボが、その言葉に反駁した刹那、その兵の左の胸に矢が深々と突き刺さり、その兵はそれ以上何も語ることなく、ホースから転げ落ちた。リアンファの矢であった。

 追撃してくる敵の様子をつぶさに見聞きしていたリアンファは、こちらの作戦を妨げようとする優秀な敵騎兵を狙い、見事に射殺したのであった。

「おのれ! 一気に追いついて全滅させろ!!」ロボが大声で叫ぶ。

 ロボ軍の騎兵たちは、騎乗しているホースにさらに鞭をくれ、追撃の馬脚を強める。

 リアンファ率いる十五騎のホースハンター。新生クーロ軍において、先制攻撃に特化した騎弓兵部隊であった。

 彼らは、火薬と魔力量を飽和状態に押し籠めた砂利を、矢のお尻に当たる矢筈(やはず)に仕込んだクーロ軍専用の矢を用い、敵の想定外にあたる二百メートルという通常の弓兵の倍の射程距離から敵を射抜く。

 その上、厳しい訓練の賜物として、連射技能、さらに瞬時に方向転換が出来る程の高度な馬術、また身体を捻った状態から馬上で片足を抜くことにより、真後ろに矢を射かけるという達人並みの馬術も含めた高等な弓術などを身につけた。

 これらの技能(スキル)により、十五騎でありながら都合百近くの敵騎兵を屠(ほふ)り、さらにそのまま残りの敵騎兵を作戦通り、こちらの有利な地に誘導させることに成功したのであった。

 十五騎のホースハンターが最初の三連射を仕掛けてより約五分後、道幅にして騎馬が十騎ぐらいしか並走できない隘路(あいろ)へと、いつしかロボ軍は巧みに誘導されていったのである。

 

 さて、リアンファ率いるホースハンター部隊の行先に、あるものが用意されていた。

 城や砦の内側に設置することにより、侵入してくる騎馬の動きを封じることが出来る馬防柵であった。

 高さが二メートルを超えるこのような柵は、急ごしらえで用意が出来るものではない。既にクーロがこの地域一帯を調べ上げ、その場所の適正に応じ前もって用意させたものに間違いなかった。

 そこから分かるのは、クーロが十日前の五月二〇日にフォルミーカ地方のツィカーデ城を占拠してから漫然と時を費やしていたわけではないということである。

 むろんそれはロボが入城したシュメッター城を攻略する術が見出せなかったための停滞ではない。むしろ、無策ゆえに時を費やしていると思わせて、ロボをシュメッター城からツィカーデ城襲撃に動かすのが真の狙いであった。

 その敵の手に全く気付くことが出来なかったロボは、八千で入城したシュメッター城からわざわざ出陣しただけでなく、二千程駐屯していたシュメッター城地方軍のうち、一千五百を七千のロボ軍の歩兵と共にツィカーデ城に向かわせたのであった。

 フルーメス王国の西側にあたるフォルミーカ地方、ミュッケ地方、そしてエフェメロプララ地方の要(かなめ)に位置する堅城シュメッター城。まだ二千の兵が城内に籠っていれば、一万のクーロ軍を数か月はそこに足止め出来る。

 仮にクーロ軍がシュメッター城を落とさずに進軍する場合には、少なくとも三千程度の兵はそのシュメッター城を封じるために配置しなければいけなかった。

 そのような重要な拠点シュメッター城から兵を千五百も動かし、五百という小勢力にしてしまったのである。

 

 さて、十五騎のホースハンターは馬防柵が見えるや、一気にホースの速力を上げそのまま一列になるや、一番右側の馬防柵が配備されていない隙間から、馬防柵の内側へと走り去ったのであった。

 敵ホースハンターに一気に振り切られたロボ軍の騎兵は、前方の馬防柵に気付く。その馬防柵の内側に配備されていた弓兵がロボ軍目がけて一斉に矢を射かけたのであった。

 兵の数は四十人程。この弓兵を指揮していたのは、弓兵の指揮官の一人ソキウスであった。

 ソキウスは、先のホースハンターを指揮していたリアンファ同様、龍王暦二〇一年のエーレ城奪還戦の折、当時小隊長であったクーロに協力した、弓の小隊長四人のうちの一人であった。

 四人の弓の小隊長はその後、クーロの隊に正式に入隊するわけであるが、龍王暦二〇三年のバルナート帝國とのバクラの地での戦いにおいて、二人の弓の指揮官であるバンディレインブとヤキンソシュが戦死する。四人のうち、生き残った二人がリアンファとソキウスであった。

 ソキウスの指揮している弓兵は、ハンターやアーチャーといった弓兵のうちでも第二段階の兵種に相当する、まだそれほど戦いに精通していない下級の兵たちであった。

 それでもソキウスによって指揮されたハンターやアーチャーたちは、四十という数も手伝い、ロボ軍の騎兵に少なからず損害を与えた。

「馬防柵など一気に蹴散らせ! 馬防柵の内側の弓兵の攻撃はさほどのものではない。一気に柵と共に蹂躙しろ!」ロボが大声を張り上げ、一気に馬防柵へと突撃した。

 

 ロボ将軍率いる敵騎兵は馬防柵に突撃するや即座に柵を破壊した。

 しかし、敵が馬防柵を破壊する間に、四十人のソキウス率いる弓兵隊は、道の両脇にある木々の間に逃げ込んだのであった。逃げ込んだ場所は木が鬱蒼(うっそう)と茂っている森であったため、騎馬で歩兵を追いかけるのは非常に難しかった。

 それよりロボ軍はその場の馬防柵を徹底的に破壊した上で先へ進んだ。

 この馬防柵の破壊に十数分の時が費やされたが、後からここに到着する歩兵の大部隊のためにも、このルートを完全に確保しておくのは重要なことであった。

 しかし、前進したロボ軍の行く手にさらに馬防柵が設置されている。

「おのれ!」ロボは顔を真っ赤にして呻(うめ)いた。敵の足止めに心底うんざりしてきている様子であった。早くしないと、他の五獣将が先に敵の籠っているツィカーデ城に到達してしまう。

 ロボは味方にその馬防柵に突進することを命じる。彼はこの状況でも、まだ別の味方の将軍に先を越されることを一番恐れていたのであった。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)

 ソキウス(弓兵。新生クーロ軍弓兵部隊の長)

 バンディレインブ(クーロ隊の一員。弓兵。故人)

 ヤキンソシュ(クーロ隊の一員。弓兵。故人)

 リアンファ(弓兵。新生クーロ軍先制部隊の長)

 ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 エフェメロプララ地方(フルーメス王国領)

 シュメッター城(ミュッケ地方に建っている城。フルーメス王国東部地域における重要拠点)

 ツィカーデ城(フォルミーカ地方最東端の城)

 フォルミーカ地方(フルーメス王国領)

 ミュッケ地方(フルーメス王国領)

 

(兵種名)

 第二段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から二番目のランク。この称号を与える権限は町や村の長或いは地方領主以上の者が持つ。セカンドランクとも言う)

 アーチャー(第二段階の重装備の弓兵)

 ハンター(第二段階の軽装備の弓兵)

 ホースハンター(第三段階のホースに騎乗する軽装備の弓兵。騎弓兵(ききゅうへい)とも言う)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

 

(顛末)

 エーレ地方の戦い(ミケルクスド國からエーレ城を奪還する戦い。【039】~【062】を参照)

 バルナート帝國との戦い(バルナート帝國がバクラ地方に攻め込んだことによる防衛戦。【117】~【125】を参照)

 

 六大将軍伝説

 

 

【283 第二次西部攻略戦(十七) ~騎弓兵~】

 

 

〔本編〕

「ロボ将軍! 前方に騎兵です。敵で間違いないかと……」ロボの隣を駆けている現状分析できる兵が叫ぶ。

「おい、ロボ大将軍だ! 何、敵だと?!」ロボは、前方に目をこらす。まだ豆粒ほどの大きさではあるが、確かにこちらに向かって駆けてくる騎兵が目視できた。

 しかしその数は二十に満たない少勢であった。

「おい、脅かすな」ロボは笑いながら続ける。

「確かにこちらに向かってきている騎兵は確認できたが、あのような少数。たとえ敵としても恐れるに足らない。大方、俺たちにいち早く気付いた敵が降伏するためにこちらに向かって来ているのであろう。もう少し近づけば、馬を降りて地面にひれ伏すはずだ」ロボはそう言って、自軍の馬脚を緩めることをしなかった。

「しかし……、あっ、将軍。敵は普通の騎兵ではありません! 弓兵です。ホースハンター! 騎弓兵(ききゅうへい)です。矢を警戒してください!」

「臆病者が!」ロボの隣を駆けているもう一人の兵が、嘲笑うように呟く。

「あのような少勢、騎弓兵であろうと恐れる必要なし! それにまだ二百メートル以上距離がある。今射かけられても、我らに届くまでに矢が失速し地面に刺さるのがおちだ」

「その通りだ!」ロボも大言を吐く部下の言を受け入れる。

「それに距離が縮まり、仮に矢が俺たちに当たったとしても、次の瞬間、敵兵は俺たちによって蹂躙される。一、二本の矢を受けたからといってそれで倒れるような奴は、俺の部下にはいない! 先ずは前方の兵どもを撃破しろ!」

『おお!!』ロボ軍の騎兵が一斉に雄叫びをあげた。

 勇猛な将の下には勇猛な兵が付き従うお手本のような軍勢であった。ただ、将の性格に色濃く染まった猪突猛進の集団ではあったが……。

 前方の二十弱の騎弓兵が一斉に矢を射る。その矢はロボ軍の想像を超え、高速で迫り、前方の騎兵十騎を一撃で倒した。

「馬鹿な! まだ矢が届く距離ではないぞ!」ロボ軍の兵が慌てふためき、口々にそう叫ぶ。

 その時には、騎弓兵たちから二射目が射られ、さらに距離が縮まったことで脅度を増した矢が、さらに十人以上のロボ軍の兵を射殺した。

 そしてそれらの兵たちが倒れた時には、間違いなく敵であるその騎弓兵たちは三射目を射ており、既に百メートルの距離にまで縮まったロボ兵たちは、矢を射抜かれた時その勢いで後方に吹っ飛び、後ろの兵に激突し、その兵がその勢いで落馬するほどの威力の攻撃を受けた。

 

「ふっ。敵はかなり慌てているな」十五騎のホースハンター(騎弓兵)を指揮している指揮官がボソッと呟く。

「リアンファ様! 敵との距離が百を切りました!」クーロ軍の弓兵リアンファに向けて、そう部下が叫ぶ。

「よし、反転!」リアンファのこの言葉に、リアンファを含む十五騎のホースハンターは馬(ホース)の手綱を思いっきり引っ張る。

 既に兵と馬間でそのような訓練が徹底されているのであろう、手綱を引っ張られたホースは十五頭とも大きく前脚を上げ、馬体を左に捻り後脚だけで百八十度方向を転換させる。

 転換と同時に前脚で地面を強く蹴った十五頭のホースは、見事に百八十度左転換を成し遂げ、そのままいままでと逆の方向に駆け始めたのであった。その時間わずか二秒。

 

 さて、馬は最高速度として時速五十キロメートルは出せるが、それでは五分程度しか走れない。今回のようにある地点に急行進軍している場合、そこで戦いがいきなり展開されることも考慮すると、せいぜい時速二十キロメートル程度の速力で駆けるのが一般的である。

 時速二十キロメートルであれば、一秒間に五メートル強、二秒で十一メートルぐらい移動できる。

 今回のケースではホースが二秒で反転しているので、兵の手綱を引っ張る初動から考えても、倍の四秒程度で逆の方向に駆け始めることが可能である。

 これではロボ軍の騎兵との距離が百メートル未満になったとしても、わずか四秒では二十メートル強しか距離が縮まらないので、クーロ軍の十五騎の騎弓兵はロボ軍の前からまんまと離脱することができたのであった。

 二百メートル以上の距離から矢を射ることが可能な上に、目の前で瞬時に反転して敵から離脱できるホースハンターの脅威度について、冷静に考えれば、それらを追いかける行為は愚の骨頂であると気付くものであるが、ロボはこの三連射の攻撃で、頭に血が一気に昇り、普段から血の気の多い性格のこの将軍が、ここで追撃を踏みとどまるというのはどだい無理な話であった。

 千に対し十五という圧倒的な兵力差も今回はフルーメス王国側に負(ふ)に作用した。

「奴らを絶対に逃がすな!」このロボの言葉が全てを物語っていた。

 

「敵騎兵が追撃してきます」リアンファが指揮しているホースハンターの一騎が、リアンファにそう伝える。

「よし、しばらくは今にも追いつけそうな体(てい)を演じるか」リアンファが含み笑いしながら、そこにいる十四騎にそう告げる。

 この兵たちが騎乗している馬(ホース)は、ジュリス王国産のヴェルト大陸最高峰のホースである。

 従って、リアンファたちがその気になれば、敵を一瞬で置き去りにすることが出来るほどの馬脚と瞬発力を有しているホースたちであった。

 しかし、あえてロボ軍の騎兵が全力で駆ければ、あるいは追いつくことが出来るのではないかという駆け方をリアンファたちは、ホースに演じさせたのであった。

 ジュリス王国産のホースは、そういった戦術的な動きを騎乗している兵の思惑を察し、実行できるほど優秀なホースなのであった。

「よしそろそろ仕掛けるか」一分ほどそのような追撃戦を演じていたリアンファが皆にそう伝える。

 リアンファがそう言った瞬間、リアンファを含む十五騎のホースハンターは弓に矢をつがえ、後方に身体を捻りながら、追撃してきている後方のロボ軍の騎兵たち、めがけて矢を射かけたのであった。

 決して苦し紛れの一射ではなく、明確に敵の急所を狙った上での一射――まさに狙撃であった。十五の矢は全てロボ軍騎兵の眉間や喉元を射抜き、十五の矢で十五の騎兵を射殺したのであった。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 リアンファ(弓兵。新生クーロ軍先制部隊の長)

 ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)

 

(兵種名)

 ホースハンター(第三段階のホースに騎乗する軽装備の弓兵。騎弓兵(ききゅうへい)とも言う)

 

(その他)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

 

 六大将軍伝説

 

 

【282 第二次西部攻略戦(十六) ~ロボ強襲~】

 

 

〔本編〕

「三方の侵攻ルートの地形なども考慮して、二時間後には三軍ともこの城に到達するという具合か……。さてどうする?」クーロのこのような問いに、そこにいる他の四人も含み笑いの表情で黙っていた。

「……確かにこのままこの城にとどまっては、二時間後に三方の敵二万三千の包囲を受け、数時間を経ずに我が軍は全滅しているでありましょう。ここにとどまっていればの話ですが……」ヨグルがそう呟く。

「そうか。ではこちらも動くか」クーロの言葉。

「敵にとっては想定外ではありますが……」ヨグルがそう呟く。

「五獣将の底が知れましたな。確かに我らがここにとどまれば三軍による三方向からの包囲が可能ではありますが、少なくともまだ包囲の形にはなっていません。我が軍がここから動かないことを前提での包囲であって、我が軍がどの方向か全軍で動けば、数の上では我らの方が上。三方向包囲が一気に各個撃破の様相に転じます。既に全軍動ける状態にはなっております」カナリーノのこの言葉にクーロは大きく頷く。

「既にどの軍を狙うかは自明とは思われるが、パインロ先生のご意見は……」

「北が八千、東が八千、南が七千なので、本来であれば一番軍の規模の小さい南を狙うのが常道ではありますが、北と南の敵の侵攻ルートは今の今まで確定していませんでした。しかし東の敵は、シュメッター城からこのツィカーデ城への最短ルートを進むのは既に分かっており、そこの地形も把握した上で、兵も各拠点に伏せてあります。従って、東のロボ軍を攻めるのが最良でありましょう」

「さすがはパインロ先生。それではここにいる兵は既に一万をきっているということになりますが……」

「一千の兵を伏兵として既に動かしております。地形からみるに、もっと伏せさせることも可能でしたが、もしロボ軍がこちらに動いてこない場合、我が軍は伏せた兵を除いて戦わなければならないことになりますので、あえて効果を上げるに最小限の一千の伏兵とし、九千はどの方向にも動けるように考えました」

 クーロはパインロのこの言葉に大きく頷き、そして立ち上がる。

「これより我が新生クーロ軍は、東方のロボ軍を撃破する! これは新生クーロ軍単独の戦いとしての初陣といえる戦いである。我らの力を敵味方に広く知らしめよう」

 このクーロの言葉に残りの四人も立ち上がり、それぞれの役割を全うするためこの場を後にした。

 

 フルーメス王国ミュッケ地方のシュメッター城から出発したフルーメス王国五獣将の一人ロボ将軍が率いる軍は、フォルミーカ地方の最東端の城であるツィカーデ城に全速力で進軍している。

 ロボ軍は総勢八千。そのうち騎兵に当たる兵が一千で、残りの七千は歩兵であった。

 ツィカーデ城に全速力で進軍しているため、騎兵が先行し、歩兵がその後を追う形となっている。

 シュメッター城から進軍を始めて一時間が経過しているので、先行している騎兵は後三十分でツィカーデ城に到達することになる。

「ロボ将軍! 我が軍が三軍中一番先行しているようであります。この勢いで一気に敵クーロ軍に強襲を仕掛け、瓦解させましょう」ロボ将軍と共に駆けている騎兵が、興奮しながらロボ将軍にそう語りかける。

「おい、ロボ将軍ではない、ロボ大将軍だ! それに瓦解ではない、殲滅だ!」ロボ将軍本人が哄笑しながら、自分に話しかけた騎兵にそう指摘する。

「これは申し訳ございません。ロボ大将軍閣下」指摘された騎兵も笑いながらそう謝った。

 一応、謝りはしたが悪びれた様子は全くなく、二人して軽口をたたきあっているのは誰の目から見ても明らかであった。

「レアオン大将軍の軍も、チグレ大将軍の軍もツィカーデ城には向かっているようではありますが、我らの軍がその二軍より二十分は早くツィカーデ城に到達すると思われます。一番槍の手柄はロボ大将軍閣下のもので間違いないです」

「おい、レアオンとチグレに大将軍の呼称は不要だ! 五獣将とは銘打っているが、実際に大将軍の実力を持っているのは俺様だけなのだから……。まあ、そうは言っても一応は友軍ではあるので、少しは手柄を残しておくかな」

「そうですね。ただロボ大将軍、少し騎兵が先行し過ぎているように思われます。このままでは騎兵のみでツィカーデ城を急襲することになってしまいますが……。敵クーロ軍は一万と報告がありましたので、さすがにもう少し歩兵が追いついてくるのを待つべきではないでしょうか」ロボと共に駆けている騎兵のうち、別の一人がそうロボにそう意見を述べた。最初の騎兵よりは冷静に現状を分析できる者のようであった。

「それは無用だ!」ロボはその意見を真っ向から否定する。

「敵は将軍になったばかりの若将である。一万の兵を擁していると謂っても、ツィカーデ城に到達してから十日もそこから動いていない。本来であればすぐにこの周辺地域の要(かなめ)であるシュメッター城を攻め取らなければならないのに、それすら出来ない小僧だ。大方、シュメッター城を攻略する糸口が見つけられず、ツィカーデ城で延々軍議を開いている間に、我らの強襲を受ける羽目になり、さらにどうすれば良いのか分からなくなっているに違いない。そのような敵に対し、我が歩兵と足並みを揃える必要は一切ない! 我ら一千が敵を蹂躙している間に、歩兵が追いつき止めを刺すという流れで全て終わる。心配するな! それに歩兵を待っている間に、レアオン軍かチグレ軍が先にツィカーデ城に到達してしまったら、俺の一番槍がふいになる。何、俺たちが負ける心配など無用だ。案外、敵は俺の強襲に恐れおののき、俺たちがツィカーデ城に到達する頃には大方の兵が逃亡しているかもしれないからな」ロボ将軍はそう言うと、また大声で笑った。

 

 

 

〔参考一 用語集〕

(人名)

 カナリーノ(ルーラの義妹。新生クーロ軍で軍運用の役割を担う)

 クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)

 チグレ(フルーメス王国五獣将の一人。虎将(こしょう)の別称をもつ)

 パインロ(クーロの弓の師。新生クーロ軍親衛部隊の長)

 ヨグル(クーロの付き人。新生クーロ軍運搬補給部門の長)

 レアオン(フルーメス王国五獣将の一人。獅子将(しししょう)の別称をもつ)

 ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 シュメッター城(ミュッケ地方に建っている城。フルーメス王国東部地域における重要拠点)

 ツィカーデ城(フォルミーカ地方最東端の城)

 フォルミーカ地方(フルーメス王国領)

 ミュッケ地方(フルーメス王国領)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 

 

〔参考二 大陸全図〕

 

 六大将軍伝説

 

 

【281 第二次西部攻略戦(十五) ~新生クーロ軍Ⅰ~】

 

 

〔本編〕

 さて、クーロがオルカ将軍の副官タンランと会談し、オルカ将軍の帰順を了承したのが、龍王暦二一二年五月二二日。この二日前の五月二〇日に、クーロ軍はフルーメス王国領フォルミーカ地方の最東端にあるツィカーデ城を落とした。

 さして規模が大きいわけでもなく守りにもあまり適していないツィカーデ城は、クーロ軍によって半日と持たずに落城し、これでフォルミーカ地方のほぼ全域が聖王国領となったに等しい状況となった。

 ただ、このツィカーデ城から西に三十キロメートル程度のところにシュメッター城という城があり、この城は建っている位置から言うとミュッケ地方であるが、ほぼフォルミーカ地方、ミュッケ地方、エフェメロプララ地方三地方の境界線上に近いところに建っていることから、フルーメス王国東部の要(かなめ)と位置付けられている城であり、当然のことながら堅城に分類される守りに非常に適した城であった。

 

「参謀部からの報告です!」クーロ軍参謀部門のフォルが口を開く。

 場所はフォルミーカ地方最東端の城、ツィカーデ城のクーロが執務をとる一室。今、その部屋に五人の人物が集まっていた。クーロ、カナリーノ、パインロ、ヨグル、そしてフォルであった。

 この五人は、クーロが将軍になって組織化された新生クーロ軍の頭脳を司(つかさど)る部門、参謀部門の中心人物である。

 実際に参謀部門として機能する場合、この五人以外に手足として動く者たちはいるが、この五人がその中枢(コア)に当たる部分であった。

「二日前にあたる五月二四日、ここから西方三十キロメートルに位置するシュメッター城にフルーメス王国五獣将の一人、狼将(ろうしょう)ことロボ大将軍が八千の軍を率いて入城いたしました」

「八千か。一國の大将軍が率いる軍としてはかなり少ない気もするが……」ヨグルがフォルの報告にそう感想をもらした。

 ヨグルは、クーロが龍王暦一九五年に十歳でマデギリークの養子となってから付き人としてずっと付き従ってきた人物で、現在五十七である。参謀部の一人であり、クーロ軍の補給部門の長として補給運搬についての中心人物である。

「國の規模から考えて致し方ないかと……。フルーメス王国は小国で、我が國の三分の一の人口規模しかありません。具体的に言いますと、フルーメス王国は三百万人の人口規模であるため、兵の動員は六万から、総動員したとして九万が限界。またフルーメス王国には組織上、五人も大将軍がいるため、自ずと大将軍といえども動員出来る兵は一万に満たない八千ということになるのでありましょう」ヨグルの疑問に答えたのはカナリーノであった。

 カナリーノは元々ルーラの義妹であり、クーロが新生クーロ軍を構築するにあたり、ルーラ軍から移籍した女性指揮官である。カナリーノは現在二十七歳であった。

 

「報告を続けます」フォルが話を続ける。

 フォルは現在三十二。十二年前の龍王暦二〇〇年、クーロの初陣の際、伝令としての能力を発揮し、その後クーロの隊にずっと所属している最古参の兵の一人である。現在は師匠的存在であるジャオチュウの下で、クーロ軍における重要部門の一つ諜報部門において活躍している。

「シュメッター城に入城したロボ大将軍の軍勢とは別に、ここツィカーデ城の北方三十キロメートル付近に、五獣将の一人、獅子将(しししょう)ことレアオン大将軍の軍八千が陣を構えており、それとは別にツィカーデ城の南方三十キロメートル付近に、五獣将の虎将(こしょう)ことチグレ大将軍の軍七千が同じく陣を構えております」

「成程、ここツィカーデ城の西方を除く三方に敵の軍勢がいるということか」パインロがそう呟いた。

 パインロは弓の名手として名をはせており、クーロの初陣の際に出会った縁(えにし)から、クーロが自軍に招いた。クーロの弓の師匠として、クーロの人生に大きな影響を与えた人物の一人であり、現在三十七である。

「……このまま、この五獣将の三軍がここツィカーデ城に進軍してくるのであれば、我が軍は三軍によって包囲されるというわけか。我らが一万に対し、敵は三軍合わせれば二万三千。この城に籠城しようにも城の規模から一千の兵しか籠ることが出来ず、兵糧にしても遠征している我らの方が少ないであろう。どうやら我らはこのツィカーデ城を枕に倍以上の敵兵の前に全滅が必至というわけか」クーロが他の四人に向けて、そう呟くように言い放つ。

 しかしクーロを含め、ここにいる五人に全く憂いの表情はなかった。

「……と、敵が思って動いてくれれば良いのだが……」クーロが続けてそう呟いた。

「あっ、今ジャオチュウから新しい報告が入りました!」フォルの言葉。

 フォルは、諜報部門の長ジャオチュウと以心伝心の術という魔術を一切用いない特殊能力でお互いの意思を伝えあうことが出来る。

 魔力を一切介さないので、魔術による妨害や干渉を受けないというメリットがある反面、個人がもともと持っている特殊技能であるため、ジャオチュウと以心伝心が出来るのは、聖王国内であってもフォルぐらいしかいないというデメリットもある。

 しかしそのデメリットを差し引いても、あらゆる妨害をものともせず、瞬時に情報を共有できるのは神から与えられた奇跡的な能力であるのに間違いなかった。

「五獣将の三将は、こちらが故意に流した情報から、自分たちが我ら一万を包囲していると思い込んだようであります。北方、南方のレアオン軍とチグレ軍はここへ進軍してきております。そしてシュメッター城にわざわざ入城したロボ軍も全軍を率いてこちらへ向かっております。どの軍も我が軍をこのツィカーデ城で包囲できるものと信じて疑っておりません。……それどころか他軍の遅れをとるのは、自分たちの沽券かかわるという気持ちから、最速でここに向かってきております。当然、陣形どころか、騎兵と歩兵の足並みすら揃っていない状態であります」

 

 

 

〔参考一 用語集〕

(人名)

 オルカ(元フルーメス王国の将軍、聖王国に帰順。東西統一コクーン地方の地方領主)

 カナリーノ(ルーラの義妹。新生クーロ軍で軍運用の役割を担う)

 クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)

 ジャオチュウ(パインロの友人。新生クーロ軍諜報部門の長)

 タンラン(オルカ将軍の副官)

 チグレ(フルーメス王国五獣将の一人。虎将(こしょう)の別称をもつ)

 パインロ(クーロの弓の師。新生クーロ軍親衛部隊の長)

 フォル(新生クーロ軍諜報部隊の伝令役。ジャオチュウと天耳・天声スキルが出来る間柄)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。大将軍)

 ヨグル(クーロの付き人。新生クーロ軍運搬補給部門の長)

 ルーラ(クーロの妻。将軍)

 レアオン(フルーメス王国五獣将の一人。獅子将(しししょう)の別称をもつ)

 ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 エフェメロプララ地方(フルーメス王国領)

 シュメッター城(ミュッケ地方に建っている城。フルーメス王国東部地域における重要拠点)

 ツィカーデ城(フォルミーカ地方最東端の城)

 フォルミーカ地方(フルーメス王国領)

 ミュッケ地方(フルーメス王国領)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 副官(将軍位の次席。率いる軍組織は特に決まっていない)

 

〔参考二 大陸全図〕

 

 六大将軍伝説

 

 

【280 第二次西部攻略戦(十四) ~オルカの帰順~】

 

 

〔本編〕

「ミケルクスド國への降伏はない! そして東方面について、我がフルーメス王国が領土を取り戻せる可能性がほとんどないとしたら、我らの取るべき道は一つになるが……」

「オルカ様のお考えの通り、ソルトルムンク聖王国に降伏されるのがよろしいかと……」サルサールがそう答えた。

「実際に西方面のミケルクスド國も聖王国によって侵攻されるわけであるから、場合によってはこのコクーン地方の周りは全て聖王国の領土となる可能性が高いでしょう。私も聖王国に降伏――いえ、帰順するのがよろしいかと思われます」これはタンランの言葉である。

「我らの拠り所とすべきは、聖王国一択という結論に落ち着きそうだな。それでどのタイミングが良いか? タンランの言った『帰順』という形が最善ではあるが……」このオルカの結論にタンランとサルサールは顔を見合わせて、クスリと笑う。

「オルカ様は最初から『聖王国への帰順』一択でお心を決められていたように思われますが……」タンランが代表してオルカにそう尋ねる。

「まあ、だいたいの大筋はそうではあるが、それでもお前たちの意見も聞くべきとは思った。お前たちが聖王国への帰順に賛成でないなら、別の道を探るつもりではいた」

「いえ、オルカ様のおっしゃる通り聖王国へ帰順するのが最善と思われます。何といっても聖王国、ミケルクスド國、フルーメス王国と三國を比べた場合、統治しているそれぞれの王の器の大きさに違いがありすぎます。むろん王の器の大きさにより、そこに仕えている者の器や能力についても良い方向に比例します。オルカ様の能力を十二分に生かせる聖王国へ帰順するのが最も良いでありましょう」サルサールのこの言葉に、オルカも大きく頷く。

「それでは聖王国に帰順するとして、誰を介して帰順するのが最も適当であろうか?」

「これは自然の流れからいって、現在フルーメス王国に侵攻しているクーロ将軍を介して帰順するのが良いと思われます。クーロ将軍は穏やかな性格の上、年齢もオルカ様に近い若き将でありますので……」

「タンランの言う通りでしょう」サルサールも同意する。

「私はそこに加えて、今回の副将に当たるルーラ将軍にも同様に帰順の話を持っていった方が良いかと……」

「タンラン、サルサール、お前たちは私の意向を十分に理解している良き家臣だ。よし方針は決まった! すぐにクーロ将軍とルーラ将軍のお二人に聖王国へ帰順したい旨の書簡をしたためよう。二人はその書簡を持ち、それぞれの将軍に直接手渡し、帰順の約束を取り付けてくるよう。クーロ将軍とルーラ将軍お二人の約束を取り付けたタイミングで私はコクーン地方を束ねる。これでコクーン地方は聖王国領となるため、フルーメス王国侵攻軍であるクーロ軍の背に聖王国オルカ軍という味方が新たに誕生する。そのためクーロ軍は、心置きなくフルーメス王国の切り取りに専念できるようになるであろう」

「成程! これでオルカ様は敵に負けて降伏した敗残の将ではなく、聖王国に進んで帰属した客将という扱いになりましょう。これは本当に最良でありますな。フルーメス王国で不遇な扱いを強いられていた我らにとってもこれは有難い方向に物事が進むでありましょう」サルサールが喜ぶ。

「しかし、クーロ軍が我らを全く疑いもせず、単純に受け入れるでしょうか? それと、フルーメス王国攻略が成った暁に、我らを裏切り者として処分するなどの行動を起こす可能性は……?」タンランのこのような杞憂も尤もなことであった。

「そこは私にとっても賭けとなるが、実はあまりそれは憂いてはいない」

「「何故ですか?」」二人の副官が同時に尋ねる。

「ブーリフォン聖王、そして王が認めたクーロとルーラ。これらの者がそのような邪推を抱き、姑息な手段を弄する者たちであったなら、聖王国は一度奪われた領土をここまで奪還できていないはず! その上、聖王国の将来にも明るい未来はないと断言できる。私が今まで見聞してきた情報などから、そこは信じるに値する人物たちであると言い切れよう」

 こうして一辺境のコクーン地方から、有能な人物がまた一人、聖王国陣営に加わったのであった。

 

 

「分かりました、タンラン殿。オルカ将軍の聖王国への帰順、確かに承りました。よしなに将軍にお伝えいただきたい」クーロは、フルーメス王国オルカ将軍の副官タンランにそう告げる。

「はい、早速のお聞き入れありがとうございます」タンランはそうクーロに答えたが、正直拍子抜けする程簡単にクーロは、オルカ将軍の帰順を受け入れたのであった。

 タンランがオルカ将軍の書簡を持ってきた旨を、クーロのいる本陣に伝え、クーロの元に通され、彼がオルカの書簡に目を通し、彼女の帰順を了承するまで、時間にしてわずか二時間程度であった。

 ……否、タンランがクーロの前に通されたのが三十分前であったということから、あまりに早いクーロの決断と言わざるを得なかった。

 これにはタンランの方が、何かクーロ側にオルカを陥れるような罠を考察しているのではと、逆に帰順を申し出た立場でありながら、相手を疑いたくなるくらいであった。

「クーロ様、我が上官オルカの降伏を受け入れていただいた上で、このような疑問を投げかけるのは不躾(ぶしつけ)とは思いますがお許し下さい。我が上官の降伏を了承されるのが、非常に早いと思われるのですが……」

「これは失礼いたしました。あまりに私の了承が早すぎて、逆に疑惑を生じさせてしまいましたか……」

「はい。了承はありがたいのではございますが、想定外の早いご決断だった故……、お許し下さい」タンランは、詫びは入れたが、それでも疑念は払しょくさせたいとの強い思いからの問いであった。

「オルカ将軍は、私と同様にルーラ将軍にも書簡と共に副官をお遣わしになられたようでありますが、そのルーラから三時間前に副官のサルサール殿と会ったこと、その上でオルカ将軍の帰順を受け入れることを強く望む。そう二時間前に魔兵による伝達の術などを駆使して、ルーラが私に伝えて参りました。その話を私が聞いてすぐに貴殿(タンラン)の来訪を部下が伝えてきたという次第でありました……」

「成程。それで合点がいきました」タンランの胸にあった疑惑は氷解した。その上で、上官オルカの深慮に改めて納得させられた。

「改めて御礼申し上げます。我が上官オルカの降伏を了承いただき……」

「タンラン殿! オルカ将軍の今回の行動を、私は降伏とは考えておりません」

「……」

「降伏は敵に攻められた際の、選択肢の非常に狭い受け身の行動。今回のオルカ様の行動は、選択肢がまだいくつもある上で、聖王国を選ばれた行動。それは“降伏”ではなく“帰順”であると私は考えております。これについては、ルーラも同意見でありました」

 タンランはクーロのこの言葉を聞き、オルカ将軍の帰順への判断が、時期や人選、全てにおいて最善であることを改めて実感させられたのであった。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 オルカ(フルーメス王国の将軍。東コクーン地方の地方領主)

 クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)

 サルサール(オルカ将軍の副官)

 タンラン(オルカ将軍の副官)

 ルーラ(クーロの妻。将軍)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 コクーン地方(ミケルクスド國とフルーメス王国の国境にある地方。西側がミケルクスド國領、東側がフルーメス王国領である)

 

(その他)

 副官(将軍位の次席。率いる軍組織は特に決まっていない)

 

 六大将軍伝説

 

 

【279 第二次西部攻略戦(十三) ~オルカと副官~】

 

 

〔本編〕

「つまりはこのコクーン地方の東西両方面の戦況を見極めるために、ここでの戦いを長引かせているというわけだ」副官のサルサールがそう補足した。

「両副官の言う通りだ。このコクーン地方の戦いを早々に終わらせ、コクーン地方を一つに統一してしまったら、この地に、事情次第では攻め寄せてくる新たな軍隊が生まれてしまうからだ。タンラン、皆に簡単に説明せよ!」

「はっ、オルカ様! ……現在の状況については皆も理解できていると思うが、聖王国のクーロ将軍率いる連合軍が我が國フルーメス王国のフォルミーカ地方に攻め込んだことにより、この東コクーン地方は完全にフルーメス王国から孤立した状況になった。クーロ軍はあえてこの東コクーン地方に侵攻しなかったことで、この東コクーン地方をミケルクスド國がクーロ軍の背を攻めるに当たっての楔(くさび)としたのだ。……なので、ミケルクスド國領の西コクーン地方と我らが戦っている間であれば、聖王国としては背後から攻められる憂いがないため、東側のフルーメス王国の軍勢にだけ集中出来る。しかし、オルカ様がコクーン地方を仮に統一してしまったら、聖王国からすれば自分たちの背を攻めることが出来るフルーメス王国軍が生まれてしまうということになる。この対処に聖王国クーロ軍は我らの方にも軍勢を差し向けてくるであろう。つまり、我らを攻める聖王国軍が新たに誕生してしまというわけだ」

「タンランの説明の続きは俺が説明しよう」そう言ってサルサールが続いて説明をする。

「聖王国とミケルクスド國もこれから戦端を開くことになるが、ミケルクスド國としてもコクーン地方の東西の戦いが続いている限り、聖王国領のバラグリンドル地方から南下してくる聖王国軍にだけ集中できる。こちらについてもコクーン地方をオルカ様が統一してしまうと、ミケルクスド國からすれば、南方である背後に味方ではないフルーメス王国軍――つまりは我らオルカ軍が単独で存在する事態となる。そしてそのオルカ軍は状況によっては、南下する聖王国の動きに合わせて、北上する可能性があるとミケルクスド國側は考え、結果、ミケルクスド國も聖王国との戦いに手一杯の状態でありながらも、我らを攻めるミケルクスド國軍を南下させる事態にもなってしまうというわけである。この状況は最悪の場合、それぞれの背後の脅威――つまりは我々を早々に取り除こうと意図する聖王国クーロ軍とミケルクスド國軍という両軍からの迎撃の憂き目にあってしまうというわけだ。つまり結論は、このコクーン地方戦という茶番は終わらせないことが必要不可欠というわけだ!」

 オルカの家臣たちは、二人の副官からの説明で、ここでの戦いを長引かせている理由に皆納得した。早々にコクーン地方を統一してしまった方が、より強大な敵を生み出してしまうという不思議な矛盾を感じつつも……。

 

「さて、今のところはこの状態で戦いを推移させるとして……」オルカ将軍が、二人の副官にそう呟く。

 他の家臣全てにそれぞれの指示を与えた後、オルカが副官タンランとサルサールの二人を自らの私室に招いた。これは根幹となる重要な事柄を決める際の、オルカ将軍のやり方であった。

「さて、二人に尋ねる。……どのタイミングでコクーン地方を統一させるか? ……そして我らが生き残るためにどこを拠り所とするか?」この二点について、オルカは二人の副官に意見を求めた。

 意見を求められたタンランとサルサールの二人の副官は互いに顔を見合わせる。そしてタンランが先に口を開く。

「むろんそれは聖王国の侵攻の推移により、侵攻されたミケルクスド國と我がフルーメス王国の今後の状態にも寄りますが……」

「そうだな。それでは一つずつ整理して考えよう」オルカは二人の副官を交互に見ながら、話を続けた。

「まずは、我がフルーメス王国が聖王国のクーロ軍を撃退した場合、この場合は今孤立しているこのコクーン地方が再びフルーメス王国本国と地続きになるということだが、この場合は……」

「そのような兆候が見えたタイミングでコクーン地方を全てフルーメス王国領として統一してしまえばいいだけの話で、至極簡単かと……」サルサールがそう答える。

「コクーン地方を一つに束ねて、そのままフルーメス王国と地続きになるのを待てば良いだけだから、確かに、ことは単純だな。タンランはどう思う」

「サルサールやオルカ様がおっしゃる通りかと……。しかし、そうなる可能性は低い、……否、それは百に一つぐらいの可能性しかないでしょう」オルカ将軍はタンランの答えにニヤッと笑う。

 美しすぎるオルカ将軍のそのような笑いは、小悪魔による魅惑の笑顔のようで、タンランは思わず頭を下げ、オルカから目線を外した。まるで自分がその魅惑に囚われるのを防ぐかのように……。

「タンランの見解によると、我がフルーメス王国の勝率はかなり低いとのことだが、サルサールはどう思う」

「私もタンランと同意見です。オルカ様ならいざ知らず、無能の五獣将共では今の聖王国の侵攻を食い止めるのが精一杯、とても聖王国軍を破り、フルーメス王国領全てを取り戻すことは不可能でありましょう」

「二人とも手厳しいな。それではここコクーン地方は我がフルーメス王国領としてはいつまでも孤立した状態が続くというわけだな。それでは東方面は聖王国領で、コクーン地方がフルーメス王国領としては孤立している状態として、西方面はどう見る。……侵攻してくる聖王国をミケルクスド國が撃退した場合から考えるか? その場合は、ミケルクスド國と東コクーン地方が接した形で戦いが終わるわけであるから、ミケルクスド國に降伏するか?」

「それでは我々は良くて奴隷扱い、悪ければ全員命を失いましょう」タンランが顔を上げ、オルカにそう言った。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 オルカ(フルーメス王国の将軍。東コクーン地方の地方領主)

 クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)

 サルサール(オルカ将軍の副官)

 タンラン(オルカ将軍の副官)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 コクーン地方(ミケルクスド國とフルーメス王国の国境にある地方。西側がミケルクスド國領、東側がフルーメス王国領である)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国領)

 フォルミーカ地方(フルーメス王国領)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 副官将軍位の次席。率いる軍組織は特に決まっていない)

 

 六大将軍伝説

 

 

【278 第二次西部攻略戦(十二) ~東コクーン地方の領主~】

 

 

〔本編〕

 さて、ソルトルムンク聖王国の第二次西部攻略戦という大規模な戦いの中にあって、一地方における小規模な争奪戦が展開されていた。

 その地方とはコクーン地方。先の聖王国のバラグリンドル地方攻略戦の戦いの中において、東西をミケルクスド國とフルーメス王国の二國によって二分させられた地方である。

 このうち西側のミケルクスド國の領地にあたる地には、分断される以前のコクーン地方の地方領主であったプッペが治めている。

 その元々コクーン地方出身者という地元叩き上げの地方領主プッペの悲願を、聖王国のルーラがうまく利用して、東側のフルーメス王国領のコクーン地方に攻め込ませた件(くだり)については既に述べている。

 ミケルクスド國南部六地帯の総督であったエンテ将軍からすれば、このプッペによる独断のフルーメス王国領コクーン地方への侵攻によって、聖王国の今回の侵攻に対し、ミケルクスド國とフルーメス王国が共同して聖王国と戦うという思惑を根底から崩されたわけであった。

 それでもエンテ将軍にしてもコクーン地方の地方領主プッペにしても、コクーン地方に攻め込みさえすれば、簡単にミケルクスド國の手に全土が戻ると信じて露ほども疑っていなかったのである。

 しかし実際にフルーメス王国領の東コクーン地方に攻め込んだプッペは、東コクーン地方攻略に思いのほか手こずった。……否、手こずるどころか、逆にミケルクスド國領である西コクーン地方が逆に攻め込まれるぐらいであった。

 コクーン地方は元々全てがミケルクスド國領であったため、このプッペ軍の苦戦は、コクーン地方を知り得る者全てにとって意外過ぎる戦況となっていたのである。

 これは謀略を仕掛けたルーラにとっても、嬉しい誤算といえるほど意外な戦況であった。一人のとある人物とその人物の取り巻きである少数者を除いて……。

 一人のとある人物――、それは三年前にあたる龍王暦二〇九年一月、聖王国によるバラグリンドル地方攻略がなされた後、フルーメス王国領東コクーン地方を治めるために、地方領主として就任した人物、フルーメス王国のオルカ将軍その人であった。

 

「オルカ将軍。敵がまたこちらの罠に嵌り、結果、敵の一部隊が壊滅いたしました。敵将は馬鹿ですか?」フルーメス王国領東コクーン地方の地方領主オルカ将軍の副官が、笑いを堪えながらそう報告する。

「タンラン、いくら敵でもそこまで馬鹿にするのは失礼だ。相手はたかだか辺境の一地方の地方領主。オルカ様はフルーメス王国の馬鹿王の不興を被り、今でこそコクーン地方という辺境の指揮官をなされてはいるが、実力で言えばフルーメス王国随一の将軍。比較するのが酷というものだ!」オルカ将軍のもう一人の副官が、タンランという名の副官の言葉に、こちらは全く笑いを堪えることなく、そう言い放った。

「サルサール、お前は少し私を買いかぶり過ぎている。私はフルーメス王国大将軍位の五獣将の選から漏れるぐらいの凡将の一人。アナトラ王の特命を断り、その不興を被ったとはいえ、東コクーン地方の地方領主ぐらいが身の丈にあった任務と心得ている」

「オルカ様、心にもないことを……」これは副官タンランの言。

「オルカ様の将としての実力は、あの馬鹿王であるアナトラが自らの自尊心を満たすために作った馬鹿指揮官の集まり――五獣将など足元にも及ばないぐらいのものです。それにあの馬鹿王の特命とは、オルカ様に将を辞めて、自分の妻になれといったこと。それをオルカ様は、『私は将として王と母国を支えとうございます。その命に従うのはご容赦下さい』と丁重ではあるが、要は馬鹿王アナトラを振ったわけだ。その後、プライドをズタズタにされた馬鹿王の手から逃れるためにオルカ様は、ちょうど聖王国がミケルクスドのバラグリンドル地方を攻略しているどさくさに紛れて、この辺境のコクーン地方に転戦したと聞いております。馬鹿王もその後、落ち着きを取り戻し、重臣の勧めもあって、オルカ様を東コクーン地方の地方領主に任命したというのが本当のところではございませんか? オルカ様」

「確かに俺も噂程度でしか聞いていなかったが、それが真実だと思っている」もう一人の副官サルサールも納得したといった表情であった。

「お前たち、そのような馬鹿な噂をまともに受け取るな!」

「いえいえ、オルカ様は確かに将としての実力は、他国の大将軍級の人物と肩を並べられるぐらいのもの。これは自国に限らず、他国も認める厳然たる事実であります。その上……」副官のサルサールは続ける。

「オルカ様は、このヴェルト大陸で一、二といえるほどの美貌(びぼう)の持ち主。オルカ様のお父上の身分が低く、さらに自分の後を継ぐ男子が生まれなかったことが原因で、オルカ様を軍人として育てられましたが、美貌でいえば各国の王妃と比べて全く遜色がないほど。アナトラ馬鹿王が、オルカ様の将としての國の役割を捨てさせ、自分の妻としたいという気持ちは分からぬものではありません。同じ漢(おとこ)として……」

 

「ところで……」しばらくしてオルカの副官の一人、タンランが真面目な顔をして、この美貌の指揮官に尋ねた。

「いったいいつまで、このような茶番のような戦いを続けるおつもりですか? オルカ様の実力であれば、数日でコクーン地方を全て手中にすることが可能であるものを……」

 それについてオルカが微笑みながら答える。

「茶番のような戦いか……。確かに数日と言わず三日もあればコクーン地方全土を手に入れることは可能だが、急げばそれだけ兵が失われる。ミケルクスド國の西コクーン地方の主城コクーン城は、そこそこ難攻な城であるから、力攻めは避けたいところだ。もう少しコクーン地方の各地点にコクーン城から兵を動かして、手薄になったところでコクーン城を落とそう。うまく敵将のプッペ殿を城外で討ち取るか、生け捕りに出来ればいいのだが……」

「理由はそれだけではありませんよね。オルカ様」オルカの答えにニヤニヤ笑いながら、もう一人の副官であるサルサールが口を開く。

「そうだな。後はソルトルムンク聖王国が侵攻してる我が國の領土での戦況次第というところだな。それにもう一つの聖王国の侵攻先であるミケルクスド國南部の情勢も見極めてから動く必要があるな」

「聖王国とミケルクスド國との間にも戦端が開きますか?」これはオルカの二人の副官以外の家臣の言である。

「戦端が開くに決まっている! ミケルクスド國南部六地帯を治める総督であるエンテが馬鹿でない限り……」副官のタンランがオルカに代わってそう答えた。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 アナトラ王(フルーメス王国現王)

 エンテ(ミケルクスド國三将軍の一人。南部六地帯の総督)

 オルカ(フルーメス王国の将軍。東コクーン地方の地方領主)

 サルサール(オルカ将軍の副官)

 タンラン(オルカ将軍の副官)

 プッペ(ミケルクスド國領コクーン地方の地方領主)

 ルーラ(クーロの妻。将軍)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 コクーン城(コクーン地方の主城。ミケルクスド國領側にある)

 コクーン地方(ミケルクスド國とフルーメス王国の国境にある地方。西側がミケルクスド國領、東側がフルーメス王国領である)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国領)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 ミケルクスド國南部六地帯(ミケルクスド國が南北に分断された際の南側の六つの地方のこと)

 

 六大将軍伝説

 

 

【277 第二次西部攻略戦(十一) ~エンテの決意~】

 

 

〔本編〕

「しかし、その四拠点の貸与要請を断るということは、それは即、聖王国と我がミケルクスド國が交戦状態になるということで間違いありませんね」ここまで話を聞いていた副将の一人、ティフォンニー将軍が口を開く。

 ティフォンニー将軍は、まだバラグリンドル地方がミケルクスド國領であった時、聖王国のバラグリンドル地方攻略に際し、バラグリンドル地方の主城バラグリンドル城に籠った人物である。

 結局、バラグリンドル城は聖王国軍によって落城するが、その後バラグリンドル湾を守る二つの城のうちのロボルプス城に入城し、聖王国軍を散々苦しめたのであった。

 ロボルプス城も最終的には落城するが、いずれにせよ聖王国軍を散々手こずらせた優秀な将軍であった。それでも、バラグリンドル地方における二回の落城はティフォンニー将軍の軍歴の中では汚点とされ、ミケルクスド國の王都イーゲル・ファンタムに戻れば、そのまま暗君ツァイトオラクル王の手によって処断されてしまうであろう。

 そのため、二つに分断されたうちの南側であるミケルクスド南部六地帯の総督府でエンテ将軍の副将を務めることとなったのであった。

「ティフォンニー将軍のおっしゃる通り、拠点貸与要請を断れば、すぐにでも我が國は聖王国と交戦状態となりましょう。そして、聖王国はその状況になることを見込んでの今回の要請であるので、開戦の準備に怠りはないでしょう」エンテ将軍の腹心プラデラがそう答える。

「……それでは、拠点貸与要請を受け入れ、逆にそれぞれの拠点に到着したガルニャ将軍や、ヌイ将軍を捕らえてしまうというのはいかがでしょうか? 軍港や城に多くの兵を予め潜ませておけばそれが可能かと……」

「それも当然、聖王国は想定しておりましょう」ティフォンニー将軍の提案に、今度はレオパルドゥス将軍が答えた。

「……プラデラ殿、具体的な拠点貸与要請に我が軍の兵の貸与は含まれておりますか?」

「いえ、レオパルドゥス将軍。貸与要請は拠点のみです。兵も兵糧を含む軍備も、一切聖王国側で準備するので、拠点のみをお貸いただきたいとの要請であります。それぞれの書状には、一時的とはいえ貴国(ミケルクスド國)の拠点をこちらの事情でお借りするので、それは何とも心苦しいとのこと。それでもこちらの事情もご理解いただきたいと記されておりました。その上で拠点貸与以外は一切、貴国(ミケルクスド國)のご負担にはならないよう努めたい。そのため、兵も軍備も全てこちら(聖王国)で賄(まかな)う。そして、後日その四つの拠点の一時貸与料並びにヌイ軍が貴国の領土を通った際の迷惑料として通行料を、即ミケルクスド國の王都イーゲル・ファンタムへお支払する。その上、自分たちの誠意を少しでも示すために南部六地帯の四つの拠点の守備や整備、さらには貸与期間における貴国の四拠点の民への迷惑料については、食糧などですぐその場で賄うと申し出てきております」

「思った通りだ! その要望をそのまま受け入れれば、我らは四つの拠点どころか、南部六地帯を近い将来、全て聖王国に差し出すことになろう。一戦すら交えずに……。この要請では、聖王国は最初に大軍を四つの各拠点に送り込み、その後大量の軍備と食料を送り込むことでしょう。そして我らミケルクスド國兵を四つの拠点の中枢から全て締め出したところで、ガルニャ、ヌイといった将軍や幹部クラスの指揮官が入城あるいは入港することでありましょう。つまりティフォンニー将軍のおっしゃられた手は一切使えないということになります」プラデラの説明に対し、レオパルドゥス将軍がそう結論付けた。

 

「この南部六地帯は、聖王国と戦わない限り、生き残る道はないということである!」エンテ将軍が幹部たちを前にそう言い切る。

「それでもこの件は、すぐにバッサート将軍に伝え、外交を通じて聖王国に遺憾の意を示し、引き続き外交折衝は続けてもらう。ただ、ガルニャ水軍並びにヌイ軍がここ南部六地帯に侵攻してくるには当然間に合わないので開戦は如何ともし難いが、それでも戦いが膠着状態に陥れば、外交によって再び休戦に持ち込めるなどといったことも起こらないとも限らない。プラデラ! すぐにこの件を王都にいるバッサート将軍に伝えるよう」

「承知いたしました。魔兵を通じて、すぐに中央のバッサート将軍に伝えます」

 そう言うとプラデラは部下を呼び、素早く指示を与えた。

「私はバロン将軍にこのことを伝え、北方から軍で牽制していただくよう依頼しましょう」

 そう言ったのは、元バロン十将の筆頭であった副将のレオパルドゥス将軍であった。

 レオパルドゥス将軍は、ここ総督府の副将になる前は三将軍の一人――バロン将軍の部下。それも最も優れた十人の重臣――“バロン十将”の筆頭将軍であったため、バロン将軍の右腕的存在であったといっても過言ではない。

「バロン将軍に北から聖王国領に侵攻していただくよう進言いたしましょう。これで攻め寄せるヌイ軍の背後が脅かされることとなり、南部六地帯での戦いが膠着状態に陥れば、自然とヌイ軍は撤退しましょう。場合によっては、リノチェロンテ、ピカバウ地方といった元ミケルクスド國領であった領地の奪取も可能でありましょう。私は自らの軍を率いて、ヌイ軍が最初に現れると予想されるキコーニア地方のキコーニア城に赴きましょう」

「おお、レオパルドゥス将軍。キコーニア地方に出張っていただけるか。それは助かる。私もパイホ城に入り、ヌイ軍を牽制しよう」エンテ将軍のこの言葉に、レオパルドゥス将軍は大きく頷いた。

「レオパルドゥス将軍がヌイ軍に対処するのであれば、私はスターグ港とベゾクロ港に軍を二分して、ガルニャ将軍の襲来に備えるとしよう。どうやら聖王国の南部六地帯も強引に獲得しようと目論見、逆に大いに兵力を損なう結果となるでしょう」ティフォンニー将軍が、海洋側の防衛を自ら進言した。

「今、我らが出来ることはこれ以上なさそうだな。聖王国が既に攻め込んでいるフルーメス王国の方の戦況如何ではあるが、フルーメス王国も自国最強の五獣将なる者たちを派兵している。決して楽観できる状況ではないが、皆で死力を尽くし、南部六地帯を死守しよう。これ以上、聖王国の好き放題にさせてはならない!」

 エンテ将軍が最後にこう結び、軍議は散会した。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國三将軍の一人。南部六地帯の総督)

 ガルニャ(ソルトルムンク聖王国の将軍。水軍の長)

 ツァイトオラクル王(ミケルクスド國現王)

 ティフォンニー(ミケルクスド國の将軍)

 ヌイ(ツヴァンソの夫。将軍)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 プラデラ(四隊長の一人)

 レオパルドゥス(ミケルクスド國の将軍。元バロン十将の筆頭将軍)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 キコーニア城(キコーニア地方の主城)

 キコーニア地方(ミケルクスド國領。ミケルクスド國南部六地帯の一つ)

 スターグ港(ナセコーモ地方の主要な港)

 パイホ城(パイポ地方の主城であり南部六地帯の総督府)

 バラグリンドル城(バラグリンドル地方の主城)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国領)

 バラグリンドル湾(バラグリンドル地方の西側にある湾)

 ピカバウ地方(ソルトルムンク聖王国領。元ミケルクスド國領)

 ベゾクロ港(ソチーンカ地方の主要な港)

 リノチェロンテ地方(ソルトルムンク聖王国領。元ミケルクスド國領)

 ロボルプス城(バラグリンドル湾にそびえる城。狼(ロボルプス)の名を冠している)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)

 バロン十将(バロンに仕える十人の将軍のこと)

 ミケルクスド國南部六地帯(ミケルクスド國が南北に分断された際の南側の六つの地方のこと)

 

 六大将軍伝説

 

 

【276 第二次西部攻略戦(十) ~総督エンテの苦悩(続)~】

 

 

〔本編〕

「それで、聖王国の将軍からの書状とは、いったいどういう内容のものですか?」

 尋ねたのは、ここ南部六地帯総督エンテ将軍の副将の一人、レオパルドゥス将軍であった。

 レオパルドゥスは元々、三将軍の一人バロン将軍麾下の一人で、バロン十将というバロン将軍麾下の最も優れた十人の将のうちで、最も優れている筆頭将軍の地位にあった人物である。

 しかしこの南部六地帯の総督としてエンテ将軍が就任した際、レオパルドゥスも三将軍の一人バッサート将軍の要請を受け、バロン将軍の元を離れ、新三将軍エンテの副将となったのである。

 当然バロンはこの要請に対し最初は頑なに拒んだが、最終的にはバッサートの要請を受け入れたのであった。

 ミケルクスド國存亡の危機的状況であったということについて、バロンも一定の理解を示し受け入れたわけではあったが、近々、バッサートは三将軍の職を辞し、その後釜にレオパルドゥスを就けるという条件が、非常に魅力的であったのは間違いなかった。

「プラデラ! レオパルドゥス、ティフォンニー両将軍に二通の書簡の内容をかいつまんで伝えよ!」エンテが、腹心の四隊長の一人、プラデラにそう促す。

 エンテが一般の将軍時代からの四人の腹心である“四隊長”または“死隊長”という異名を持つ四人のうちの一人であるプラデラであるが、今はエンテが大将軍の一人である三将軍となっているので、四隊長という呼称はいささか役不足の感はある。最も今は四隊長のうち二つが空席なので、四隊長という言葉自体が既に死語かもしれない。

 エンテも一時期は、四隊長のうち二人が倒れた直後にプラデラの部下二人を四隊長に昇格させ、その枠を埋めていたが、その二人も短期間の間に相次いで命を落としていることから、エンテも実力が伴う者が現れるまで、その四隊長の空いた枠を埋めることはしなくなり、結果今の今まで二人が欠けた状態での四隊長であった。

 ちなみに四隊長の最初の倒された二人のうち、一人はツヴァンソによって倒され、もう一人が倒れるきっかけを作ったのがクーロであった。さらに言うとその後補充された四隊長の新しい二人を倒したのもツヴァンソであった。

 

「それでは両将軍に今回の書状の内容について、簡単に説明させていただきます」プラデラは、レオパルドゥス、ティフォンニー両副将に語る。

「二通のうち、一通はソルトルムンク聖王国のガルニャ将軍から、ガルニャ将軍は聖王国水軍の最高司令官であり、我らがバラグリンドル地方を失うきっかけの一因を作った将軍でもあります。ガルニャ将軍からの書簡の内容は、フルーメス王国侵攻にあたり、水軍を用いて海洋から攻めるため、同盟国である我が國の港をその拠点として一時借り受けたいとのことであります。さらに書状には具体的な港まで記されておりました。スターグ港とベゾクロ港の二港であります」

「スターグ港、ベゾクロ港というと……」

「そうです。ここ南部六地帯のうちのナセコーモ地方のスターグ港と、ソチーンカ地方のベゾクロ港のことです」

 レオパルドゥスの呟きに、プラデラはすぐに答え、さらに続けた。

「どちらもここミケルクスド國南部六地帯における主要な軍港であり、この二港を一時的とはいえ聖王国に貸すということは、南部六地帯の海洋部分の大半を聖王国に握られることになります。……そしてこれに合わせるかのように総督府に届けられたもう一通の書状、それは現在バラグリンドル地方に駐屯している聖王国のヌイ将軍からです」

「ヌイ将軍! 十将の一人オルソを倒した者だな!!」

「はいレオパルドゥス将軍、そのヌイ将軍からです。その書状の内容は、今回の聖王国のフルーメス王国攻略に当たり、友軍であるクーロ将軍の後詰を本国から直接仰せつかったとのこと。フルーメス王国が大将軍級の五獣将を派兵するという情報を得たことにより、緊急の援軍としてフルーメス王国領に向かえとの聖王国聖王からの勅命であるとのこと。そのため、同盟国である我がミケルクスド國の領内を通る許可をいただきたいとの内容でありました。そして同時に一時的な拠点として、キコーニア城とルーチョン城を貸していただきたいとの要請も、書状には併せてしたためられておりました」

 ここでプラデラは、巨大な馬皮紙を広げる。その馬皮紙はミケルクスド國のうちの南部六地帯が記されている地図であり、そこには四つの赤いバツ印が大きく記されていた。

「二つの書状から一時貸与の要請がありました四つの拠点を、赤いバツ印で示しました。キコーニア城もルーチョン城も南部六地帯内陸側の地方――キコーニア地方とルーチョン地方のそれぞれの主城、どちらも我らにとって非常に重要な拠点であります。これに先ほどのガルニャ将軍からの書状で貸与を要請されているスターグ港とベゾクロ港、この二港は南部六地帯の海洋部のナセコーモ地方とソチーンカ地方のそれぞれの主城に勝るとも劣らない重要拠点、否、海洋部分を抑えるという戦略的な意味合いから考えますと、むしろナセコーモ地方とソチーンカ地方のそれぞれの主城以上に重要な拠点! この四つの拠点を一時的とはいえ、聖王国に全て握られるのは、この南部六地帯の中枢部の大半を抑えられた……否、奪われたと同義であります!」

「聖王国の今回の侵略戦の目的は……」ここでエンテが口を開く。

「フルーメス王国への侵攻だけでなく、ここミケルクスド國南部六地帯の制圧も含まれている。それは間違いない! 今回の二通の書状が同時に我らの元に届けられたのは、決して偶然ではない!!」エンテは一度ここで話を区切った。

 その間、誰も口を開かない。それでもここにいる全ての者の見解は一緒であった。

「この書状の要請を受け入れれば、ここ南部六地帯は戦わずして聖王国の領土となる!」エンテが宣言するが如く、はっきりした口調でこう告げた。

 これはここにいる皆が思い描いている見解を、エンテ将軍が代表として言葉にしたのであった。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 エンテ(ミケルクスド國三将軍の一人。南部六地帯の総督)

 オルソ(バロン十将の一人。“暴れ熊”の異名を持つ猛将。故人)

 ガルニャ(ソルトルムンク聖王国の将軍。水軍の長)

 クーロ(マデギリークの養子。将軍)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。ヌイの妻)

 ティフォンニー(ミケルクスド國の将軍)

 ヌイ(ツヴァンソの夫。将軍)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 プラデラ(四隊長の一人)

 レオパルドゥス(ミケルクスド國の将軍。元バロン十将の筆頭将軍)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 キコーニア城(キコーニア地方の主城)

 キコーニア地方(ミケルクスド國領。ミケルクスド國南部六地帯の一つ)

 スターグ港(ナセコーモ地方の主要な港)

 ソチーンカ地方(ミケルクスド國領。ミケルクスド國南部六地帯の一つ)

 ナセコーモ地方(ミケルクスド國領。ミケルクスド國南部六地帯の一つ)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国領)

 ベゾクロ港(ソチーンカ地方の主要な港)

 ルーチョン城(ルーチョン地方の主城)

 ルーチョン地方(ミケルクスド國領。ミケルクスド國南部六地帯の一つ)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)

 四隊長(エンテ将軍の配下の四人。死隊長とも呼ばれている)

 バロン十将(バロンに仕える十人の将軍のこと)

 ミケルクスド國南部六地帯(ミケルクスド國が南北に分断された際の南側の六つの地方のこと)

 

 六大将軍伝説

 

 

【275 第二次西部攻略戦(九) ~総督エンテの苦悩~】

 

 

〔本編〕

 龍王暦二一二年五月五日。フルーメス王国国王アナトラの勅命を受け、五獣将がクーロ軍迎撃へ動き出す。

 國の五人の大将軍全てを一戦地に投入させるというアナトラ王の大胆な作戦は、ヴェルト大陸全土が注目することとなり、当然、これでソルトルムンク聖王国の第二次西部攻略は潰えたと、大部分の者がそう受け取っていた。

 しかし、各国にいる一部の優秀な者たちの見解は少々異なっていた。

 有能故に、各国の要職に就いている者たちの大半は、他国の情報収集――それも外に向かって見えている情報ではなく、内に隠されている情報の収集にまで余念がない。

 これを、偵知(ていち)や偵察、又は密偵、内偵などと言うが、その秘めたる情報によれば、フルーメス王国の五獣将なる人物、國の大将軍レベルと國内外に喧伝しているが、どうも実力不足の感が否めないようであるとの見解であった。

 故にその五獣将という物差しによって、クーロという聖王国の新将軍の力量を図ろうとした。そしてそのような優秀で要職に就いている人物の一人にミケルクスド國三将軍の一人、エンテ将軍が含まれる。

 ただ、ミケルクスド國南部六地帯の総督という要職に就いているエンテ将軍にとって、他国のそのような人物たちのように第三者の目で五獣将とクーロの戦いの推移を見守るというゆとりは一切なかった。

 五獣将という大将軍クラスとしては力不足の五人より、聖王国の新鋭将軍クーロの実力が上であった場合、それは自らが今統治しているミケルクスド國南部六地帯における、自国領としての存続が危ぶまれるという、自分にとってもミケルクスド國のいう國にとっても由々しき大事態に直結してしまうからである。

 そしてその前段の躓(つまづ)きが、聖王国の――、こちらも新鋭将軍の一人で智将として名が定着してきているルーラ将軍の策謀にまんまと嵌ってしまったことである。

 ミケルクスド國領コクーン地方の地方領主プッペの独断での、フルーメス王国領コクーン地方への侵攻がそれであった。

 ルーラは策謀に勘付いたエンテ将軍は、フルーメス王国領コクーン地方への侵攻をしない方向にうまく誘導していたつもりであったが、コクーン地方の地方領主プッペが独断で侵攻したことにより、フルーメス王国領コクーン地方軍は聖王国の侵攻軍に対し、兵を出すゆとりが一切無くなってしまったのであった。

 さらにプッペによる侵攻は、ミケルクスド國とフルーメス王国の両国がこの国難に、共同で聖王国に対処するという可能性の芽を摘んでしまったのであった。

 その上、プッペ軍はフルーメス王国軍とコクーン地方において膠着状態に陥る。この膠着状態が、ミケルクスド國、フルーメス王国双方にとって、侵攻している聖王国のクーロ軍に対し間接的に利する行為という最悪の展開となってしまったのであった。

「エンテ将軍! プッペの軍はコクーン地方侵攻において膠着状態に陥っているだけでなく、むしろフルーメス王国領コクーン地方軍の反撃を逆に受け、コクーン地方の一部では逆に侵攻されている拠点もあるぐらいです。このまま放っておきますと、コクーン地方全域をフルーメス王国に全て奪われるという最悪の事態ともなりかねません。ここは総督府からコクーン地方に援軍を派遣すべきかと……」

 総督府の文官の一人が、エンテ将軍にコクーン地方への援軍派遣の意見を具申した。

「馬鹿が! プッペの奴、むざむざ聖王国の策に嵌りやがって……! コクーン地方への援軍などそのような些末なことに今、兵を出せるか! これからもっと重大な選択を迫られる事態が起きる。これは予言ではない。聖王国が今回狙っているのがフルーメス王国領だけでなく、この南部六地帯も含まれるという厳然たる事実からそう言い切れる。その上、フルーメス王国領コクーン地方の指揮官はかなり優秀な人物とみた。当初私はプッペの地方軍のみでコクーン地方全土を制圧するのは不可能ではないと思っていたが、プッペは全土制圧どころか逆に圧されている始末。これは、コクーン地方のフルーメス王国の指揮官がよほど優秀なのか、あるいはプッペが私の想像以上に無能のどちらかしかない。あるいはその両方か……。ここはプッペを切り捨てる! そのフルーメス王国の指揮官がコクーン地方の全てを掌握した段階で、その者と私は和議を結ぼう。そしてその者を通じてフルーメス王国とも緊急の和解措置を図る! 早急にその手を打たない限り、ここ南部六地帯が存続出来る道が閉ざされる」

 エンテ将軍がそう吐き捨てるように言葉を放った。

 しかし、コクーン地方のごたごたが収束する前に、事態はエンテ将軍にとってさらに悪い状況に陥ってしまったのであった。

 その大いなるきっかけとなったのが、フルーメス王国の今回の五獣将の派兵であったということが、歴史の機運や皮肉を感じざるを得ないのであった。

 

 さて、ミケルクスド國三将軍の一人、エンテ将軍の危惧が現実となった。

 四日後の五月九日、エンテ将軍の元に二通の書状が届けられる。二通ともソルトルムンク聖王国からの書状で、一通はガルニャ将軍、そしてもう一通はヌイ将軍からであった。

 ガルニャ将軍は聖王国の水軍の最高司令官、そしてヌイ将軍は現在バラグリンドル地方に駐屯している若き指揮官であった。

 

 

 

〔参考 用語集〕

(人名)

 アナトラ王(フルーメス王国現王)

 エンテ(ミケルクスド國三将軍の一人。南部六地帯の総督)

 ガルニャ(ソルトルムンク聖王国の将軍。水軍の長)

 クーロ(マデギリークの養子。将軍)

 ヌイ(ツヴァンソの夫。将軍)

 プッペ(ミケルクスド國領コクーン地方の地方領主)

 ルーラ(クーロの妻。将軍)

 

(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)

 

(地名)

 コクーン地方(ミケルクスド國とフルーメス王国の国境にある地方。西側がミケルクスド國領、東側がフルーメス王国領である)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国領)

 

(その他)

 五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)

 ミケルクスド國南部六地帯(ミケルクスド國が南北に分断された際の南側の六つの地方のこと)