六大将軍伝説
【289 第二次西部攻略戦(二十三) ~新生クーロ軍Ⅴ~】
〔本編〕
クーロ軍における精鋭部隊。それはクーロ将軍を中心とする、文字通り精鋭兵のみで編成されている親衛隊のことをいう。
五百の兵のうち、半数近くの二百が騎乗しているのが、一般的なホース(馬)ではなく、小型の竜種である小型竜(ドラゴネット)。ホースの機動力には及ばないが、攻撃力や防御力はホースの比ではない。
それに機動力でホースに劣るとは言っても、それは平原などの整った平地などにおいてであって、山岳地や沼地といった悪路においてはむしろドラゴネットの方が機動力は高い。
ドラゴネットに騎乗する兵種として、竜騎兵(ドラゴンナイト)や竜弓兵(ドラゴンスナイパー)があるが、いずれも攻守共に陸上兵士としては最強である。
小型竜(ドラゴネット)は、ホースに比べて非常に希少価値が高く、それに騎乗が許されるドラゴンナイト並びにドラゴンスナイパーは、いずれも兵種としては最高ランクである最終段階(トップランク)に位置する兵種である。
陸上兵士として最強のこの二兵種は、いずれの軍においても主力として用いられ、基本敵を撃滅する部隊として編成されている場合が多い。
しかしクーロ軍においては、これらの兵種をあえて指揮官を守る親衛部隊として編制したのであった。
クーロ自身が弓兵であり、正面切って敵陣に攻め入る猛将タイプでないためではあるが、それでも最強の陸上兵で本陣を編成するというのは、あまり一般的な軍編成とはいえない。
これは新生クーロ軍の性質が、指揮官のクーロとその本陣を敵の格好の目標物と思わせることを強く意識させるといった特殊な軍であるということに起因する。
むろん敵からすれば、相手の将を倒すということは、最優先すべき重大な目標である。この時代、敵将を倒すことが、その軍を破ることと同義と捉えられていた。
しかし……いやだからこそ、そのような目標(ターゲット)を討ち取るということは非常に困難である。敵から最も離れた場所に将がいる本陣は配置されるものであるし、逆に猛将が指揮官の場合は、指揮官が真っ先に攻め寄せてはくるが、そのような猛将と精鋭部隊を討ち取るのは、後方に配備される本陣を攻めるのと同等以上に非常に困難であるのが常である。
そのため戦いとは、最初は先鋒同士がぶつかり合い、そのような中で策を巡らし、場合によっては強行突破などの力業も用いながら、敵将と敵本陣に近づいたり、或いは敵陣を削ったりしながら徐々に敵兵を減らしていくというのが常道である。
しかしクーロ軍はそれらの一般的な軍とは一線を画している。
弓兵を中心としている軍という間接攻撃、或いは奇襲などを得意としている軍の性格として、敵が食いつきそうな囮(おとり)があることが必須である。
囮が魅力的であればあるほど、間接攻撃や奇襲攻撃などにおける効果が大きくなる。そして軍隊における最も魅力的な囮(おとり)は何か。
その軍隊の指揮官以上に魅力的な囮はない。それをとことん突き詰めたのが、新生クーロ軍の特徴といえた。
今、まさに平原のロボ軍騎兵部隊の前に現れたクーロ軍主力部隊がそれであった。
五百を数えるクーロ主力部隊。しかしその一番先頭に今いるのが、小型竜(ドラゴネット)に跨ったクーロ将軍本人その人であった。クーロは兜もつけず、堂々とロボ軍騎兵たちの前に現れた。
「おい、真正面にいる兜をつけていない指揮官風の貴殿は、クーロ将軍で間違いないか!」
「いかにも……、指揮官風という言いぶりはいささかユニークに聞こえたが、私がこの軍の将、クーロで間違いない!」ロボの問いかけに、クーロは大きく頷き、そう叫ぶ。
「ちなみに、そう問いかけられた貴殿は、ロボ大将軍で相違ありませんか?」
「ああ!」続いてクーロが問いかけ、それにロボも即座に答える。敬語でさらに、“大将軍”という呼びかけに、ロボもまんざらではなかった。
しかし、クーロは問いかけることをしなくても、諜報などによりロボの顔は既に認識している。それに対し、ロボはクーロの面貌を一切知らなかったが、さすがに敵に対し真っ正直に尋ねたわけではなく、クーロに問うているように思わせながら、実は味方の中にクーロの面貌を見知っている者がいないかを確認していたのであった。
結果、ロボの家臣のうち二名ほどがロボのクーロへの問いかけに頷いていた。おそらくは、クーロがツィカーデ城に入城した際にクーロを実際に隠れ見て、その後、ツィカーデ城を脱し、ロボにクーロ軍の情報を報告した伝達兵なのであろう。しかしこれでロボもクーロ本人が目の前にいることに確信が持てたようであった。
「既に勝敗はついております!」クーロが直接ロボにこう申し渡す。
「ここはロボ大将軍の御首級(おんみしるし)のみが所望であります。それさえ、こちらにお渡しいただければ、これ以上の無用な殺生はいたしません!」
「何だと!!」このクーロの言いぶりに、ロボは顔を真っ赤にする。
「戦わずして、敵に己の首を渡せるか!」
「そう言うとは思っておりました」クーロはロボの怒りを流すかのように涼し気に言葉を続ける。
「……なので、ロボ大将軍のその意気に少しでも添えるよう、私が前面に立ちました。これは一種の一騎打ちと考えて下さい。私自身は弓兵であり、敵に真っ向から白兵戦を挑むようなタイプの将ではありません。……なので、私はここで弓に矢をつがえます。ロボ大将軍におかれましては、そのような私に相対していただければ、変わり種ではありますが一種の一騎打ちという体(てい)は保たれましょう」
そう言うと、クーロは弓に矢をつがえた。
二百のロボ軍に、五百のクーロ軍。数の差は歴然で、勝敗も既に決していた。
しかしそれでもロボ軍二百の騎兵たちが、最終的にどのように動くかは不確定要素ではあった。下手に乱戦となり、敵味方に必要以上の損害を強いるのは、ここまで追い詰めたクーロ軍からすれば避けたいところであった。
そのためクーロは将でありながら、わざわざ敵将の前に姿を晒(さら)し、あろうことか兜もつけずに一騎打ちの形での決着を提案したのであった。
劣勢であるロボがこれを拒むということは、兵の士気を大いに落とすだけで、何らメリットはない。
それにこれは、ロボがクーロを討ち取ることが出来るという、千載一遇の逆転のチャンス以外のなにものでもなかった。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)
ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
(地名)
ツィカーデ城(フォルミーカ地方最東端の城)
(兵種名)
最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。トップランクとも言う)
ドラゴンナイト(最終段階の小型竜に騎乗する騎兵。竜騎兵とも言う)
ドラゴンスナイパー(最終段階の小型竜に騎乗する重装備の弓兵。竜弓兵(りゅうきゅうへい)とも言う)
(竜名)
ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)
(その他)
五獣将(フルーメス王国で最も優れた五人の大将軍のこと)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

