六大将軍伝説
〔本編〕
「ロボ将軍、これは敵の罠です! すぐに全騎兵に追撃中止の命令を出して下さい!!」ロボの隣を駆けている現状分析が正確にできる冷静な兵が、将軍に大声でそう告げる。
「追撃を中止しろだと! ……ロボ大将軍と呼ばないか!」
ロボが、その言葉に反駁した刹那、その兵の左の胸に矢が深々と突き刺さり、その兵はそれ以上何も語ることなく、ホースから転げ落ちた。リアンファの矢であった。
追撃してくる敵の様子をつぶさに見聞きしていたリアンファは、こちらの作戦を妨げようとする優秀な敵騎兵を狙い、見事に射殺したのであった。
「おのれ! 一気に追いついて全滅させろ!!」ロボが大声で叫ぶ。
ロボ軍の騎兵たちは、騎乗しているホースにさらに鞭をくれ、追撃の馬脚を強める。
リアンファ率いる十五騎のホースハンター。新生クーロ軍において、先制攻撃に特化した騎弓兵部隊であった。
彼らは、火薬と魔力量を飽和状態に押し籠めた砂利を、矢のお尻に当たる矢筈(やはず)に仕込んだクーロ軍専用の矢を用い、敵の想定外にあたる二百メートルという通常の弓兵の倍の射程距離から敵を射抜く。
その上、厳しい訓練の賜物として、連射技能、さらに瞬時に方向転換が出来る程の高度な馬術、また身体を捻った状態から馬上で片足を抜くことにより、真後ろに矢を射かけるという達人並みの馬術も含めた高等な弓術などを身につけた。
これらの技能(スキル)により、十五騎でありながら都合百近くの敵騎兵を屠(ほふ)り、さらにそのまま残りの敵騎兵を作戦通り、こちらの有利な地に誘導させることに成功したのであった。
十五騎のホースハンターが最初の三連射を仕掛けてより約五分後、道幅にして騎馬が十騎ぐらいしか並走できない隘路(あいろ)へと、いつしかロボ軍は巧みに誘導されていったのである。
さて、リアンファ率いるホースハンター部隊の行先に、あるものが用意されていた。
城や砦の内側に設置することにより、侵入してくる騎馬の動きを封じることが出来る馬防柵であった。
高さが二メートルを超えるこのような柵は、急ごしらえで用意が出来るものではない。既にクーロがこの地域一帯を調べ上げ、その場所の適正に応じ前もって用意させたものに間違いなかった。
そこから分かるのは、クーロが十日前の五月二〇日にフォルミーカ地方のツィカーデ城を占拠してから漫然と時を費やしていたわけではないということである。
むろんそれはロボが入城したシュメッター城を攻略する術が見出せなかったための停滞ではない。むしろ、無策ゆえに時を費やしていると思わせて、ロボをシュメッター城からツィカーデ城襲撃に動かすのが真の狙いであった。
その敵の手に全く気付くことが出来なかったロボは、八千で入城したシュメッター城からわざわざ出陣しただけでなく、二千程駐屯していたシュメッター城地方軍のうち、一千五百を七千のロボ軍の歩兵と共にツィカーデ城に向かわせたのであった。
フルーメス王国の西側にあたるフォルミーカ地方、ミュッケ地方、そしてエフェメロプララ地方の要(かなめ)に位置する堅城シュメッター城。まだ二千の兵が城内に籠っていれば、一万のクーロ軍を数か月はそこに足止め出来る。
仮にクーロ軍がシュメッター城を落とさずに進軍する場合には、少なくとも三千程度の兵はそのシュメッター城を封じるために配置しなければいけなかった。
そのような重要な拠点シュメッター城から兵を千五百も動かし、五百という小勢力にしてしまったのである。
さて、十五騎のホースハンターは馬防柵が見えるや、一気にホースの速力を上げそのまま一列になるや、一番右側の馬防柵が配備されていない隙間から、馬防柵の内側へと走り去ったのであった。
敵ホースハンターに一気に振り切られたロボ軍の騎兵は、前方の馬防柵に気付く。その馬防柵の内側に配備されていた弓兵がロボ軍目がけて一斉に矢を射かけたのであった。
兵の数は四十人程。この弓兵を指揮していたのは、弓兵の指揮官の一人ソキウスであった。
ソキウスは、先のホースハンターを指揮していたリアンファ同様、龍王暦二〇一年のエーレ城奪還戦の折、当時小隊長であったクーロに協力した、弓の小隊長四人のうちの一人であった。
四人の弓の小隊長はその後、クーロの隊に正式に入隊するわけであるが、龍王暦二〇三年のバルナート帝國とのバクラの地での戦いにおいて、二人の弓の指揮官であるバンディレインブとヤキンソシュが戦死する。四人のうち、生き残った二人がリアンファとソキウスであった。
ソキウスの指揮している弓兵は、ハンターやアーチャーといった弓兵のうちでも第二段階の兵種に相当する、まだそれほど戦いに精通していない下級の兵たちであった。
それでもソキウスによって指揮されたハンターやアーチャーたちは、四十という数も手伝い、ロボ軍の騎兵に少なからず損害を与えた。
「馬防柵など一気に蹴散らせ! 馬防柵の内側の弓兵の攻撃はさほどのものではない。一気に柵と共に蹂躙しろ!」ロボが大声を張り上げ、一気に馬防柵へと突撃した。
ロボ将軍率いる敵騎兵は馬防柵に突撃するや即座に柵を破壊した。
しかし、敵が馬防柵を破壊する間に、四十人のソキウス率いる弓兵隊は、道の両脇にある木々の間に逃げ込んだのであった。逃げ込んだ場所は木が鬱蒼(うっそう)と茂っている森であったため、騎馬で歩兵を追いかけるのは非常に難しかった。
それよりロボ軍はその場の馬防柵を徹底的に破壊した上で先へ進んだ。
この馬防柵の破壊に十数分の時が費やされたが、後からここに到着する歩兵の大部隊のためにも、このルートを完全に確保しておくのは重要なことであった。
しかし、前進したロボ軍の行く手にさらに馬防柵が設置されている。
「おのれ!」ロボは顔を真っ赤にして呻(うめ)いた。敵の足止めに心底うんざりしてきている様子であった。早くしないと、他の五獣将が先に敵の籠っているツィカーデ城に到達してしまう。
ロボは味方にその馬防柵に突進することを命じる。彼はこの状況でも、まだ別の味方の将軍に先を越されることを一番恐れていたのであった。
〔参考 用語集〕
(人名)
クーロ(主人公。マデギリーク大将軍の養子。将軍)
ソキウス(弓兵。新生クーロ軍弓兵部隊の長)
バンディレインブ(クーロ隊の一員。弓兵。故人)
ヤキンソシュ(クーロ隊の一員。弓兵。故人)
リアンファ(弓兵。新生クーロ軍先制部隊の長)
ロボ(フルーメス王国五獣将の一人。狼将(ろうしょう)の別称をもつ)
(国名)
ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)
フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)
(地名)
エフェメロプララ地方(フルーメス王国領)
シュメッター城(ミュッケ地方に建っている城。フルーメス王国東部地域における重要拠点)
ツィカーデ城(フォルミーカ地方最東端の城)
フォルミーカ地方(フルーメス王国領)
ミュッケ地方(フルーメス王国領)
(兵種名)
第二段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から二番目のランク。この称号を与える権限は町や村の長或いは地方領主以上の者が持つ。セカンドランクとも言う)
アーチャー(第二段階の重装備の弓兵)
ハンター(第二段階の軽装備の弓兵)
ホースハンター(第三段階のホースに騎乗する軽装備の弓兵。騎弓兵(ききゅうへい)とも言う)
(その他)
ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
(顛末)
エーレ地方の戦い(ミケルクスド國からエーレ城を奪還する戦い。【039】~【062】を参照)
バルナート帝國との戦い(バルナート帝國がバクラ地方に攻め込んだことによる防衛戦。【117】~【125】を参照)

