麻友美はオーディション会場に来ていた
静まりきった満員の電車に一時間揺られ、
今にも逃げ出したくなるような、
無言と白々しさの漂う空間へとたどり着いた。
いつまでこの空間に耐えられるか
不安になりながら、
自身の図太さを感じながら
その場に座っていた。
この部屋の空気を吸いながら、全く違う場所の事を想像してみるけれど、今は自分の番に集中しなければいけないことを思い出して、想像はすぐに止めにした。
自分は人より多くの才能がある。そのことを見せ合う勝負。幅広くマルチに使える人材だと思って貰えるように、目立ちすぎない個性的な要素はほとんど無くして
いたってシンプルな装いでここに来ていた。
一目見ただけでは、その才能は分からない
だから油断はできない
そう言い聞かせながら、自分を奮い立たせる
審査員にも、このオーディションには今後の行く末が懸かっている
間違った判断は昇格の命取りになるのだ。
とにかく
麻友美は自分の番に集中した。
これはビジネス。夢を無駄に語って受からなかったあの時とは違う。私も世間に慣れた。
稼げる人になれる様に、そう見て貰えるように。
夢だったタレントへの道のりは、初めの頃とは違う、計算しながら打つゲームに変わっているのかもしれない。
やっとここまでレベルを上げてきたのだ
周りに流されない確立された自分を見せることができたら。
暑くなる内側を冷ましながら、麻友美はゆったりと微笑んだ