僕は現代の経済学で最も素晴らしい発見は「人々の予想に働きかける」という概念だと思う。
動学的な概念とも言いかえることができる。
これは政策担当者がある政策を打ち出した時、市場やひいては家計や企業がどういう行動を取るか?ということを織り込む概念である。
例えば今回の復興債について考えてみよう。
20兆円の被害が出た。復興債を20兆円分出して、それを日銀に引き受けさせファイナンスさせたとする。
日本のGDPギャップは少なくとも20兆円あり、言い換えれば20兆円分の財やサービスが余っているわけだから
インフレ転換はしないはずだ、という議論は果たしてまちがいではないのか?
僕は間違えていると思う。
なぜなら、ここには動学的な、期待の概念が入っていないからだ。
つまり、政府になんのアナウンスもなければ、国民は上記の行為をどう受け取るだろうか?
「政府はインフレ転換を容認している」「日銀はかなりのインフレを許容するのではないか?」
だとすれば、インフレ予想が起こり、20兆円以上の需要が起きるはずである。
そうしないと国民は損になるからだ。
日銀の国債引き受けでハイパーインフレが起こるとは言わないが、高邁なインフレが起こる可能性は大いにあるだろう。
ある政策を採用することで国民に、あるインセンティブが発生することを考慮に入れなければならない。
僕がインフレターゲット!ターゲット!とバカのひとつ覚えみたいに主張するのは、そのターゲットが国民の期待に働きかけるからでる。3%までのインフレは許容するが1%以下のインフレは許容しないと政府が宣言し、日銀がマネタリーベースを実際に増やしていけば、国民は勝手に総需要を膨らませるはずである。
それが証拠にインフレターゲット採用国のインフレ率の遵守率は驚くほど、高いからである。
市場や国民が、そのターゲットを信頼して指標にすればマクロ的に経済は非常に安定するはずなのである。
政府が目標を設定し、動学的に整合性のある政策(例えば不況時には金融緩和、減税を、過熱時には金融引き締め、増税など)を採用すれば、市場は余程のショックがない限り、勝手に動いてくれる。
だから、今回のGDPギャップもすべて復興債で、実際に埋める必要はなく民間の予想に働きかけるということが非常に重要なんだ。
この期待の概念こそ、人類が獲得した最大の経済的英知であると考える。