流動性の罠とは、短期金利がゼロ近傍に貼りついてしまうため、中央銀行が貨幣を供給しても、短期金利を持つことと、貨幣を持つことがほぼ同じ意味となってしまい、金融政策の効果がなくなるという議論である。
そんなことはあり得るんだろうか?
議論を限定するために、均衡財政で赤字国債は一切発行しない場合を考えてみる。
短期金利はゼロである。
ここで中央銀行がデフレ脱却を意図して金融政策を行ったと想定する。
短期金利はゼロだから、短期国債と貨幣は同じ意味である。
貨幣を持つことによって諦めなければいけなかった金利はゼロである。
つまり貨幣を持つことの機会費用はゼロである。
しかし、それは短期国債に限られるはずだ。
市場には金利がゼロではない金融商品がウヨウヨある。
例えば長期国債の金利は1.5%だ。
CPや社債にいたっては、この比ではない。
であれば、貨幣を持つことで諦めなければならない金利は、市場全体としてみれば決してゼロではないはずだ。
つまり、これは何を意味するかと言うと、貨幣の供給量を増やせば貨幣を投資に使った方が得であるということだ。
流動性の罠とは、どんな金融商品を現金に換えても貨幣需要が下がらないことである。
貨幣需要とは手許に現金を置いておき、投資や消費には回さないという国民の意思のことである。
そのような場合に貨幣需要が高いと言う。
例えば、リーマンショックの後、株式や不動産を売却し、国民みんな貨幣を求めた。
今回の震災の後でも預金を下ろし、生活資金確保や預金の安全性を確認するまでは貨幣需要が高くなる。
逆に好景気であれば貨幣需要は低下する。リスク資産に貨幣をつぎ込むことは貨幣を国民が欲していない証しだ。
例えば長期国債を日銀がある一定のインフレ率まで無制限に購入すれば、民間の金融機関の資産構成要素はどうなるだろうか?
日銀によって供給された現金をそのまま放置することは考えられないだろう。
なぜなら、いくらデフレでも長期国債は1.5%の金利収入が得られたのである。
現金のまま放置するバカはいない。
そうすればまた長期国債を買うだろうか?
日銀は買いオペをしているのである。
他行の日銀当座預金にも多額の現金が振り込まれている。
そして新たな国債は発行されていないので、国債は量的に減少しているはずだ。
金利は下がるだろう、と予想される。
日銀は決められたインフレ率までは無制限に長期国債を買うと言っている。
これはインフレ予想が出て、通貨安になるだろう。
であれば、輸出企業の下請けに融資しようか?通貨安に便乗して外債にしようか?
様々なオプションが考えられる。
これはすべて貨幣需要が減少する現象である。
中央銀行が貨幣を供給すればインフレ期待やそれに伴う通貨安によって、貨幣需要は減ることがわかるはずだ。
こうやって貨幣需要が減少し、投資が増える。
つまり貨幣が動く、これは貨幣の流通速度が速くなりマーシャルのkが低下することを意味する。
すべての金融商品の金利がゼロになることはありえない。
貨幣の需要が低下しない流動性の罠などありえない。
デフレを甘受している日本は金融政策が効果がないのではなく、日銀がインフレ転換を阻止しているだけだ。
中央銀行があらゆる政策手段を駆使すれば、デフレ脱却は十分可能である。
流動性の罠など、存在しないのである。