『ジンリッキー』 ー7作目ー
坦々とした日常から逃げ出したくて
僕は今日飛行機に乗り北海道から
小牧空港に降り立ち
レンタカーを借り
長野県飯田市にある「BAR時代屋」に向かった
所要時間4時間

噂のカクテルを飲むために

映画館の前に佇むBARの扉を開けると

そこには漆黒の世界が広がっていた
寡黙なバーテンダーに尋ねる
「どうしてこんなに暗いのですか?」と
その答えは
「月下独酌」と返って来た
月下独酌は李白の漢詩

この店は、月明かりの下と言うのがコンセプトらしい
噂の「ジンリッキー」を頼むと
グラスの底に半分にカットされたライムが丁寧に詰められ

果肉と皮が潰されていく
どうやら果汁だけでは無く
皮の渋みも絞り出しているようだ
その後ゴードンジンが注がれ
次に炭酸が静かにグラスを満たしていく
最後にキューブの氷が静かに入れられた
発泡する清涼感をそこなわぬ様に…氷は最後

「お待たせいたしました、ジンリッキーです」
暗闇の中スポットライトの下にジンリッキーが置かれた
その瞬間、炭酸が命を与えられたように発泡をはじめ
泡がほとばしる
同時にライムとジンの香りが辺りに広がっていく
ひと口飲む
「・・・・」
「あ~ぁ 来て良かった」
ジンとライムの香の中
炭酸の泡が静かにはじけるのを眺めながら
長かった一日がやっと終わった気がした
このジンリッキーのおかげで
僕は北海道に帰って頑張って生きて行ける気がした
暗闇の中に浮かぶグラスは月の代わりに
これからの僕をそっと照らしているように見えた





































