「代謝が落ちると太りやすい」──そのメカニズムとは? 研究で見つけたメタボ予防のカギ | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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予備群まで合わせると、40代以上男性の2人に1人が該当すると言われている「メタボリックシンドローム」。お腹周りのサイズがその診断基準のひとつにもなっていることから、「“外から見える”お腹についた脂肪だけを気にすれば大丈夫」と思っている人は多いのではないでしょうか。

メタボは心筋梗塞や脳梗塞など死に直結する病気のリスクをもはらんでいます。そこで、「太りやすい」「痩せにくい」の要因の1つとして、最近注目されているのが「代謝」です。体型維持や健康維持に欠かせない代謝について、日用品メーカーの花王が研究を行っているのをご存じでしょうか。“世界初の発見”もあるなど、代謝研究の先端を行く同社をレポートします。

10代後半をピークに低下し始める基礎代謝

そもそも代謝とは、私たちが生きていくために必須な生命活動です。食事で摂り入れた栄養をエネルギーに変え、骨や筋肉、血液や脂肪など身体を構成するものを作り、修復し、不要物を排出するまでの一連の活動を代謝といいます。

よく「代謝が落ちたから痩せにくくなった」といわれます。一体どのようなメカニズムなのでしょうか。日本肥満学会の宮崎滋元副理事長に、代謝が落ちるにつれ、太りやすくなる理由について聞きました。

「エネルギー代謝は、3大栄養素である炭水化物、脂質、たんぱく質を食べ物から体内に摂り入れ、体温の維持や身体を動かすためのエネルギー源として利用される仕組みのこと。大きく分けて、基礎代謝、活動代謝、食事誘導性代謝の3つに分けられます。

エネルギー代謝の中で最も割合の大きい基礎代謝は、10代後半をピークに年齢とともに低下します。若い頃と同じものを同じだけ食べて、同じ活動をしているのに太ってきたというのは、この基礎代謝をはじめとした、エネルギー代謝が下がってきているのが原因なのです」


40歳女性の基礎代謝量は小学4年生と同レベル。あの頃と同じ食事量、運動量は維持しにくい?
エネルギー代謝量が減ると忍び寄る? 「メタボ」の影

エネルギー代謝量の減少と深い関わりがあるのが「内臓脂肪」です。皮膚のすぐ下にあり、直接つまむことができる皮下脂肪とは異なり、内臓脂肪はその名の通り、内臓の周辺にある脂肪のこと。お腹周りがぽっこりしたり、スカートやズボンがきつくなったりしてきたのは、内臓脂肪が蓄積しているサインです。

「脂肪が蓄積する原因は、食事から摂ったエネルギーよりも、代謝されるエネルギーが少ないことで起こります。肥満を解消するには、日常生活の中でのエネルギー代謝を高め、消費を増やすことが重要です」(同)

例えばデスクワークで座りっぱなしという人は、時々立ち上がって歩くことでエネルギー代謝を高めることにつながります。長時間の運動を1回するよりも、毎日こまめに動くことが大事なのです。

近年問題になっているメタボは内臓脂肪症候群とも呼ばれており、内臓脂肪型肥満に加え、高血糖や高血圧、脂質異常症のうち2つ以上の症状が一度に出ている状態のこと。40歳以上の男性の2人に1人、女性の5人に1人が該当者もしくはその予備群だとされています。宮崎氏は、メタボリックシンドロームにも関係する内臓脂肪は外見の問題よりも、健康リスクに関わるものだと指摘します。


メタボによる健康リスクの連鎖は「メタボリック・ドミノ」と呼ばれる
「メタボリックシンドロームが問題なのは、単なるお腹周りが太っているというだけではなく、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が重なることで、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化を急速に進行させてしまうから。つまり、日常生活の中でのエネルギー代謝を高め、内臓 脂肪をためない身体を作ることが大切なのです」

24時間まるごと「日常」のエネルギー代謝を測定

花王は、商品を世に送り出す水面下で「人体をくまなく観察し、生命活動を理解する」研究を長年続けてきました。何年にもわたり進めている研究領域のひとつが「代謝」です。

花王の代謝研究で活用されたのが、2004年に研究所内に設置した部屋型の測定器「メタボリックチャンバー」。分厚い扉に覆われた6畳ほどの部屋にはベッドやテレビ、デスク、トイレなどがあり、日常生活に近い状態を続けながら、酸素と二酸化炭素の変化量から代謝を測定できるものです。日本では国立健康栄養研究所、筑波大学に次ぐ3番目、企業としては世界で初めて導入しました。


研究所内にある部屋型の測定器「メタボリックチャンバー」
ヒトは、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出しています。メタボリックチャンバーでは、この2つの濃度の変化を測定して計算することで、1日あたりのエネルギー消費量や、安静時、睡眠時、食事、運動時などのエネルギー消費量を正確に測定ができます。簡易的に測る場合は、特殊なマスクを使って呼気中の酸素と二酸化炭素を測定する方法や呼気中の「アセトン」の濃度で脂肪代謝量を調べる方法が開発されてきていますが、メタボリックチャンバーの中では、マスクは不要。日常生活に近い状態で、呼気を長時間、連続的に測定ができるといいます。

代謝測定の被験者には一般人だけでなく、力士など、身体能力が著しく高い人も参加。2012年からは国立健康・栄養研究所、天使大学と共同で研究を開始し、より多くのデータを集めました。その結果、脂肪代謝のカギを握るのは「褐色脂肪細胞」と呼ばれる細胞だということが明らかになりました。

世界初の発見 「褐色脂肪細胞」と「脂肪代謝」の関係性

褐色脂肪細胞とは、エネルギーを熱に変換する役割を持つ脂肪細胞のこと。主に肩や脊椎の周辺に存在し、赤ちゃんがお母さんのお腹から生まれてくるときに、おなかの中の温度(37度前後)と外気との気温差に耐えるために熱を作る働きを担っています。そのため、褐色脂肪細胞の量は“生まれてすぐ”が最も多く、年をとるごとに少なくなってくると考えられていました。

「これまでの研究で、褐色脂肪細胞の量には個人差があり、成人後も維持されている人とそうでない人がいることがわかっていました。さらに私達の研究で、褐色脂肪細胞の活性が高い人は、全身の脂肪代謝も高いことがわかったのです。これは世界で初めての発見でした」(花王ヘルスケア食品研究所・日比壮信主任研究員)


左から花王で代謝研究を進めている日比さん、高瀬さん、大崎さん
その一方、花王とともに脂肪代謝の研究を行った北海道大学の斉藤昌之名誉教授らによって、加齢とともに褐色脂肪細胞の活性が低くなっている人は、内臓脂肪が多く蓄積している傾向が判明しました。つまり、加齢によって褐色脂肪細胞の活性が低下することが、内臓脂肪蓄積の要因のひとつと考えられることが明らかになったのです。


唐辛子やしょうが、茶カテキンが褐色脂肪細胞を再活性化

つまり中年期以降の肥満の原因は、褐色脂肪細胞の低下により起こる可能性が高いのです。逆にいえば褐色脂肪細胞を再び活性化すれば肥満を予防したり、改善したりできる可能性が示されたということ。


では、大人が褐色脂肪細胞を再活性化させる方法はあるのでしょうか。

「私たちの実験では、6週間にわたって薄着の状態で室温17度に2時間程度過ごすと褐色脂肪細胞が再活性化することが分かりましたが、実際にやるとなると現実的ではありませんね。これと同じ効果を持つのが唐辛子に含まれるカプサイシンや、しょうがに含まれるショウガオール、さらにお茶に含まれる茶カテキンなど。長期摂取によって内臓脂肪減少効果をもたらすことがわかっています」(斉藤昌之名誉教授)

花王との共同研究では、茶カテキンを豊富に含む緑茶を1日2本、5週間継続して飲んだ場合と飲まなかった場合との比較を試みました。

「茶カテキンを豊富に含む緑茶を飲んだ場合のほうが、褐色脂肪の活性と脂肪代謝が約2倍になったのです。古くから言われていた緑茶の『効能』を現代科学で解明した事例になりました」(同生物科学研究所・高瀬秀人上席主任研究員)


「脂肪代謝」と「緑茶」、その可能性を探る
江戸時代の書物で、緑茶は「人をして痩せしむ」

緑茶を日本人が飲みだしたのは、平安時代末期。栄西という禅僧が1191年に中国からお茶を持ち帰ったとされています。緑茶の研究を長く続けている大妻女子大学の大森正志名誉教授によると、平安時代から“頭が痛い”“気持ちが悪い”“眠い”ときに効くといわれるなど、公家や武家を中心に、健康のための薬として珍重されていたそうです。

「お茶が市民に広まったのは江戸時代。永谷宗円が煎茶の製法を発明し、長く歩いた人が疲れを癒やすために、東海道や中山道に茶店が多く作られるようになり、庶民の間でもお茶が飲まれるようになりました。江戸初期の書物『本草綱目』にも『久しく食すれば人をして痩せしむ。また人の脂を去り、人をして眠らざらしむ』と、お茶の薬効が説かれていました。当時からお茶には、健康効果があることが経験として知られていたのです」

茶カテキンが脂肪代謝に効果があることがわかってきましたが、肥満は「緑茶を飲んでいればすべて解決するもの」ではありません。花王の研究では、運動とともに茶カテキンが含まれた飲料を飲むことで、脂肪代謝のさらなる活性が期待できることもわかっています。


緑茶は健康の一助。まずは生活習慣の見直しを
「肥満の改善には、まず、適度な運動と食生活の改善がとても重要です。さらに、運動する際に緑茶を飲むなど、日常生活に『予防医学』を取り入れることで、さらなる効果を期待できます。現代科学で明かされた先人たちの知恵を私たちの健康に役立てていきたいものです」(大森名誉教授)