[シリーズこころ]統合失調症(4)金銭感覚 欠かせぬ能力 | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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「お父さんもお母さんも先に死ぬんだ。お前は将来のことを考えているのか」

 統合失調症を患う40歳代男性Aさんの不安の原因は、父親の親心から出た言葉だった。原因を知ったカウンセラーの高森信子さん(79)はAさんに父親の真意を伝え、納得してもらった。

 高森さんは、父親の焦りも理解できた。統合失調症の子を持つ親の多くが、「自分が亡くなった後の不安」を抱いているためだ。

 統合失調症を発症後、生活能力が低下する患者は少なくない。そのままだと家に引きこもり、親なしでは暮らせなくなってしまう。

 東洋大ライフデザイン学部教授の白石弘巳さん(精神科医)は「症状が進むと、新しいことをするのが苦手になる。金銭管理などの機会を少しずつ増やし、習慣化できれば、生活能力を回復できる」と話す。

 患者が親なき後を生きるために欠かせない技術として、高森さんもお金のやりくりを真っ先に挙げる。

 「親が障害年金をすべて管理したり、要求のままお金を渡したりしていては金銭管理の力は身に着かない。本人が責任を持つ習慣作りが必要」という。

 ある患者は金遣いが荒く、無くなる度に小遣いを求めた。母親は「いい年して、いいかげんにしなさい」と返しては口論になり、結局は、お金を渡す繰り返しだった。

 そこで、高森さんが母親にSST(社会生活技能訓練)による会話法を指導。母親が「お金が欲しいの? でも今日はないのよ。悪いわね、ごめんね」と言うと、男性は「そうか」とあっさり引き下がった。

 その後、母親は障害年金の通帳を男性に渡した。男性はその範囲でやりくりするうちに、金銭感覚を取り戻した。

 高森さんがもう一つ重視するのが、困った時に人に助けを求める方法だ。「医師や保健師、警察官や近所の人など、親の10分の1の温かさでも接してくれる人を10人集めれば、親1人分になります」

 良好な人間関係を築く基本は日々のあいさつ。高森さんが勧める方法は少し変わっている。すれ違いざまにあいさつするのだ。

 患者が立ち止まり、たどたどしく「こんにちは」と言うと、相手は気遣って「いい天気ですね」などと話を続けかねない。統合失調症の患者は予想外の話を振られるのが最も苦手なので、以後はあいさつが怖くなってしまう。そこで相手の言葉を待たずに去る。それだけでも患者の好感度は上がる。

 高森さんは「家族や周囲の対応次第で、患者は大きく変わる。対応のコツを多くの人に学んでほしい」と呼びかけている。

(2012年2月22日 読売新聞)