現代うつ病Q&A 【第5回】増える薬の選択肢~薬物療法は治療の重要な柱~ | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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薬は必須?
 ―今回から「うつ病と薬」をテーマにお話を続けていただきます。前回の最後に、うつ病治療で「薬物療法は不可欠」と指摘されました。

 抗うつ薬への恐怖感、拒否感が強い人は少なくありませんが、医師が抗うつ薬を初めから除外して治療に当たる、または患者さんがそれを強く希望するということには慎重になる必要があると思います。

 これまでお話してきた通り、私は「(うつ病の治療には)薬以外が大事」と常に言っていますので、「薬がすべて」「薬ありき」という考え方には賛同できません。しかし、薬物療法はうつ病の治療で柱の一つですから、排除されるべきではありません。近年は薬のバリエーションが増え、副作用が少なく効果が高い薬も出ているので、私は患者さんに「一度は必ず試しましょう」と提案します。

 ―薬物療法の効果はどんなことでしょう。

 短期的には薬によって抑うつ気分や不安感を軽減し、うつ病の患者さんの状態を底上げすることが可能です。長年固着した考え方が治るとまでは言えませんが、患者さんの生活の質(QOL)が上がるのです。一見よくなった後も、再発予防のために抗うつ薬は1年近く続けることが一般的です。

 ―安全性に問題はありませんか。

 使い慣れた医者が薬を慎重にコントロールする限りにおいては、不必要に心配することはありません。普段から主治医とよく話をして、副作用の予防・対策を理解することが大切です。

 ―薬はどのような働きをするのでしょう。

 「限られた脳内ホルモンを有効活用する」という考え方で、セロトニンやノルアドレナリン(それらの枯渇がうつ病の原因ではないかともいわれている)などに特異的に効きます。ダメージを受けた脳神経細胞の再生を促し、その間に脳内ホルモンの正常なバランスの再獲得を目指すというのが治療のコンセプトです。

患者の状態に合わせて処方 ―具体的に、うつ病患者はどんな薬を飲むのですか。

 第一選択薬として使用される種類は、「SSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)」「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」「NaSSA(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬)」となります。これに併用されることが多いのは、不眠があれば睡眠薬、不安が強いときに抗不安薬、焦燥感が強い場合は抗精神病薬などです。これらは患者さんの状態に応じて処方します。

 なお、10年前は「三環系」という種類の抗うつ薬が主流でしたが、最近では初めから使うことは基本的にありません。副作用が出やすいからです。

 ―新薬は増えているのでしょうか。

 ここ2年ぐらいの間に、新たな抗うつ薬が増えてきました。例えば、この9月に「レクサプロ」という4番目のSSRIが出ましたが、効果は今までのSSRIと同等か、それ以上といわれています。

 SNRIでは、2010年に「サインバルタ」という新薬が出ました。これらの新薬は効きが早くて、早期に患者さんの意欲が上がりますので、そういった薬を優先して処方することが多いですね。

 これらの薬は欧米では以前から使用されていて、日本での導入は10年近く遅れていました。10年ほど前は三環系が中心で、新世代の抗うつ薬は少しだけしかありませんでしたが、ようやく選択肢が増え、抗うつ薬の手駒がそろってきたところです。

双極性障害の薬 ―気分障害のうち、双極性障害の場合はどのような薬を処方するのでしょうか。

 近年、双極性障害の患者さんが増えています。医者の診断技術が上がり、従来はうつ病と判定されていたような人が、初めから双極性障害と診断されるケースが多くなっていることも背景にあるでしょう。これに伴い、双極性障害の薬物療法に関する議論も活発になっています。

 双極性障害では、薬物療法としての第一選択薬はリチウム製剤、その次にはバルプロ酸、カルバマゼピンなどの抗てんかん薬を使います。リチウム製剤を使用するときは血中濃度を測らなくてはならず、震え、口の渇きといった副作用も出やすいので、使いにくいところがあります。

 最近では、非定型抗精神病薬が双極性障害の治療に使われることが増えてきています。この薬は速効性が高いのですが、副作用として眠気と過食が生じることがあるほか、糖尿病を合併することもあるので、注意が必要です。

 ―新しい薬は出ているのですか。

 今年の夏、「ラミクタール」という薬が使えるようになりました。欧米では第一選択薬と位置付けられています。私の印象としては、リチウム製剤と比べて非常に使いやすいですね。皮疹などの「薬疹」が問題になりますが、そこに気を付ければ安定的に使える薬だと思います。

(次回へ続く)