口の機能回復(1)声帯失ってもカラオケ | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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 7月下旬の日曜日。東京都新宿区内のカラオケボックスで、中高年の男性10人が歌を楽しんでいた。全体的に声が低めで、抑揚に欠けるものの、声帯を失った人たちには見えない。

 このグループは、喉頭がんや下咽頭がんなどの手術で、声帯を含む喉頭(のど仏)を摘出した患者でつくるNPO「悠声(ゆうせい)会」の会員たちだ。

 喉頭を取ると、口と肺がつながらなくなるため、呼吸のために、のどに穴を開けて空気を取り込む。しかし、声帯がないうえに、肺の空気が口に届かず、声が出せなくなってしまう。

 そこで国内では、「食道発声」を習うことが多い。食道に空気をため込み、ゲップの要領で空気を吐き、食道を震わせて音を出す。ゲップなので空気量は50~100ccと少なく、大きな声が出せない。

 一方、近年少しずつ増えている方法が、特別な訓練をしなくても話せる「気管食道シャント法」だ。

 この方法では、気管と食道の間に通気弁を付ける。声を出したい時は、のどの穴を指で塞ぐと空気圧で弁が開き、気管から食道に空気が流れ込む。健常者同様、肺の数千ccという空気を使えるため、大きな声を長く出せる。

 悠声会はシャント法の患者が中心で、会員は約80人。毎月2回、都内で定例会を開いて情報交換し、終了後は飲食やカラオケを楽しむのが恒例になっている。

  会長の土田義男さん(74)は「食道発声がうまくできるようになる人は2~3割。私も3年習ったが、会話に使えなかった。でもシャントにしたら、すぐに話せた」と言う。

 シャント法に詳しいがん研有明病院(東京都江東区)頭頸(とうけい)科医師の福島啓文さんによると、同病院ではシャント法の患者の約9割が日常会話が可能。しかし、欧米では喉頭を摘出した人の60~70%がシャント法を選ぶのに対し、日本は3~4%(約2万人中600~800人)と非常に少ない。

 福島さんは「日本は患者組織で食道発声を教え合うシステムが確立されており、病院も頼っていた。シャント法には、弁の掃除の手間と、管理に毎月1万5000~2万円程度かかる短所もある。それでも、声を取り戻すための有効な選択肢であるのは間違いない。医師は必ず説明するべきだ」と話す。

 「食べる」「話す」は、生きる上での基本的な機能。口やのどの機能を取り戻す医療現場を取材した。

(2011年8月22日 読売新聞)