医者が病気になったら…?O先生の場合(2) | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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http://www.asahi.com/health/sanada/TKY201006290293.html

より


「O先生がオペ中に倒れたんだって!」

 一報が医局に入ったのはお昼休みの時間だった。医局にはたくさんの先生が食後をくつろいでいる。

「倒れた?!手術はどうしたの?術野にでもうつぶしたか?」

「いや、やり遂げたらしいよ!」

「え?うなり声あげながらやったって話だ」

「おおおおお!」

「え?何なに?メスを落としたって話だぞ」

「オペ室で床の上に倒れ込んだって」

「汗びっしょりでしぼれるくらいだったらしいぞ」

「そりゃあかなり血圧が下がったな。メスを落としたとしたら…脳梗塞か?」

「まだ40代だぞ。ああ、でもヘビースモーカーだからな」

「でも外科医が手術中に倒れるなんて相当調子悪かったのに無理してたんじゃないの?」

「おととい元気そうに唐揚げ食べてたぞ」

その場にいた医者数人でかしましいったら。途切れ途切れの情報が錯綜する。

「で、今どこに?」

「消化器外科のグループが囲い込んでて面会謝絶だって。エコー室にいるらしい」

「おおおおー、本物だな、こりゃ」

「やっぱさぁ、この病院人使い荒すぎるんだって…。俺も気をつけなくちゃ死んじゃうかも」

「まだO先生は死んだわけじゃないよ」

「でも消化器のグループがひた隠しにするってことは相当悪いんじゃないの?」

「自分の健康管理はちゃんとしないとな。倒れるまでがんばっちゃ駄目だよ」

「外科医がオペ中に倒れるなんて生き恥だぜ。でもO先生は気合いでやりきった」

「ふーーむ」


 そこへ消化器外科部長が医局へ入ってきた。ひどく急いでいる。

「あ!Y先生!O先生大丈夫ですか?」

忙しそうなY先生はチラと皆の方を見ると

「ああ、たいしたことないから…」

とだけ言うと何か書類を持ってそそくさと出て行った。

「怪しーーー!」

「マジ、相当悪いんじゃないの?休職用の書類の用意か?」

「あの言い方は隠してるな!部長としては管理責任問題ものだよ」

「やっぱ、自分の体は自分で管理しないと駄目だよ。無理しちゃあ駄目だ」

人のふり見て我がふり直せ。医者の不養生なんて言ってる場合じゃない。


 さて、私真田が遅いお昼を食べに15時頃医局に戻った時の総括はこういうものだった。事情通のH先生のお話。

「真田先生、消化器外科のO先生がオペ室で倒れたって聞いてる?」

「えええーー!!知らなーい。だって、私ずっと外来中だったもん。どうしたんです?O先生別に基礎疾患なさそうでしょう?」

「今日のオペは朝からずいぶん飛ばしてたそうだ」

「飛ばしてた?早かったって意味ですか?」

「そうそう。いつもにましてメスの切れはよかったそうだ。今から思うと調子が悪かったんで早く終わらせたかったんじゃないかな?でも周りは体調の変化に誰も気がつかなかった」

「すごいっすね」

「玉の汗かきつつ、雄叫びを上げながら胃がんのオペをしたそうだ」

「外科医の執念ですね」

「うん。O先生らしいよ…。傷口は一点の狂いもなく縫い合わされていたそうだ」

「皮膚縫合までやったんですか?」

「でも、最後の針を刺した後、ぽとりと切子を落としたらしい」

「おおおおお!」

「そして無言で崩れるように床に倒れた」

「意識なくなったんですか?」

「いや、薄れる意識の中でO先生は自分にラインを取れとつぶやいて、いっしょに採血オーダーをした。輸血用のクロスマッチの指示まで出したんだと」

「緊急手術になる可能性を考えたんですね?さすが外科医!で、緊急オペになったんですか?今どうしてるんですか?そもそもなんなんですか?」

「さっき消化器外科の病棟に入院したらしい。病状や病名は消化器外科がひた隠しにしてるんだよ」

「ふおおお。そりゃあかなり重症ですね?」

「そこで、おまえの使命だ、真田」

「は?」

「今日おまえは内科当直だろ?夜、外科の病棟に行ってこっそり見てこい!」

 なんか微妙に違うような。O先生、どうなっているんでしょうか?続きは次号!