住民のための地域医療再建(1)地域のお母さんが病院を救った | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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温かな医療 ―― 住民のための地域医療再建

基調講演 (1)地域のお母さんが病院を救った

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=27158

より

読売北海道 医療フォーラム
 読売北海道医療フォーラムが5月8日、札幌市の札幌グランドホテルで開かれました。鎌田實・諏訪中央病院(長野県茅野市)名誉院長の「住民のための地域医療再建」と題した基調講演と、「安心の医療を築くために」をテーマにしたパネルディスカッションに、約650人の聴講者が熱心に聞き入っていました。

 主催 : 読売新聞社
 後援 : 北海道、札幌市、小樽市、北海道医師会、札幌市医師会、小樽市医師会

諏訪中央病院名誉院長 鎌田實(かまた・みのる)さん
 医師・作家。1948年東京生まれ。74年東京医科歯科大学医学部卒業。長野県の諏訪中央病院にて地域医療に携わる。88年同病院院長に就任。2005年から同病院名誉院長を勤める。現在も山村への訪問診療を続けながら、日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本・イラク・メディカルネット代表として、国際医療支援活動にも取り組む。



 すごい数ですね。地域医療再建というテーマでこれだけ多くの方がお集まりになるのは、北海道の地域医療が大変厳しい状況にあるということの表れだと思います。実は、北海道だけでなく日本中が大変厳しい状況にある訳で、みんなで考えていかないといけない。自分たちの命を自分たちの手で守っていかないと守り切れなくなっている。いくつか大切なヒントみたいな話をしようと思っています。

 3か月ほど前に「空気を読まない」という本を出し、兵庫県のある地域の小児科医療が崩壊しかかったことを書きました。和久先生という若い小児科医が、土俵際に立たされる。その地域には、小児科のある病院が三つほどあった。その地域の小児科医がだんだんいなくなった。最後に残った病院の小児科医2人のうち1人が院長になることになった。広い医療圏で、自分1人で小児科をみることになり、燃え尽きそうになって、和久先生は辞表を書きました。

 そのときに、お母さんたちが気づく。「いままでは、大切な自分の子どもを小児科医が診て当たり前、それが住民の権利。できたら、外科や整形外科に診てもらいたくない」と思っていた。でも、「最近、深夜に小児科の先生に診てもらったのに、ありがとうと言っただろうか」と気づいてハッとする。

 それでお母さんたちは、小児科医や看護師さんによくしてもらったときに「ありがとう」という手紙を書き出します。和久先生は、子どもやお母さんが書いてくれた手紙を泣きながら読んだ。そのうち、お母さんたちは病院に「ありがとうポスト」を作る。すべての先生や職員によくしてもらった時に「ありがとう」という手紙を書きだすと、不思議なことが起こる。普通、地域の医者がいなくなったりすると、だいたいはお金で解決しようとする。医師の給与を増やすとか。でも、兵庫県の病院の解決法にお金は一切動かなかった。住民の「ありがとう」という思いがドクターや看護師を動かした。

 たった1人になりかけた病院に小児科医5人が集まった。うわさになったのです。あそこにいったら、「ありがとう」と言ってもらえる。医師はやりがいが欲しい。ちょっとしたことで医師が批判される状況に、この10年ぐらい追い込まれてきた。そういう時に住民から「ありがとう」と言ってもらえることによって、和久先生に気合がもう一度はいる。「和久先生を1人にしちゃいけない」と、心ある小児科医たちが応援に入る。応援に入る時に、自分も「ありがとう」と言ってもらえる。「前の病院よりやりがいがある」と、5人が集まった。

 1週間ほど前に和久先生から電話がありました。お母さんたちが自分たちの地域の病院を守ろうと動き出して2年になる。「僕はお母さんたちに守られている。子どもたちから、本当にありがとうって言ってもらえることで、今は生き甲斐を見つけることが出来ました」って。この地域は、医療崩壊に向かう悪いサイクルから抜け出して、いい回転に入った。大切なことを僕らに思い出させてくれました。

(2010年6月25日 読売新聞)