日本人の幸福度に関する分析 | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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国民生活白書を見たら、データをみつけたのでUPしました。

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h20/01_honpen/html/08sh010301.html#08sh13100c

より抜粋

【コラム】幸福の経済学

 経済成長が人々の幸せに結び付いていないという「幸福のパラドックス(paradoxes of happiness)」が明示的に議論されるようになったのは1971年にブリックマンとキャンベルの二人の心理学者によって所得や富といった生活の客観的状況を良くすることは個人の幸福に何も影響していないという結論を示してからである。「イースターリンのパラドックス」とも言われているが、イースターリンが1974年に所得との関係を詳細に分析し、一国内では所得の高い人が幸福度が高いという相関が見られるにもかかわらず、国際比較では少なくとも先進国間では一国の所得水準と幸福度の平均値に相関がないことを示した70 。その後、このパラドックスを解く「幸福の経済学」という分野が生まれ、年齢、失業、家族形態、ソーシャルキャピタルといった要因について実証分析が行われてきた。所得についても、絶対的な所得よりもむしろ他人の所得との相対関係が幸福度に影響しているとの報告がされている。また行動経済学でノーベル賞を得たカーネマンは脳の活動で幸福度を測る実験や生活の質、満足度と健康との相関関係を研究している71
 ただし、最近の研究では、社会の中の裕福なメンバーと貧しいメンバーを対比して一国における幸福度と所得の関係を見た場合、その関係は、裕福な国と貧しい国を対比して国家間の幸福度と所得の関係を見た場合と類似の関係を示すということを指摘するもの72 もあり、その要因も含めて経済学者などの間で論争が続いている

日本人の幸福度に関する分析

 所得や不平等以外のものが幸福度に影響を与えている可能性が浮かび上がるが、では、人々の幸福度に影響を与える要因としてはどのようなものがあるのであろうか。ここでは、2008年のデータを用いて幸福度に影響を与える要因を調べて見ることとする73
 これまでの研究成果を踏まえて、幸福度と性別、年齢、職業(失業中を含む)、子ども、ストレス、トラブルや困ったときに相談する人の有無、婚姻、世帯全体の年収、学歴などの12項目との関係を推計した74 。[1]女性は男性よりも平均的に幸福、[2]年齢については、年齢が高い人のほうが不幸で、[3]大学または大学院卒の人はその他の学歴の人よりも幸福、[4]世帯全体の年収が多い人ほど幸福、[5]結婚している人は未婚の人や配偶者と離死別した人よりも幸福、[6]子どもがいる人はいない人よりも幸福、[7]困ったことがあるときに相談できる人がいる人はいない人よりも幸福、[8]失業中である人は就業している人、専業の主婦・主夫、学生などよりも不幸、[9]学生は働いている人や失業中の人などその他の人よりも幸福、[10]ストレスがある人はない人よりも不幸ということであったものの、[11]職業の違い、[12]災害や病気などの経験の有無は幸福とは無関係であった第1-3-4表 )。

幸福度にプラスの影響

女性であること
子どもがいること
結婚していること
世帯全体の年収が多くなっていくこと
大学または大学院卒であること
学生であること
困ったことがあるときに相談できる人がいること

幸福度にマイナスの影響

年齢が高いこと
失業中であること
ストレスがあること

影響なし

自営業であること
何らかのトラブルを経験したこと

分析結果に基づく考察

以下では、主な分析結果について、その結果をもたらす原因について考察を加えてみる。

性別と幸福度

[1]の結果はこれまでの調査結果とも整合性がある。この結果は様々に解釈できるが、純粋に生物学的な意味で女性であれば男性よりも幸福を感じやすいという意味ではない。男女の間には、社会的文化的性差が存在し、そのあり様は国や社会によって異なっている。ある国や社会における社会的文化的性差のあり様も男女の幸福度に影響を与えている可能性がある75

年齢と幸福度

 [2]については、年齢が高い人のほうが不幸であるが、これまでの諸外国における調査では、年齢と幸福の間にU字型の関係があるとの結果が出ているものが多い76 。つまり、若者と高齢者は熟年層よりも幸福だというのである。その理由としては、熟年層に入る頃には、自分の人生がある程度定まってくるので、人々は若い頃持っていた野心を実現することをあきらめざるを得ないから幸福度が下がる。その後の高齢期に入ってからは考え方を変え、後半の人生を楽しく充実させようと努力するから幸福度がまた高まるのではないかとの考察がなされている77 。しかし、今回の推計ではU字型にはなっておらず、67歳を底にして79歳にかけて幸福度はほとんど高まらないL字に近い形状を取っており、アメリカの結果と比べても我が国は特異と言える(第1-3-5図 )。

対人関係と幸福度

 [5]、[6]、[7]はいずれも対人関係と幸福度についての分析である。[5]の既婚者の幸福度が高いというのは過去の多くの研究結果と一致している78 。これらからは女性本人の賃金水準の多寡にかかわらず結婚によって幸福度が上昇し、その後は少しずつ低下傾向をたどると言われている。したがって、結婚によって得られる親密な人間関係が精神的やすらぎとなり、幸福度を高めると考えられる。また、[6]の子どもについても[5]と同様の理由により幸福度を高めると考えられる。なお、子どもの誕生と結婚の関係については、子どもの誕生と子育てにより結婚の幸福度は低下するとの調査結果がある79 。親は子どもを肯定的に捉えているが80 、子育てに時間とエネルギーを費やすため、結婚自体の幸福度が下がると推察されている81 。[7]は、ほかの調査でも信頼が高い社会やソーシャル・キャピタル82 が存在する社会ではそうでない社会より幸福度が高いという結果が得られている83 。困ったときに相談できる人、言い換えれば、気心が知れ自分の心の拠り所になる人、社会的つながりが存在することが、幸福度を高めるということを示し、対人関係が幸福に与える重要性を裏付けている。

失業やストレスと幸福

[8]については、失業により不安定な状況に置かれることが不幸感を生み出している。過去の多くの研究でも、失業によって非常に大きな不幸感がもたらされるという結果が出ている84 。例えば、英国の研究では、「離婚や別居といった幸福度にマイナスをもたらすどのような要因よりも、失業は幸福を抑圧してしまう」と述べられている85 。さらにその原因としては所得の減少といった経済的不安以上に非経済的なものが大きいとされる。人の社会的地位は就いている仕事により判断される側面があり、失業した人は地位を失ったと感じることが幸福度の低下に影響を及ぼすとの指摘がなされている86
 [9]についても、ストレスがある人が不幸であるということは納得がいく結果である。また、ストレスが幸福度に影響を与えるだけではなく、幸福感がストレスを緩和する可能性があることが心理学の分野で指摘されている87 。通常、人は、ストレスの原因が生じてから、そのストレスに対処をする。しかし、幸福感などのポジティヴな感情を持っている場合には、あらかじめストレスの原因の発生そのものを抑えることができるというのである。