http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090922-OYT8T00186.htm
より
時代を見据えた新しい授業に、農業高校の底力が見える。
馬術の名門校で、映画の舞台にもなった青森県立三本木農業高校(同県十和田市)。毎週木曜日に一般開放される校内の直売所前で、長靴を履いた3年の
客の反応は悪い。「シソだば、この辺にあっから」。一緒にいた同級生と番匠君が話し込む。「値段を下げれば?」「種代にならないよ」「寮のおばちゃんは?」「やっぱ作ってるもん」
職員室でニンジンを売っていた
野菜を売り歩くのは、植物科学科3年生の20人が受講する「農業経営シミュレーション」の授業の一環だ。「18歳にして社長、目指すは農業の達人」という掛け声の下、2001年度に学校独自の科目として始まった。
生徒たちは3~5人で資金を出し合い、1年限定で模擬法人を設立。校内にある約800平方メートルの畑で野菜や果物を作り、売り上げを競う。教職員から出資を募ることもでき、その資本金で種子や肥料、資材を調達、“社員”には80円の月給が支払われる。
スーパーの売り場を歩いたり、新聞の市況欄を読んだりして、売れる作物、売れる時期、適正な価格を考えるのも仕事。1月には経営報告会が開かれ、赤字が出れば、出資者の教職員らから原因を追及される。教師はあくまで作業の相談役に徹し、購入する種子も、収穫の時期も、すべて生徒の判断に任せている。
農業高校といえども、かつてのように農家の後継者が入学するケースは少なくなっており、おのずと授業への関心が低い生徒が出る。同高でも、かつては職員会議で、「いい授業方法はないか」と、毎回のように話題に上がった。
10年前のある時、教員同士の雑談から「生徒に畑を持たせて、最後まで責任を持って売らせてみては」という案が浮かんだ。「授業にも集中できない子どもが、取り組めるのか」と不安もあったが、やってみたところ、生徒たちは自主的に休日を返上して、水やりや草取りに励んだ。
担当する小笠原
◎
「起業家教育」を06年度から取り入れているのは、岡山県立高松農業高校(岡山市北区)。農業科学科3年生38人でつくる模擬株式会社が、校内で育てたミニトマトの商品開発に取り組む。
これまでに生食用のほか、規格外のトマトをシロップに漬けたデザートを販売してきた。10月には、県内の土産物で人気の高いトマトゼリーの製造を業者に委託し、校内の即売所で発売する。
ケチャップの製造も考えたが、原価計算をしたら、手間がかかるうえ、もうけが少ないことが分かった。品質管理が難しく、カビを生やして無駄にした試作もある。トマトゼリーの製造は校内では難しいが、業者に頼めば可能だ。そのためには、委託費を工面しなければならない。そこで、7月に1株1000円の株券を発行して、教職員から計14万円を集めた。
生産部長を務める
同高で起業家教育の導入を進め、農業教育の著書もある岡山県立久世高校の佐々木正剛教諭(31)は「農業の起業家教育には緊張感やリスクも伴う。それが生きる力につながる」と強調する。
農業教育の新しい役割が模索されている。(大谷秀樹、写真も)
農業高校 農業、園芸、畜産、食品科学、農業土木など農業に関する学科のある高校。1960~70年代は500校台で推移したが、農業の衰退や少子化で統廃合が進み、現在は380校。このうち農業に関する学科のみを持つ単独校は128校、普通科などとの併設校は174校、多様な科目を生徒が選択できる総合学科高校が78校。
◇◇◇
高齢化…増える生産法人
高齢を理由に引退する農家が相次ぐ中、株式会社や農事組合法人などの形態で農業に取り組む農業生産法人が増えている。国や自治体が後押しする集落営農の法人化も追い風となり、法人で働く雇用就農者数(08年)は前年比15・2%増の8400人になった。
農業就業人口全体の約289万人に比べれば、雇用就農者数は、まだまだ少ないが、39歳以下が65・8%を占めるなど、未来の農業経営者を育む土壌が生まれている。こうした環境の変化を受け、かつてはもっぱら農家の後継者育成を進めてきた農業高校でも、より視野を広げた授業内容への転換を図っている。
2013年度から実施する高校の新学習指導要領では、教科の「農業」に「農業と環境」という履修科目が加わる。農業を通して環境や食の安全などの問題も考える内容だ。文部科学省では「農業に限らず、どの進路に進んでも対応できる課題解決型の人材を育てたい」としている。