地方の活性化や人口減少などを食い止めるため、政府は、「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍晋三首相)の発足に向け、準備室を設置した。


首相ご自身が並々ならぬ意欲をみせているというから、その出来は、政権基盤のありように直結しかねない。


政府・与党からは早くも、創生本部の運営をめぐり、各府省による「予算分捕り合戦」になると危惧する声が出ており、実効性のある政策をどう取りまとめるのか、首相の手腕が問われている。


 「豊かで元気な地方の創生という大きな政策テーマにチャレンジしていく。人口減少問題をはじめ、構造的な課題にも取り組む。幅広い政策分野に精通し、大胆な実行力が必要だ」


 首相は6日、広島市内で記者会見し、9月上旬に行う内閣改造で新設する地方創生担当相について、ある程度の実力者を起用する考えを表明した。


実際、首相はこれまで、「成長戦略の最大の柱は地方の活性化」との考えを示しており、自ら本部長に就く気の入れようをみせている。


 創生本部では、年明けをめどに、「長期ビジョン」と「2020年までの総合戦略」を取りまとめ、地方広域圏ごとに「地方版総合戦略」の策定も進める予定だ。


 地方対策の必要性がにわかに唱えられているのは、民間機関「日本創成会議」の分科会(座長・増田寛也元総務相)が今年5月に発表した人口減少の推計がきっかけで、20~39歳の「若年女性」の減少が影響し、2040年までに約半数の自治体が消滅するとした。


 このため、政府は6月24日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」では、「50年後に1億人程度の安定した人口構造を保持」との方針を示すとともに、「東京への一極集中傾向に歯止めをかける」と強調した。


 ただ、気がかりなのは、地方の活性化策をめぐっては、複数の省庁が構想を策定していることだ。


 例えば、総務省は、東京など三大都市圏以外の政令市や人口20万人以上などの要件を満たす61市を「地方中枢拠点都市」とし、地方交付税などの財政措置をとることで、近隣市町村と連携させ、その圏域の経済成長を牽(けん)引(いん)させる構想を打ち出している。


 国土交通省には、「国土のグランドデザイン2050」構想があり、人口30万人以上の都市圏60~70を対象に、行政サービスのほか、民間企業や大学、病院などの都市機能を圏域で持たせる「高次地方都市連合」を構築すべきだとしている。


 農林水産省も「地域の活力創造プラン」を策定し、農林水産業を成長産業化し、農山漁村への就業を促すことで、雇用や所得を産み出し、活性化に結びつけることなどを提唱している。


 このため、ある政府関係者は「創生本部を設置しても、政策コンテストの様相を呈してしまい、取りまとめ策が各省の政策をホチキスでとめただけのものにならないか」と指摘する。


 各府省庁の縦割りによる政策の重複をどう排除するかが課題であり、「具体的にどのような進め方になるか、首相から指示がなければならない」(新藤義孝総務相)と首相の指導力に期待する声も出ている。総合調整機能が果たせるよう、創生本部の下部組織として、各府省の事務次官クラスによる連絡会議を置く案なども浮上している。


 「政府は今、地方のことで頭がいっぱいだ。滋賀県知事選で支援候補が惜敗し、福島、沖縄両県知事選も先行きが見通せない。来春の統一地方選で党勢が伸び悩めば、『反安倍』の機運が地方から出かねない」


 自民党幹部の一人は、地方対策に躍起な首相の心境をこう察する。創生本部の設置には、統一選をにらんだ「地方のてこ入れ」との思惑があるのは明らかで、首相が長期時な取り組みに加え、今秋、召集予定の臨時国会で地方活性化関連法案の処理に積極姿勢をみせるのは、このためだ。


 もっとも、首相の積極姿勢とは裏腹に、「これといった目玉がない」(別の政府関係者)との弱音も出ており、中小・ベンチャー企業の支援策などが中心になるとみられている。政府には、「首相の地方対策が『掛け声倒れ』にならないよう、腰を入れて取り組む必要がある」(同)との声も出ている。


 統一選を視野に、集団的自衛権の憲法解釈の変更で、ややかげりをみせ始めた内閣支持率の回復を狙う首相とすれば、地方の活性化を軌道に乗せ、来秋の自民党総裁選の再選に弾みをつけたいところ。なるかならぬかは、首相の覚悟一つといえる。