ひんしゅく買う850万円の「職員喫煙所」 



庁舎外に設けて波紋



他人のたばこの煙を吸わされ健康被害を起こす「受動喫煙」をなくそうと、西日本で初めて昨年4月に施行された兵庫県受動喫煙防止条例



「建物内禁煙」を義務づけられた県内8カ所の税務署が、計約850万円を投じて庁舎外にプレハブなどの喫煙施設を設けたことが波紋を広げている。





プレハブ喫煙所に10分で4人。



「もともとは本庁舎内に喫煙所があったのですが、県の条例で庁舎内での喫煙が禁止になった。職場環境を整えるために、外に付け替えなければならなかったのです」

冬は少々寒いが、屋外で携帯灰皿片手に吸ってもらうわけにはいかなかったのだろうか?


「屋外であっても人が通る場所で吸えば、煙が行ってしまう。受動喫煙を重視した結果、喫煙所を囲むのに費用がかかってしまった」

「税務署職員が外でたばこを吸っていたら、納税者から苦情が来る」



「公務に支障がなく、社会通念上認められる時間や回数なら構わないでしょう」



せっかく作ったのに条例違反?


そもそも兵庫県の条例では、官公庁の庁舎について「当該施設の建物内の区域」を禁煙にしなければならないと規定している。税務署敷地内にある喫煙するための建物は、条例違反にはあたらないのだろうか?


「保育所や幼稚園、小中高校などは敷地内禁煙なので違反となりますが、官公庁では庁舎の外に喫煙専用の簡易な構造物を設けることについては禁止していません」



階段下に喫煙所を設けた灘税務署については今年6月、外部からの指摘を受けて現場を確認。一時は「庁舎とは出入り口が別で隔離された空間だが、構造的には庁舎と一体性がある」として「2カ所あるドアを開放すればトンネルのようになって屋外とみなされ、問題なく使用できる。ただ、本庁舎とつながっている外」とアドバイスしたが、最終的にはドアを閉めても条例違反には当たらないと判断した。



大阪国税局は入札前に同室に相談し、違反にはならないとの回答を得ていたという。

たばこのない社会をめざす医師らでつくるNPO法人「日本タバコフリー学会」の薗はじめ事務局長(54)は「人の命を守るための受動喫煙防止条例は、喫煙を確保する場所を優先するようなものではなかったはず。喫煙所の作り方を受動喫煙対策室が教えてあげたとしたら、職員の健康増進のための禁煙という本来の施策に逆行する」と批判し、「勤務時間内に喫煙することによる損失は大きく、外部から見られて困るようなことをさせるべきではない」と訴える。



たばこの煙にはニコチンや発がん物質、一酸化炭素などの有害物質が含まれ、喫煙はがん・循環器・呼吸器・妊娠への影響など広範囲な被害を引き起こす。



厚生労働省によると、国内では喫煙によって毎年12~13万人が死亡し、受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患で、ほかに約6800人が死亡しているとしている。



同学会では、受動喫煙による疾患は他にもあり、年間の死者は2~3万人にのぼると推定。



他の場所で喫煙してきた人が吐き出す息や体に付いた有害物質を吸い込む「サードハンドスモーク」でも健康被害を引き起こし、特に妊婦や子供が吸い込んだ場合、子供の肺の発達に悪影響があることが判明しているという



受動喫煙防止条例は22年4月の神奈川県に続き全国2例目の先進的取り組みだが医療関係者からは「抜け道が多く、中途半端で不完全」と批判も強い。



当初、民間施設にも全面禁煙を義務付けることを検討したが、業界団体の反発を受けて規制内容が後退した。



大学などは建物の公共的空間のみを禁煙とすればよく、小規模な宿泊施設や喫茶店では全域を喫煙区域とすることも可能だ。



「大学が敷地内禁煙にしたら通学路で吸う学生が増え、近隣から苦情が出て、結局敷地内に喫煙所を設けたところもある。そうした事例は他にもたくさんあり、無理に厳しい条例を作っても元に戻るだけ」



「たとえば兵庫県庁では、いつでもどこでも喫煙できたのが19年に執務室内で吸えないようになり、25年から建物内禁煙になった。たばこ問題をめぐる5年、10年の変化は急激で、今後の社会の変化を見ながら進めていきたい」