私がしばしば音楽は学問であるということを言うのは理由があります。音楽の構築はきちんと基礎があり理論があるからで、ただがむしゃらに演奏するだけではないのです。もちろん、天才という存在はいて、そんな頭でっかちになることなく素晴らしい演奏をできる人はたぶん数少ないはずです。そして認めざるを得ないのは、私はそんな天才でないということです。

 

しかしながら、昔の天才的なオーケストラプレーヤーが教えていた音楽理論を私はアメリカにいたころに学ぶ機会があったことを感謝しています。当時の私は音楽は楽しいもの、好きなことを音楽大学で学べるなんて幸せだなぁ、なんて甘っちょろい考えで音大生をしていました。日本での音大受験で自身を追い詰めて生活していた高校時代からすると渡米して間もないころは「ある種の解放感」で幸せだったのでしょう。すぐにどん底に落とされることになるのですが、そんな頃にシカゴ交響楽団首席バスーン奏者であるデヴィッド・マクギル氏のレクチャーでデモ演奏で室内楽の曲を演奏する幸運な機会を得ます。彼の著書「Sound in Motion」のレクチャーでした。

 

レクチャーの場でデモ演奏をしたらマクギル氏は笑顔で私を捕まえレッスンを始めました。言われたことは、それはもうたくさんあってまだ英語に慣れ切れていなかったであろう私はついていくのに必死でした。けど、私は彼が教える音楽に酔いしれました。日本で教わったこともないことで新鮮でした。

 

音楽とは分析的でないといけない、ただの短絡的な根拠のない演奏は芸術的でない、解釈とは分析と検証の繰り返しから導き出されること、彼の話は今でも覚えています。

 

その彼の著書の日本語訳が発売されていることはもうずいぶん経ちましたがどれくらい浸透しているのでしょうか?この本は非常に難しいので理解するには時間がかかりますが、考察した分だけ学べることができます。恩師である指揮者の守山先生もこの本にコメントを寄せているのはとても嬉しいです。