「使者」
思えば、あれは何だったのか?
今でも思い出すたびに、不思議な感覚になる。
それは僕が韓国に来て、最初のインチキ制作会社とやりあっていた頃。4年前かな。その頃のアシスタントの
女の子が急病か何かで休みがちになり、そこの会社が誰かの紹介だかで呼んできたヘルプの子の中に、
韓国の大学へ通う日本人の男の子がいた。名前は南くん。彼はもちろん日本人なのだから、
日本語はできる。韓国語もなんとか、できそうだ。僕は久しぶりの日本人ということもあって、その彼を
臨時でお願いすることにした。
彼は幼い頃から、世界中を転々としていた。ウラジオストック、北京、福岡、北朝鮮。中でも北朝鮮の話は
生々しく、鮮明だった。すごい経験、中でも電車が急な坂で止まり、みんなで押して上ったことがあるとか、
プリクラに長時間並んだが、紙がなくなったので、機械の前で記念写真を撮ったとか、面白かった。
その南くんはなにかというと、僕に〇〇〇に行かないかと誘いをかけてくる。
しかも酔うとおかしな日本語になる。
さらにあれ?と思ったのは、僕よりかなり下の年齢のはずが、なんか世代が分からない話をする。
「ささ、先生さま」と、僕を呼ぶ。
誰なんだ、おい。
あまりにおかしな子なので、気にいり、いろんなところへつれまわした。そしたら彼の父親が急に、日本から
でてきて、僕に息子が先生をお慕いするあまり、大学にいかなくなった、どうしてくれますか?という。
それでこれまで彼が使った行動費を払ってほしいという。70万円くらいあったかな。僕はそれを当時の
会社に申告した。大金だからどうかとは思ったが、彼も困ると思い、やってみた。
そうこうしていると本来のアシスタントが戻ってきた。
すると彼女は彼をなにかがおかしい、怖いと言い出した。それで会社にもう自分が戻ってきたのだから
彼を辞めさせていいのでは?と進言した。会社の人はそれはできないといい、なぜだか二人で僕のアシスタントをしてほしいという。挙句、彼のお金は僕に払ってほしいという。
アシスタントの彼女は、これはいけないと感じて、僕をこの会社から引き離す段取りを組んだ。
国際弁護士をしているという友人が現れ、手続きをした。
僕が書いていた契約書ははなから無効のようだし、南くんのリアルな生活状況は全く見えてこなかった。
そもそも申告した住所におらず、大学はわからなかった。
会社が雇ったのだから、会社に請求するべきものを、なぜ監督に?
請求書などを書いてあげたり、借用書を僕の名前で書いてあげたのも、なんかおかしいからと、手立てを
取ってくれた。
「なんで僕にそんな仕打ちをするんですか」と、彼はアシスタントに電話をしてくるようになった。
彼女が無視をする。
すると、南君は、アシスタントにストーカー行為をするようになった。が、それもしばらくしてなくなった。
彼は僕らの前から消えた。
月日が経ち、去年のこと。
僕がいつものサウナに入っていると、目の前にあの南君が座っていた。
間違いない。彼だ。
僕が声を掛けようかと、じっと考えていると向こうから声を掛けてきた。
だが、おかしい。
完全に韓国の人なのだ。日本語は一切、できないという。
それでこれから日本の映画を学びたいから、日本語を習いたいのだという。
いやいや。僕は冗談ふうに君は友人に似ているといった。
彼は、ありがとう、といった。
それからしばらくは彼とサウナで会ったが、まちがいない。
あの頃も一緒にサウナに入ったが、そのときにも背中の同じ場所に、ほくろがあったよ。
「そんなことがあるんですね」と、彼は笑った。
そのあと、彼は姿をみせなくなった。
僕がパラダイス、というドラマの企画を考えついたのは、これがあったからかも知れない。
つづく