マチネの花屋。表。次の日。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     店のシャッターは下りたまま。


同。内。寝室。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     ベッドの上でマチネが苦しんでいる。

     その朦朧とした視界には、荒い映像の過去の記憶が流れていた。


     夕暮れの道。

     子供のマチネが幼いソワレの手を引いて家路につく途中。

     懐かしい歌。

 

     花屋の中。

     幼いソワレが見つからないように物置の陰で落書きをしていた。

     マチネが入ってくる。「し~」と指を立てた。

     二人で不可思議な落書きをしている。

     笑顔で話しかけてくるソワレ。

     二人を懐中電灯が照らした。

     父親が怒って姉妹を睨んでいた。

     あわてて逃げるマチネとソワレ。


     花畑。

     ぬいぐるみを抱えたマチネが花の冠を手に立ち上がる。

     それは現在のマチネだ。

     家族の乗った車にあの事故を起こした車が近づく。

     マチネは叫びながら、家族の元に走る。

     だが、足を引きずり走るマチネは間に合わない。


     炎。

     「助けてお姉ちゃん・・・痛いよ・・・お姉ちゃん」


マチネ  ソワレ・・・どこにいるの・・・ソワレ!・・・


     燃え盛る炎の中に立ち、ソワレを捜すマチネ。

     炎は,見る見る大きくなって・・・


悲鳴を上げるマチネ。(ドキュメンタリー風な動きある映像)


     マチネは起き上がる。

     辺り一面、果てのない砂漠が広がっていた。

     マチネは立ち上がり、歩き始める。

     どこまでも続く砂の世界。

     マチネは半ば砂に埋もれたぬいぐるみを見つけた。

     拾い上げるとそれは砂に変わってしまった。


マチネ  ・・・みんな、砂になってしまった・・・


     どこからか聞こえてくるノイズ。

     耳を塞ぐマチネ。

     少しずつノイズは大きくなり、マチネを包み込んだ。


マチネの花屋。表。(ドキュメンタリー風な動きある映像)


     来客用のチャイムを押す背広姿の男(ジュノ)。

     店のシャッターが開いて、けだるそうにマチネが顔を出した。


ジュノ  ・・・お休みのところ、申し訳ありません

マチネ  何か

ジュノ  私、ラブライフ社から来ました、パク・ジュノといいます。どこかでラブライフ社の製品をご覧になったことはございますか?

マチネ  いいえ。

ジュノ  そうでしたか。ではここで少しだけでもお時間を頂いて、御説明させていただいても?

マチネ  結構です。

ジュノ  郊外に新しい施設ができまして、今ならそこにご招待して、

マチネ  結構よ。・・・気分が悪いの

ジュノ  わかりました。それではまた日を改めてお伺いさせていただく事にします。お身体、

お大事に


     ジュノはマチネにパンフレットを手渡し去って行った。


マチネ  ・・・なぜここに?

ジュノ  チャンソクさんから

マチネ  ?

ジュノ  ・・・郵便配達のご老人です


     ジュノはマチネに一礼すると、去って行った。


同。店内。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     マチネはテーブルに腰かけて、パンフレットを見ている。

     「人生を取り戻す喜び」というコピー。頁を捲ると、大きな樹の下に集う、幸せそう

     な人々の笑顔。「時間が過ぎて、ふとこれまでの人生を振り返った時、自分がかつて思

     い描いていた夢や理想、目標をいつしか捨て去り、現実という苦しみを押しつけられた

     生き方をさせられている、という思いにかられてはいませんか?我々、ラブライフ社は

     政府認可の下、長年の研究の成果をここに実現させるに至りました。皆様の記憶に

     残る夢やかつて抱いた理想を我々が物語化し、第2の人生として体験していただける 

     のです。もちろんフィクション、ノンフィクションは問いません。約12万通りのシナリ

     オと映像から皆様の希望に見合った物語を選択、きっとご満足いただけると自負して

     おります」

     マチネはパラパラと頁を捲ると、そのまま屑籠に放り投げた。

     そのまま頭を抱えて、呆けたように街の通りを眺めている。

     思いついたように立ち上がるマチネ。


街。通り。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     買い物籠を下げたマチネ。

     すれ違う子供連れ。

     少女がぬいぐるみを抱えている。

     微笑みかける少女。


同。川沿いの道。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     ベンチに座って水面を見詰めているマチネ。


マチネの花屋。表。夕暮れ。(ドキュメンタリー風の動きある映像)


     店の中をスンシと確認しあっている叔父さんの姿が見えた。

     叔父さんはポラロイドで写真を撮っていた。

     マチネがあわてて店に戻って来る。


マチネ  叔父さん、何をしているんです?

叔父さん ・・・あぁマチネ

マチネ  ここは売らないといいましたよね?

叔父さん マチネ、何度も言うようだが、君の将来にここは必要ないんだよ

マチネ  私の家はここです。ここが私の場所なんです

叔父さん そう悪く考えるんじゃない。・・・ここを売って、治療に専念するんだ。君はまだ若い

マチネ  心配してもらわなくても平気です

叔父さん ここで今後も細々と花を売り、借金を増やすつもりか?これ以上面倒見切れないぞ

マチネ  ・・・帰ってください

叔父さん ・・・これは?


     叔父さんは新聞を取り出した。

     そこには小さくマチネの出したソワレを探す記事が掲載されていた。


マチネ  返してください

叔父さん マチネ、ソワレはいないんだ

マチネ  (新聞を奪い取り)ソワレは、生きています

叔父さん マチネ・・・ソワレはいない

マチネ  生きてます・・・ソワレは必ず生きているんです


     マチネの瞳から涙が毀れる。

     

マチネ  ソワレは・・・


     そのまましゃがみ込んで泣き出してしまう。


同。店内。夜。(ドキュメンタリー風な動きある映像)


     泣き疲れ椅子に座って放心しているマチネ。

     手に持ったままの新聞記事をぼんやりと見詰めた。

     記事に落ちる血痕。


〇同。浴室。(ドキュメンタリー風な動きある映像)


     マチネ、薬を取り出した。

     脳裏に浮かぶ、叔父さんの声。

     「マチネ、ソワレはいないんだ」

     マチネ、叔父さんの記憶を振り払う。


     脳裏に浮かぶ、ソワレの記憶

     夕暮れの道。

     歌う子供のマチネ。

     ぼんやりと霞むソワレのような影。

     映像がノイズにかき消され、ソワレが出てこない。


     痛みを堪えて記憶を探るマチネ。


     落書きをしている子供のマチネ。

     ノイズが激しく記憶を歪ませた。

     そこでもソワレは影でしかない。


     思い出せない事がありえないと、首を振るマチネ。

     痛みに耐えられなくなり、床に薬をばら撒いてしまう。


     急速に記憶の中から消えていく、ソワレの面影。

     マチネ、ソワレの記憶を思い出そうと記憶を辿る。


     事故の時の記憶が浮かび上がる。

     血まみれのマチネ。

     遠くに聞こえる子供の泣き声。


マチネ  ・・・どこにいるの・・・どこ・・・


     「ソワレはいないんだ」

     叔父さんの声。


マチネ  ・・・ソワレ・・・ソワレが消えていく・・・


     痛みによろめきながらも、マチネは浴室から出て行く。

     ドアを勢いよく開いた。

     だが、そこは・・・・


つづく