偽名ですが、よく読むと意外な人が出てきたりします


2004年。ロサンゼルス。

すいません。電車で寝過ごしたら間違ってアメリカに来てしまいました。まさしくそんな表現がピッタリな渡航であった。僕は確かにカンボジアのアンコールワットで、悲しみを忘れるための樹を探していたはずだった。遺跡を彷徨い、樹という樹を触りまくり、穴を探した。それらしいものはいくつかあったのだが、僕としては合点がいかなかった。さらに遺跡の奥へ奥へと入っていった僕の目の前に、なにやら撮影をしているらしい連中がいた。外人だらけだった。こっちもここでは外人だけどね。その撮影クルーの中の一人が僕を見て叫んだ。「グレイト」・・・誰なんだ、お前は。彼は俺に謝りながら、手を引っ張り、カメラの前に連れて行く。ちょっと待てよ。木村拓哉風。・・・するとディレクター風の髭もじゃのおっさんが、「グレイト」・・・お前も誰なんだ。すると日本語の話せない現地の通訳が来て、僕に絵コンテを見せる。そこに描かれていたのは、遥か昔のカンボジアの再現シーン。一人の若者が恋に破れて自害するというカット。ちょっと待った。ねるとん風。このコンテに描かれた若者、僕に似てねえか。周りを見渡すと、スタッフや俳優が親指を立てて「グレイト」・・・ここまで忠実でなくてもいいだろう。なぁ。それから僕は衣装を着せられ、初の海外テレビ出演。嬉しいのかな・・・。しかしここは気合を入れて、それもおかしいんだが、ちゃんと演じて見せた。何度かNGを出したが、ちゃんと撮り終えることができた。

その撮影の時に、トムというアシスタントディレクターと仲良くなった。彼と飲み歩いているうちに、なんだか熱くなり、一緒に何か仕事をしようとなった。僕は酔いと嬉しさのあまり、彼らと同じ飛行機でアメリカへ・・・。

ロサンゼルスは過去に何度か来ていたが、こうして改めて来てみると何もないな、という印象しかなかった。昔、泥レスショーでコテンパンにやられた記憶しか無かった。あぁ、あと、ディズニーランドでなぜか宙吊りになったな・・・。トムは快く自分の部屋に泊めてくれた。その大きな部屋で彼は映画について、熱く語った。どんな映画が好きか、俳優とは何か。そして自分の目標がもっと大きな所にあることを。僕はアメリカでもこんなに熱く、夢や希望を語れるやつがいたなんてと、僕はなんか勇気が出てきたような気がした。

「裕介、お前は信用できるな」と、トムが笑った。

僕は頷いた。

「俺が知りたいか」

なんか怪しげな雰囲気に包まれ、僕は若干ネガティブになった。な、何が起きるんだ。トムは待ってろ、というと、奥の部屋に入っていった。まさか撃たれるのでは?僕は中腰になって、いつでも逃げられるように身構えた。銃なら逃げられないんだけどね。そして30分ほど経ったころ、トムが奥から声を掛けてきた。

「こっちに来てくれ」

僕は恐る恐るトムがいる部屋のドアを開ける。

・・・と、そこにはバラの花に埋もれて女装したトムがベットに横たわっていた。

「これが本当の俺さ」

・・・僕はドアを閉めてそのまま部屋を出て行った。

アメリカからも出ていった。

「遠くに何が見えているの?」

日本に戻る飛行機の中、何も見えない真っ黒な窓の外をじっと僕は見詰めている。

飛行機の轟音がゆっくりと雨の音に変わっていく。

僕の中のミカハちゃんはいつも泣いていた。あの雨の日。ほんの数か月前。

「何が見えるか分かっていたら、僕は走らない」

そう口にしてから僕は、「このままいつまで走れるのかな・・・」と思った。

その僕の目の前に、全ての始まりが蘇る。

1985年東京。