かれこれ約10年ほど前まで、私は横浜に住んでいました。学校を卒業して向こうに就職していたのです。
その当時住んでいた、今となっては何もかも懐かしい街で何とも痛ましい事故が起き、胸を痛めました。例の踏切事故です…。何度も通ったお馴染みの踏切でした。ニュースで見た時は愕然としました。


この事故を受けて、私の身近な人間が…まあ私の親父なんですけど、
「こういう人にこそ国民栄誉賞あげたらいいんだ」
とか言い出しまして、それが非常に癇に障ったのでした。

確かに犠牲になった方の行動、その精神性、紛れもなく美しく、尊いものです。しかしマスコミの報道を見ていると、何か美談にしようとしているように感じてしまうんです。

私はこの事故を「我が身を顧みず人を救った勇気ある行動」とか「偉い」とか、そういった形でまとめようとするのはズレてると思うんです。非常に違和感を感じます。ましてや国民栄誉賞だなんて冗談じゃありません。この事故はとにかくただただ悲しく、やり切れないだけです。
犠牲者の方の行動に感動するのも、その行動を賞賛するのも、確かにそれは人情的には無理もない事でしょう。しかし、私には「悲しい」以外の声がノイズに感じられてしまうんですね…。
ただ生きて助かって欲しかった…。いい死に方なんて無いんです。死んじゃダメだよ…。


もし「悲しい」以外の形でこの事故を完結するのであれば、二度とこういう悲劇が起こらないように防止対策を―――こんな時はまず非常停止ボタンを押すことを優先する、などといった対処法の周知徹底を―――そんなドライな言い方になりますね、私は…。でなければ誰も救えません。また同じ事が起こり得ますからね…。


犠牲者のご冥福をお祈りします。