あるきだす言葉たちから


すずきぎゅうご  1961年北海道小樽市生まれ
藍生/雪華/イタック/いつき組 所属
句集 根雲と記す/暖色
第64回角川俳句賞



春の独り言


春来る牛より近く空を見て

春の闇鹿の眼尖る路側帯

光を踏み影を踏み春雪を踏む

根明きして生きてゐるものゐないもの

屋根雪に春の深さの一亀裂

農道のずろりずろりと融雪期

牛越しに山羊と目があふ目借時

望郷や雪間を青山河と思ふ

春の日も入れ点滴はゆつくりと

残雪や牛には聞かす独り言

春宵の子宮に仔牛灯のごとく

春の土踏みてこの世に跡残す