全国で初めて「教師によるいじめ」と認定された体罰事件を追ったノンフィクションです。
差別発言、教え子への暴力─あらぬ疑いをかけられ、マスコミに「殺人教師」のレッテルを貼られて追い詰められる担任教師。
しかし、その教諭は、真実を主張し続け、ついに冤罪を証明させたのでした。
衝撃を受けました。こんなにも簡単に真実がねじ曲げられ、無実の人間がなすすべもなく追い込まれるものなのか。一体何を信じればよいのか。
事実が歪められた原因の一つとして、何ら実体のない中で世の風潮に流され、過熱報道に走ってしまったマスコミの在り方も挙げられるでしょう。実際、私も、この本を読み終わった時、無実の教師を追い込んだマスコミやメディアに不信感や嫌悪感を抱いてしまいました。
しかし、短絡的に「マスコミを疑ってかかれ。売れるためには手段を選ばないのだから。」という目を持ってしまうと、それは、先入観を持ってこの教師を見てしまったマスコミと同じ轍を踏んでしまうのではないかと思うのです。
先行きの見えにくい世の中です。「これは善。これは悪。」と、すっきりと解決してくれることを期待する気持ちもよく分かります。しかし、それが行き過ぎた時、人は考えることをやめ、誤った方向に進む社会をだれも止められなくなってしまうのではないでしょうか。
現代社会の病理を鋭く切り出したこの本は、マスコミやメディアの在り方を考えさせると同時に、私自身の在り方も問われているように思いました。