できないことを楽しむ ─『わたしと小鳥と鈴と』(金子みすゞ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 わたしが両手をひろげても、

 お空はちっとも飛べないが、

 飛べる小鳥はわたしのように、

 地面(じべた)をはやくは走れない。

  (金子みすゞ『わたしと小鳥と鈴と』より抜粋)

 

 この詩について、金子みすゞ記念館館長の矢﨑節夫さんが、次のように言っています。

 

 この作品の一番面白いところは、できないことと知らないことしか書いていないところです。できないこと、知らないことがいっぱいでも、「みんなちがって、みんないい。」と書いてあるのですね。

 

 大人になると、できないことをごまかしたり、遠ざけたり・・・。でも、子どもは、できないことも楽しめる素質があるようです。

 例えば、積み木遊びをしていて、タワーが完成しては大喜び、途中で崩れては大はしゃぎ。そんな姿を目にすると、できないことも悪くないなあと感じます。

 

 

 私の妻は、地元の小学校の支援員(子どもたちの学習や生活のサポートをする人)。今日は校内マラソン大会でした。

 妻は、練習の時から、走るのが苦手な男の子・Y君に付いていました。

 今日の本番も、Y君は友達に随分離されてゴールしたようですが、その時、

「今日は、ライオンに食べられなかった?」

と妻に聞いたそうです。

 どうやら、練習の時から妻はY君に、

「アフリカやったらな、走るのが遅かったら、一番にライオンにつかまって食べられるんで! ライオンが追いかけて来よるつもりで走り!」

と脅していたようです。(やっぱり恐い女だ・・・)

 ライオンが追いかけて来ているという物語を描き、苦手なマラソンを楽しんで走ったY君。彼のほほえましさと、妻の恐ろしさと、両方が入り混じる複雑な気分でした。