角辻順子が倒れたのは、

2019年の2月17日。

    
六本木Real Diva'sでライブの直前リハで緊急搬送された。


その数日後に、僕と奥さんと友達のくわちゃんと、そして角辻順子ちゃんの4人で、
お寿司を食べにいく約束をしてた。
       

   
関係者から

 

「順子が脳内出血で倒れた、サミイに寿司屋に行けないと連絡してほしいと言われた」
 
と電話があった。

       

   
順子ちゃんは緊急搬送の対応が早かったので、一名は取り留めたものの、右顔面神経麻痺、右片麻痺と構音障害を抱えて、入院する事になった。
  
1年後にはだいぶ回復して、改めて、緊急搬送の数日後に予定していた寿司屋に同じメンバーで行った。
元気になってよかった、と思ったけど、もともとは張りのある、女性としては太さを感じる話し声だった順子ちゃんの声は、ふんわりと軽い空気のような声になっていて、やはり少し麻痺は残っている感じで、もともと歌っていた歌を、同じように歌える状態ではないんだな、と、少なからずショックを受けた。
でも、順子ちゃんは、すこぶる明るくて、どんな形でも必ず復活するんだと言ってて、その時、本当に何か動き出す時、力になりたい、と思った。
新しい角辻順子、の歌を歌えるようになってほしいと、心から祈った。 
   

   
それからしばらくして、デモテープが送られてきた。
順子ちゃんはもともとギターもうまく、独特の演奏スタイルでの弾き語りも魅力のミュージシャンだった。
デモテープは、闘病の中でできてきた新曲で、、
     

 

右手が思うように動かせないから、
コードを覚えたばかりの初心者のようにおぼつかなくなってしまったギター演奏と、
音だけを聴けば、元の角辻順子からは想像もつかない、
まだ力の入らない、音程もうまくコントロールできていない声で録音されていた。
 
いい曲だった。
今だから言うが、もしこの歌を、
     
倒れる前の角辻順子がギターを弾いて歌っていたら、


と、思うと、失礼を承知で言うが、

初めて聴いたときは、正直な気持ちとして、
どこにぶつけていいのかわからない腹立たしさと、哀れみと、悔しさでいっぱいになった。
  
ただ、何度も聴くうちに、明らかに、以前より更に力強い何かがあるように思えてならなくなってきた。
下手なのです。当然です。
病気前のように、「上手い」歌、演奏ができるわけがない。
   

    

うまく使えない右手でギターを弾き、
うまくコントロールできない声で歌っているのだ、
上手く演奏できるわけがない。
  

    
でも、強いんです。
そして何より、楽曲が、いかにも角辻順子なんだ。


その時の、その状態の歌で、順子ちゃんがどう思うかはわからなかったけれど、
これは、音源にして残すべきだと思ったのです。
だから、それを順子ちゃんに話、アレンジ、楽器演奏、全て僕がやるから、
音源配信に出したらどうだろう??
と話すと、順子ちゃんは、やってみたい、と言ったんです。

だから、何しろノープレッシャーで、まず、作るだけ作ってみて、
で、出したくなかったら、ただ記念として残したらいいし、
出来上がったものを、出そうと思ったら出したらいい。
僕の労力への忖度とかは絶対にしない事、
角辻順子として、出したい、と思うかどうか、

それだけで判断する事、

という約束を入念にして、プロジェクトを開始した。
  

      

    
今になって、僕だったらできただろうか、、って思う。
あれだけの歌を歌い自分で演奏をしていたところから、
ライブ前のリハで倒れ、緊急搬送されて、
  
ずいぶん頑張ったのだろう、それでも、まだ、
右手はうまく動かない、声もコントロールできない、
で、配信音源を作ろうって言われて、
たとえ、気に入らなかったら出さなければいい、としても、
僕は、たぶん、プライドがどうこうとか、そんな事にとらわれて、

     


「まだ、今じゃない、
 もう少しできるようになってから」
   

  
って言っただろうと思う。
翻って自分に当てはめてみたら、僕にはそんな勇気はなかっただろうと思う。

   

   
それからの僕はなかなか鬼だったんじゃないかな。

    
歌の練習のデモの細かいところ、

この部分をもう一息、強い声にできないか、
この部分をもう少し安定させられないか、

なんならその一節のその部分だけを録音した状態でやってみてくれ、
   

  
なんどもダメ出しして、
そこまでを要求しちゃいけないかもしれない、って思いながら、
でも、ここまで出せるなら、きっと出せる、
ここまでコントロールできるなら、もっと上手くやれる、
どうしても、ついついもっと上、と、要求してしまうのです。
 

     

でも順子ちゃんはまるでそれを楽しんでいるかのように、
まったく腐らず、諦めず、練習して練習して、
なんとかきつい修正をかけずに音源にできるところまで持ってきた。
ボーカルレコーディングには、滝千奈美ちゃんにもずいぶんお世話になって、

いろいろアドバイスももらって、

楽器のアレンジと、順子ちゃんの声と、
なんどもなんどもやり直しながらミックスして、

     


そうやって、角辻順子、復活の歌、

「心-shin-世界」

 

が出来上がり、2020.11.11に配信を開始した。


それから、
2年半、先日、角辻順子は、少しずつライブ活動も復活し始め、
三軒茶屋グレープフルーツムーンにて、ライブを開催した。
その中で、「心-shin-世界」を初めてバンドで演奏をバックにライブで披露した。

その動画を、僕に送ってきた。
きっと、ここまで歌えるようにもどったから聴いてくれ、という気持ちがあっただろうと思う。

ライブで、バンド演奏をバックに歌う
「心-shin-世界」

久しぶりにライブで歌う順子ちゃんの動画を見て、
ライブで、ここまで回復して歌っている事、
そして、改めて曲のよさ、にすこぶる感動した。

だから、これ、YOUTUBEださないの?って聞いたら、さっそくバンドメンバーさん達に連絡をとってUPしてくれた。

 

 

すごいなぁ、、本当にすごい。
僕は、あの時、寿司屋で、

もうあの頃の順子ちゃんの声はでないのかもしれない、
もうあの頃のような上手な歌は聴けないのだだろう、
と思った。

あの頃のような物理的な力強さや、
あの頃のような音程のコントールの良さは、ない。

それでいいんだ、これが今の角辻順子だ、
遥かに大きな説得力と、歌えるよろこびに溢れた歌になっていた。

 




「心-shin-世界」

の配信を出した後、
少し無理をさせたのではないか、、

という気持ちがあって、聴くのがすこし怖くなっていた。
 
改めて聴いてみた。
やってよかったと思った。
いい歌です。

ぜひ聴いてください。

これが、たくさん聴かれる事、

上のYOUTUBE動画のアクセスが上がっていく事、

なによりの応援になります。

あれだけの大病から、ほんとうにここまで、
よく頑張った。

人として、そして、ミュージシャンとして
心から尊敬する。
  

今の僕の勇気にもなっています。