先日、生態学や動物行動学系と科学哲学の研究者・大学院生が統計数理研究所に集まってセミナーを開催しました。

私はA. Gelmanによる表題の論文に関して内容を紹介しました。

以下に論文へのリンクと、セミナー時に配布したレジュメを添付します。

 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.2044-8317.2011.02037.x

https://www.dropbox.com/s/qurwsw9ixfw7ln9/Philosophy%20and%20the%20practice%20of%20Bayesian%20statistics.docx.pdf?dl=0

 

ごく簡潔にGelmanの主張を紹介すると、

1. ベイズ統計学は、科学哲学の”ベイズ主義”の影響をうけて長らく以下のように解釈されてきた:

・ベイズ統計は、データを使って事前分布から事後分布へと更新する

・この時、事前分布は「事前の信念」であり事後分布は「仮説が正しい確率である」

 

2. しかし近年のベイズ統計においては、上のような見解を維持することが困難である

・事前分布はRIdge回帰やLASSO回帰のように推定値を安定化させるための道具であり、主観的な事前の信念を反映させるものではない

・事前分布は、事後予測分布などを通じて客観的に評価可能である

・事後分布は、「データが与えられた元での仮説が正しい確率」を教えてくれない

 

3. 哲学者には、是非こうした近年のベイズ統計の動向を視野に入れて考察を深めてもらいたい

 

Gelmanはこうした主張をするために「帰納推論」「演繹推論」の違いに着目して議論を進めているものの、

セミナー中では、そのカテゴライズに様々な問題があることが指摘されました。

とはいえ頻度主義者のD.Mayoの見解を積極的に取り入れるなど、哲学的にも興味深い話題が提供されていることには間違いないような印象を受けました。