・Introduction

数学の一分野としての確率論は16-17世紀くらいに賭博に関する研究をきっかけに成立したと言われるが、現代的な意味での確率論が最初に整備されたのは1933年にロシア人の数学者アンドレイ・コルモゴロフが確率の公理を定めた時であるというのが一般的な見解のようだ。しかし、一部の人はこの公理に欠陥があるのではないか?と議論している。以下、オーストラリアの科学哲学者 Allan Hajekの論文"Conditionak Probability"の議論を抜粋して紹介する。

 

・コルモゴロフの公理と比による分析

コルモゴロフの確率公理は、以下の三つから構成される

 

「空でない集合Ω、Ωの部分集合F,そしてFから実数への関数Pを考えた時、

1. 全てのA∈Fについて、P(A)≧0

2. P(Ω)=1

3. 全てのA,B ∈ FについてA∩B = ∅  の時、P(A∪B) = P(A)+P(B)」

 

ここでPを確率関数、<Ω,F,P>を確率空間と呼ぶ。

 

この公理に基づいて、コルモゴロフは条件付き確率を以下のように定義する

 

P(A|B)=P(A∩B)/P(B) (ただし、P(B)>0 )

 

ここで、「無条件確率こそが確率の根源的概念であり、条件付き確率は無条件付き確率の比として定義される」という点が重要である。Hajekは、条件付き確率をこの定義で捉えることが一見合理的であり、多くの成功を収めていることを2〜3節で解説している。

 

・比による分析の孕む問題点

しかし、実は条件付き確率を比に基づいて定義するべきではない、というのがHajekの見解である。その根拠となるのは、

・条件付き確率を与えることが(直観的に)妥当であるように思われるが、コルモゴロフの与えた定義では条件付き確率を与えられない例が存在する

ということだ。

 

そうした例の中で特に重要なのが、P(A|B)においてP(B)=0の場合である。

 

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例:地球を完全な球であると仮定して、地表のある一点をランダムに指定したとする。この時、

P(その点が西半球にある|その点が赤道上にある)

はいくらだろうか。直観的には、赤道上で西半球に属する部分と東半球に属する部分は半々であるから、

P(その点が西半球にある|その点が赤道上にある)=1/2

であるように思われる。しかしコルモゴロフの与えた比の定義に基づくと、そうはならない。なぜなら、地球表面にランダムな点を指定する時緯度(南緯90°〜赤道〜北緯90°)は連続値を取るのでP(ランダムに選んだ点がちょうど赤道上になる)=0となるからだ。条件付き確率を比によってい定義するのであれば、

P(B)=0の場合そもそもP(A|B)を定義できなくなってしまう。

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Hajekは他にもいくつかの例を挙げて、コルモゴロフの公理では説明できないケースを指摘している。

 

・代案

ここで考えられる代案は、以下のどちらかだ。

1: コルモゴロフの確率公理に修正を加えて、あくまで「無条件付き確率こそが根源的概念であり、条件付き確率は、無条件付き確率から導かれる」という見解を擁護する

2:そもそもは条件付き確率こそが基礎概念であり、無条件付き確率は条件付き確率の特殊例である、という見解を取る。

 

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