spoonアプリのtalk機能にて、書き手をしていたユリンですハロウィン

spoonアプリのtalkにて投稿していた、長編もの《染師》の台本置き場となります(現時点で未完)。

talk機能が10月4日でほぼ機能が停止したため、こちらに置かせていただきます。


台詞のみとなります。とても長いので、spoonにて投稿してきた今までの分は20~30話ずつ分けて掲載します。
今回は91~120話。
91
「しかもそのストール、ご友人の手拭いと、生地と柄がお揃いで…
 …その友情が、まさか後の事件に繋がろうとは、ご友人も想像していなかったでしょう…
  ストールを受け取った帰り、翌日に控えた取材最終日についての打ち合わせで貴方だけが店に残った。それが終わり宿泊施設に帰る途中、店に行こうとしていたご令嬢(ご令息)とうっかり鉢合わせてしまった」

92
「そして、貴方の首に巻かれたストールを見て、激昂した。それは自分がもらうはずだ、返せと。無理やり奪い取ろうとしてくる姿勢に、貴方も抵抗した。
 しばらく揉み合いになったが、近くを通りかかった人が助けに入り、ご令嬢(ご令息)は逃げていった。
 事なきを得たと、その時は安堵していた」

93
「警察への相談も考えた。だがご友人から、ご令嬢(ご令息)が過去に起こした様々な事件は、家の権力で全て揉み消されてきたらしいと聞いていたため、耐えるしかなかった。
 そして宿泊施設に戻ると、同行していたカメラマンから、“染物屋から明日の取材時間の変更の申し入れがあった”と伝えられた」

94
「この時、貴方は少し違和感を覚えた。というのも、京都を訪れる前から取材のアポは貴方が取っていた。
 共に取材に来ていたカメラマンとライターも、染物屋主人に名刺は渡していたので、連絡先を知っていることはおかしくないが、何故自分ではなくわざわざカメラマンに?と疑問に思った」

95
「それでも不思議に思う程度だった。取材時間は1時間ほど早められたものの、そのカメラマンとは何度も一緒に仕事をしてきた仲だ。伝達ミスもないだろうと、その時間変更を了承した。
 …そうですね、この時貴方が直接染物屋のご主人に確認すれば…最悪の事態は起きなかったかもしれませんね」

96
「そうして迎えた取材最終日。貴方と仕事仲間たちは、午前中から染物屋へ向かった。店の扉越しに声をかけるが、返事は返ってこない。妙だと思って扉を開けて改めて声をかけるが、誰かがいる雰囲気すらなかった。どうしたことかと考え込んでいた貴方は、すぐ後ろに立つ人影に気づかなかった」

97
「そうして小さく、『ごめんなさい』という声が聞こえたかと思うと、背中を押される感触と共に、貴方は店の中に倒れこんだ。その声は今回一緒に仕事をする仲間のもの。…カメラマンに突き飛ばされたと理解するも、痛みで貴方はすぐに立ち上がることができなかった」

98
「そうして倒れこむ貴方をよそに、すばやく扉が閉まる音が聞こえた。嫌な予感がした貴方は、なんとか身体を起こして走り寄った。だが、扉は開かない。
外にいるはずのカメラマンとライターに助けを求めるも、返ってくるのは『ごめんなさい』ばかりで、二人が助けてくれる様子はなかった」

99
「そうして急ぎ足で去っていく音が聞こえた。二人が去ってからも、つっかえ棒でもされているのか、扉は開かなかった。
どうしてと、仕事仲間からの仕打ちに貴方は呆然とした。
携帯で連絡を取ろうにも、荷物は突き飛ばされた時に身体から離れてしまい、二人が持っていってしまったのか見当たらなかった」

100
「なんとか扉を開けようと力を込めるも、びくともしない。仕事仲間たちの言動の意図もわからない。ご友人とご主人が来るのを待つしかないかと諦めかけた時、ふと焦げ臭い匂いが漂ってきていることに気がついた。
何かと思って匂いをたどると、店の奥から煙が見えた。まさかと思って奥に急ぐと、そこには火が上がっていた」

101
「火自体はまだそれほど大きくなく、消火器があれば消し止められそうな程度のものだった。貴方は連日の取材で、消火器の設置位置も把握していた。
焦る気持ちを押さえながら取りに向かうが、何故かいつも置いてあるはずの消火器はそこになかった。おかしい、と考えている暇はなかった」

102
「染物屋の建物は、運の悪いことに木造だった。火はあっという間に燃え広がっていく。
格子になっている窓から助けを呼ぼうにも、その近くで火が上がっていたため、近寄ることができなかった。
貴方は必死に入口の扉を叩き、助けを求めて声を張り上げた。だが、無情にもそれに応える声はなかった」

103
「そうこうしているうちに、火の廻りは早くなっていく。とうとう貴方のいる入口近くにまで、熱と煙が迫ってきた。
親友からもらって身につけていたストールで口元を覆うも、それでも限度がある。息苦しさと熱に、意識が朦朧としてきていた。
自分はここで死ぬのかと諦めかけたその時、扉越しに貴方の名前を呼ぶ声が聴こえた」

104
「張り上げるような声と共に扉は開かれた。そこにいたのは、必死の形相の貴方の親友だった。
彼(彼女)は貴方を見てすぐに駆け寄った。謝罪と励ましの声をかけながら、肩を貸して立ち上がらせてくれた。そうして歩みを進めた時…貴方たちに最悪の悲劇が降りかかった」

105
「剥き出しの状態で立っていた柱が、炎に呑み込まれたことで折れてしまい、火柱となって貴方たちの方へ倒れてきた。
貴方は少し煙を吸ってしまっていたこともあり力が入らず、突然のこともあり避けようがなかった。今度こそ死を覚悟したその瞬間、親友は入口に向かって、力の限り貴方を突き飛ばした」

106
「勢い良く押され、貴方が店の外の地面に倒れ込んだ瞬間、轟音が鳴り響いた。振り替えると、先ほどの火柱が倒れ、炎が燃え広がっていた。
そしてその隙間から…力なく伸ばされた手が見えた。
貴方は…その光景に絶叫した」

107
「何度も親友の名前を叫び、中に入ろうとした。だが、集まってきていた近所の人たちによって止められた。
そうこうしているうちに消防隊が到着した。中に人がいると聞いて入ろうとするも、さらに炎の勢いは増し、入口は火の海だった。そのため突入は不可能と判断され、消火活動が優先された」

108
「貴方は煙を吸い込んでいたことで気管にやけどを負っており、その状態で叫び過ぎたこともあって呼吸困難になった。担架に乗せられたような気がするも、そこで意識が途切れた。
 その間際も、火柱の下から伸びる親友の手の光景が、頭から離れなかった。
そうして貴方が次に目を覚ました場所は、病院だった」

109
「貴方は丸一日眠り続けていた。やけどの症状で気道の粘膜が腫れてしまい、それによる呼吸困難を防ぐために気管チューブを挿入された状態だった。しばらくは入院だと医師からの説明を受けた。
貴方が火事に巻き込まれたことを聞いてかけつけていた両親は、意識が戻ったことを心から喜んでくれた」

110
「しかし貴方の頭の中は、自身が生きている喜びよりも、あの火事の惨状のことでいっぱいだった。
親友はどうなったのか、仕事仲間たちの態度や消火器がなかったのはどういうことなのか。
聞きたくても聞けない状態が続いた数日後、貴方の病室に警察が訪ねてきた。
そして告げられたのは…親友の死だった」

111
「わかっていた。あの状況では、奇跡が起きない限り助からないだろうということも。それでも、それでもと思い続けていた。でも、叶わなかった。
絶望している貴方に、警察は言葉をかけた。その内容は耳を疑うものだった。
“放火したのはお前だろう”と」

112
「まるで犯人扱いの言葉に、一瞬理解ができなかった。それでもすぐに首を横に振った。
気管チューブのせいで話せない貴方に、警察は続けた。曰く、亡くなった親友への嫉妬による怨恨だろう、証人もいる、と。
何か言いたいことはと、筆談のためのメモとペンを受け取った貴方は、そこに書き記した」

113
「“自分は放火なんてしていない。取材をしに染物屋に向かっただけであり、その時一緒にいた仕事仲間たちに閉じ込められた。その後火事に巻き込まれ、親友に助けられた。親友を害するなんて考えたこともありません”
…ただ事実のみを、簡潔に書き留めた。しかしそのメモを見た警察はこう言い放った」

114
「その仕事仲間こそが貴方の放火を目撃した証人である、と。
しかも、取材の約束は放火のあった時間から約1時間後だったはずだと染物屋の店主から聞いたという。
仕事仲間たちは、取材前に時間があったから散策していた、閉じ込めてなんていない、と証言したとのことだった。
何故閉じ込められたなんて嘘をつく?と貴方は詰められた」

115
「さらに仕事仲間たちは、
“取材前に散策に出た際、突然編集の彼女(彼)が自分たちに荷物を預けたかと思えば1人で去って行ったので追いかけた。すると染物屋の裏手におり、格子の窓に向かって何かを投げ入れるのが見えた。たぶんマッチだろう。店の中には自分で入ったのでは?”
と証言したと警察は告げた」

116
「貴方はそれを聞いて唖然とした。何もかも…嘘だらけだ。
そして再びペンを走らせた。
仕事仲間たちが言っていることは全て嘘であること。
取材時間については、1時間前に変更したいと染物屋から申し出があったとカメラマンから聞いたからあの時間に行っただけだということ。
散策なんてしていないということ。…そしてさらに続けて書いた」

117
「閉じ込められたのも本当であり、荷物はその時に持っていかれたこと。あんな危険な状態の店の中に自ら入るわけがないこと。
親友が玄関の扉を開けてくれて助けてくれた。疑うようならあの時集まっていた人たちに聞いてほしい。
そう焦りながらも書き終えた貴方に、警察は無情にも告げた。
そんなことを聞いても無駄だと」

118
「自殺覚悟で店の中に入っただけかもしれない。
とにかく証人がいる。お前が犯人で間違いない。…今は声での自白も引き出せない。気管チューブが外れ、退院する日に逮捕状を持ってまた来る。
…そう宣言して病室を去っていく警察たちの背を、貴方はただ見つめることしかできなかった」

119
「どうしてこうなったのか…貴方は思わず両手で顔を覆った。
何故自分が放火犯として逮捕されなければならないのか?しかも親友を殺害するためにやったのだろうというめちゃくちゃな理由で…
これからどうしたらいいのか。悩みながらも、とりあえず貴方はご両親に連絡を取った」

120
「先ほどの警察との話を、震える手で文字として打ち込んだ。時間はかかったものの、送信ボタンを押し、返事を待った。
だが返信が来る前に、貴方の病室を訪れた者がいた。それは、あのご令嬢(ご令息)だった。
怒りに顔を歪ませながら近づいてきたかと思うと、貴方に向かって叫んだ。
“なんであんたが生きてるんだ!”と」



※次回はspoonアプリ内にて投稿済みの、121話~127話(最新話)を投稿します。
その後は1、2話ずつ続きを更新していきます。紅葉