「グローリー」 | YURIKAの囁き

「グローリー」

 ’89年 アメリカ映画 122分


 近代アメリカのターニング・ポイントとなった南北戦争。北軍に実在した黒人部隊という知られざる史実を確かな考証で描いた作品が『グローリー』です。

 1861年に始まった南北戦争は黒人奴隷をめぐる対立として語られることが多いなか、現実にはイギリスに対抗して保護貿易で工業化を進めたい北部と、奴隷制プランテーションによる綿花の輸出を自由貿易で増加させたい南部の経済戦争でした。1868年の奴隷解放宣言は戦争の名目として必要な建て前にすぎなく、映画では、北軍内部の黒人蔑視 (奴隷解放論者も必ずしも彼らを人間とは見ていなかったようです)、黒人兵への物資や報酬の貧しさ、黒人同士の対立も浮き彫りにされています。

 黒人部隊の指揮官で弱冠25歳のショー大佐(マシュー・ブロデリック)は、”理解しようとしても彼らの考え方や音楽は僕には異質なものだ” と述懐します。ですが、白人を憎悪するトリップ(デンゼル・ワシントン)や白人を批判するけれど融和的なローリンズ(モーガン・フリーマン)らの信頼を次第に得ていきます。そして部隊は、難攻不落の砦フォート・ワグナーへと向う・・・・。

 戦いの前夜、黒人たちは霊歌を歌います (歴史的にはゴスペル、ブルースの前身の霊歌ですが、ここではラップ調のリズムという感じ)。ローリンズはそこで、”明日が最後の審判の日となっても、自由のために戦って死んだと家族に伝えてください” と祈るように叫ぶ (その姿はキング牧師を彷彿とさせます)。苦悩に満ちた現世を去っても、天国で祝福されること。これがタイトルの『グローリー』が意味するところなんですね。