「あの子を探して」 | YURIKAの囁き

「あの子を探して」

1999年、ヴェネチア国際映画祭、金獅子賞受賞
■1999年、中国映画、106分
■監督:チャン・イーモウ
■製作:ツァオ・ユー
■脚本:シー・シャンシェン
■撮影:ホウ・ヨン
■音楽:サン・バオ
【ストーリー】
村で唯一の学校のラオ先生が、1か月村を離れることに。その間、「28人の生徒を一人も減らすことなく代わりを務めることができたら、60元もらえる」という約束で、13歳のミンジは先生の代理を務めることになった。その日からミンジの悪戦苦闘の日々が始まる。そしてある朝、クラス一のわんぱく少年ホエクーが、出稼ぎのため街へと消えてしまう。ホエクーを探して、ミンジも街へ出るが…。
【評】
中国、香港の映画監督として、チェン・カイコーと共に好きなのが、チャン・イーモウ。1987年に中国の映画監督として、ベルリン映画祭で初めてのグランプリを勝ち取った『紅いコーリャン』。その独特の映像美は、他国の映画では真似のできないほどの個性があって、映像だけでなく、優れた脚本と相俟って、観るものを魅了して止まない。彼の作品は、いずれも中国の貧困民や農村を舞台にして造られたものが多く、それらの作品群は有数な映画祭において、拍手を持って迎えられている。しかし、彼の作品が、海外において評判は良いけれど、自国ではどうかと言うと、決してヒットしてきたものではないようです。その原因は、現在の中国の社会的繁栄から程遠い、男尊女卑で封建制度の色濃い時代背景を好んで土台とし、そこには、現在の中国との社会的隔たりが見てとれるからだと思う。日本映画が、未だに時代劇が海外で高く評価されるのと似て、中国映画の海外での下地は、チャン・イーモウが描く、こういった時代錯誤な中国像なんだと思う。
しかし、チャン・イーモウが描こうとした中国の人間たちの生活性は、こういった時代が基礎として成り立っていた時代、圧制による貧富の差が色濃かった時代があって、初めて現在が成立してきたという歴史的実情を露に映し出したものなのだと思う。
中国映画が、チャン・イーモウの成功によって齎された自信は計り知れないと思うけれど、イーモウのような伝統的な中国映画の歴史は残念ながら終焉を迎え、時代の流れと共に、グローバル化へと突き進んだことは否定できない。
そして、昔のような思想啓蒙に偏重した映画は段々と観衆の嗜好に迎合する娯楽映画に取って代わり、ウォン・カーウァイのような現代の若者を主人公に、若者主張の映画が広く受け入れられるようになってきたと言える。
チャン・イーモウ監督の『あの子を探して』は、殆どの配役は素人らしい。素人の演技は、時に俳優でも演じきれない鋭い視線や、形に嵌らない自然な台詞を表現する。中国では、行政の無策をあざ笑うかのようにマスコミ(TV)の力が大きなものをいう。教師に半年給料を払えない村が、マスコミの作り上げた美談に乗っかって新しい校舎を建ててしまう。ここには政府に対する皮肉とマスコミの「権力性」が描かれている。そして、構築された物語がその虚構性を超えて真実を作り上げてしまう様も描かれている。ミンジの涙、ホエクーの涙は本物だった。そして見る者の心を打つ。
出演している子どもたちや村人たちが役にマッチングしているし、自然な演技が素晴らしい。きちんとした脚本もなさそうな自然な台詞まわしが素直に観客の心に沁みいる。このように生き生きとリアルな表情を撮れるイーモウ監督の手腕は特筆すべきものがあると思う。