サラダ記念日

俵万智

 

母から断捨離の報告と共にやってきた本たち。

その中にあったのです、サラダ記念日がびっくりマーク

あのフレーズは何度も聞いたことがあったけど、ちゃんと手に取ったことはなくて。

これは今読まなきゃ!と思いページをめくり始めるとあっという間にツルツル~っと。

 

・・もう、サラダ記念日に感想を申し上げるなんてそんなことは野暮です、野暮昇天

ということで、いっぱいありすぎて選ぶのが難しかった大先生の言葉たちを並べます。

 

◆万智先生、参りました◆

思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ

 

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

 

皮ジャンにバイクの君を騎士として迎えるために夕焼けろ空

 

さよならに向かって朝がくることの涙の味でオムレツを焼く

 

手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛

 

聞かされる低血圧の弊害を星占いの次に信じる

 

何してる?ねぇ今何を思ってる? 問いだけがある恋は亡骸

 

「迂回せよ!」生きるぎらぎら上海は自動車と工事中の多い街

 

君の待つ新宿までを揺られおり小田急線は我の絹の道

 

一週間会わざりければ煮返して味しみすぎた大根となる

 

親は子を育ててきたと言うけれど勝手に赤い畑のトマト

 

思い出はミックスベジタブルのよう けれど解答してはいけない

 

サ行音ふるわすように降る雨の中遠ざかりゆく君の傘

 

一年ののちの私の横顔は何を見ている誰を見ている

 

君の愛あきらめているはつなつの麻のスカート、アイスコーヒー

 

会うまでの時間たっぷり浴びたくて各駅停車で新宿に行く

 

送られて来し柿の実の柿の色一人の部屋に灯りをともす

 

今日中になんとかせねば母からの松茸少し面倒である

 

一人住む部屋のポストを探るときもう東京の顔をしている

 

白よりもオレンジ色のブラウスを買いたくなっている恋である

 

7(な)・2(に)・3(さ)から・7(な)・2(に)・4(よ)に変わるデジタルの時計見ながら快速を待つ

 

ステージの上に寝そべるコードたちとろけて落ちた五線のように

 

「おやすみ」をあなたに言ってもう今日は鳴らなくていい電話と思う