あなたの先には〜番外・花里編〜 | 結@妄想藍屋のブログ

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思いつくままに妄想ストーリーおよびイラストを書いています
艶が〜るのみ書いてますね今のところwww

推しは藍屋秋斉さんです♡♡♡
愛しすぎる……♡♡♡

 

「花里姐さん、今日は一段と冷えますなぁ」

「……せやね」  

 

自分付きの禿にそう声をかけられて、自室の窓から見える灰色の雲に目を向けた。  

 

故郷を出て、島原にやってきて、もう幾つの季節を巡ったんやろか

もう優しい秋斉はんはおらんくなって、一緒に仲良くお座敷にあがったあの娘もおらんよぉなった

よぉ面倒見てくれた菖蒲姐さんは、優しい旦那はんに身請けされていった

 

いっつもお菓子くれてた慶喜はんもおらん

おっかなかったけど、なんだかんだで壬生狼もおらんくなってもうたし、長州の高杉はんも坂本はんも……。そういや、あの娘もおらんくなったら結城はんも来なくなった

 

と、いうより……島原にくるお客さんはどんどん減って行った

 

そんな淋しさを紛らわせたぁて、稽古めっちゃ頑張って、気づけばわてもそれなりに名前が通っとるらしい

いつの間にかたくさんの妹分達を守る立場になってた

 

―必ずお里を迎えにくるからっ!―  

 

こんな気持ちになる時には、きまってあの唐変木を思い出してまう

 

何……しとんのやろな……

 

  これで何度目の冬を過ごしたんかな

  あんたがもたもたしてるからやで   

  こう見えても こっちではあたし

  結構もてるねんで   

  ぼやぼやしてたら 他の男に取られんで

  夢追うあんたの背中 見飽きたはずやのに

  嫌いになれへんよ  

 

 

 もう飾り職人にはなれたんやろか  

 不器用なやっちゃやし……でもまだ根気よく頑張ってるんかな  

 

 空から白い雪がちらちら舞い降りて来た。窓下を見れば、ええ仲なんやろう旦那はんと歩いてる姐さんがおる

 

 なぁ、アンタが迎えにくる言うたんやで?  

 それ証明してくれる人らかてもうおらんのやで?  

 

 ほんっま……今何してるん……?   

 

 

 あんたがおれへんから 何食べても味ないし

 あんたがおれへんから 楽しないし

 あんたがおれへんから 独り言も多なるし

 なんやかんや言うてあんたが 好きなんよ  

 

 

……無意識に手握りしめてたみたいや  

阿呆……今、どこにいてるん?

 

少しだけ熱くなりかけた瞼をそっと閉じた。

今、涙なんぞ見せてられへん

 

前、向かんと――!

 

 

「花里姐さん、今ええですか?」

 

新造の子が部屋の外から声をかけてきた

「うん、ええよ。どないしたん?」

 

すっと静かに入って来た彼女の手には、椿が一輪握られていた。

 

「それどないしたん?」

「今、知らん旦那はんから渡されたんどす」

「知らん旦那はん?」

「へぇ。これが心から似合う姐さんに渡してくれって」

「……ほんでわてに?」

「『意地悪言わんと名前言うてください』言うたら、『お里』にって」

 

―どくんっっ!!―

 

「ここで『里』つく名前は姐さんしかおらんので、……って花里姐さん!?」  

 

新造から受け取った椿を手に、我を忘れて走り出してた。番頭はんが遠くで「こら、花里っ!」って叫んだ気がする  

それでも走らずにはおれへんかった

 

おられへんのよ……っ!  

 

草履履くんも忘れて、裸足で冷たい道ばたに出て来て、あたりを何度見渡しでも、記憶に残るあの自信なさげに丸めた背の高い後ろ姿が見えん

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

人少ない島原の往来を行き交う、人たちが見ていた

何かあったんやろかって……    

 

間に合えへんかった……?  

どこに…どこにいってしもたん……?  

 

胸の奥が刀突き刺したみたいに痛くなって、思わず両手で押さえて……

今度は両目から滲み出る熱を抑えきれんかった

 

「……顔も見んと……阿呆ぉ……」

 

あんたがおれへんのに どこにもおれへんのに   

手も繋がれへんのに 抱きしめられへんのに   

あかんたれで一人じゃ 上手に歩かれへんし    

あんたの代わりなんかどこにも いてへんのよ   

 

あんたがおれへんから 何食べても味ないし   

あんたがおれへんから 夜がすごく長いし   

あんたがおれへんから 冬はもっと寒いし   

なんやかんや言うてあんたに 会いたいんよ  

 

会いたい……会いたい……

胸の奥が痛い  なんで、なんでなん……陽次郎っっっ!!!

 

 

 

「……お里?」    

 

後ろから声がかかったんは、そんな時やった

少し声が記憶より落ち着いたような響きやけど……

わてを、こんな風に呼ぶ人は、他におれへん  

勢い良く顔をあげ、ふりむいた

 

「……陽…じ…」

「なっ!なんで草履はいてへんのや?!」  

 

こっちが話し終わる前にアタフタとしだす  

わてので良かったら、と自分の草履を脱いでわての前に置いた

 

……変わらんなぁ、陽次郎……

 

「……落ち着きぃ」

「あ……すまん……」

 

声かけられ、ようやく陽次郎が立ち上がる

借りた草履は、ほんのり温かかった

 

「今日はどないしたん?」

「あ、そや!……お里!!わてと夫婦になってくれへんか?!」

「………………はぁ?!」

雰囲気もなんもない、唐突な言葉に思わず間抜けな声が出た

 

……ほんまは嬉しいはずやのに……

 

「……ちょ、ちょっと待ちぃ……順追って説明してくれんと」

「あ、そやな」

すまん、と笑った陽次郎は事の次第を話し始めた

 

どうやら飾り職人として必死に修行した陽次郎はその腕を認められ、本来なら一人前までまだ数年かかるものを、この五年足らずで成し遂げてしまったらしい

また陽次郎の作る作品を気に入る商家やらが割と多くて、それなりに貯えもできたという

 

「そこで秋斉はんから手紙が届いたんや」

「え……?」

「正確には『秋斉さんの言葉』を引き継いだ番頭はんから、なんやけどな」

 

秋斉はんは、置屋からいなくなる前に、番頭はんに色々引き継ぎしていったとは聞いてた。その中に、わての身請けについてにも書かれていたらしく

 

『花里の身請けに関して、もし陽次郎はんが申し出た場合、金額より花里の意思を尊重すること』

 

「金はとりあえず今ある貯えを、はたいたら出せるまでになった。払ったら……まぁしばらくは厳しい生活になってまうけど、すぐ楽させてやれる、いやさせてみせる」「なんで……そない……」

 

いくら売れっ子の職人とはいえ、芸妓の身請け金等、易々出せるものやない

それを支払えるゆうことは……

 

「なんでって……」

 

眉を八の字に下げ、陽次郎が頭を掻く

 

「……約束したやないか、お里のこと必ず迎えにくるって」

 

これがあの自信なさげに、いつも背中を丸めていた陽次郎なんやろか

小さく見えていた背中は消え、全身から男らしい自信を醸し出している

 

「今日は番頭はんに申し込みにきただけやったんや。まぁ、お里に話通してまた後日顔合わせて、ってことで帰ろうとしとったんやけど」

 

陽次郎の目が、わての胸にある椿に向けられる

 

「さすがにまだこの花には無いかもしらんなぁ。なんやえげれすや、西洋では『花言葉』っちゅうもんがあるんやて」

「『花言葉』?」

「そう。その花を象徴させる意味を担わす西洋貴族の遊びからきたらしいてな。今後の飾り作りにおいて幅広げられるんちゃうかと思って、少し勉強したんや」

 

陽次郎の笑顔は、飾り職人として大成した何よりの証拠……

 

「そん時にお里に、側おってほしい」

 

もう一度改まって言われた言葉に、今度は素直にうなずく

 

「おおきに、陽次郎」

 

白い雪が舞う 二人を纏う空気は冷えているのに 始まったばかりの二人の行く先はとてもあたたかかった

 

 

椿の花言葉 赤⇒「気取らない優美さ」「気取らない魅力」

     白⇒「最高の愛らしさ」「理想的な愛情