14日。
朝、いきなりサビーノ殿下がうちに遊びに来ていた。
お姉ちゃんに会いに来たのかな?
まだ弟の隣で寝てて、ぜんぜん起きる気配ないけど。
螺旋階段を登ってきた殿下は、なぜかお姉ちゃんじゃなくて私に話しかけてきた。
私におはようって挨拶をしてから、寝てるお姉ちゃんに声をかけていた。
あっ。
殿下のために、お姉ちゃんを起こしておいてあげれば良かったかな……。
今日はアナベラさんの授業。
山岳兵になるには長子と結婚しないといけないんだよね。
私の学年で言うなら、エンディカ君。
エンディカ君は誰と結婚するのかな……?
私も彼とは仲良しだけど、あんまり相性がよくないのか、向こうから話しかけてくることはほとんどないんだよね。
相性が良かったらここで山岳入りを検討したかもしれない
15日。
ユリウスおじちゃんの奥さん、エイドリアンさんから星空の砂を貰っちゃった♪
エイドリアンさん、美人だし優しいし大好きです。
アチェロは、いつの間にかセイラさんとお付き合いをしていた。
中の人が王妃候補に、と思っていたセイラさんです
セイラさんと結婚するつもりなんだって。
そっかー、ぽやっとしてるアチェロでも、ちゃんと将来のことを考えてるんだね。
今のところ恋もできていない私は、自分の将来を少しだけ不安に思った……。
今日はセイルおじちゃんとミハイルさんの試合の日。
相変わらずおじちゃんは先手を取って、両手剣使いのミハイルさんに勝利。
試合後、慌てた様子でミハイルさんは闘技場を出て行った。
今日はミハイルさんの奥さんが出産する日なんだもんね。付き添いに行ったのかな?
私もあとで見に行こう。
ビッグ君の弟か妹でしょ?絶対可愛いもんね♪
夜までふらふらして時間を潰していたら、おじちゃんの息子さん、ルーファス君に遊びに誘われた。
牧場でかけっこしたら、ルーファス君の圧勝だった……!
さすが、『エレクの翼』持ちのおじちゃんの息子。
遊んでいたら夜が近くなってきたので、ミハイルさんの自宅にお邪魔させてもらった。
セレニアさん、出産直前なのに着物で帯もばっちり締めてるけど、苦しくないのかな……??
夜になって、
生まれてきたのは赤髪の可愛い女の子でした。
ビッグ君の妹だね。
イフィゲニアちゃん、って名前だった。
おしゃれで素敵!
16日。
朝いちばんでパパを誘ってお風呂です♪
泳ぐぞー!
ぷはー、ってやってから、後ろを振り返る。
パパは今日もちゃーんと見ててくれて、私はうれしくなった。
お風呂は泳ぐものだよね。
パパも子供の頃は泳いでたのかなー?
そう思うと、パパがすごくかわいく見える♪
パパはちゃんと、家まで送ってくれました。
森にキノコを採りに来たら、また殿下が声をかけてきた。
お姉ちゃんは殿下を追いかけていたみたいで、私の後ろにいるんだけど。
サテラ
「殿下、お姉ちゃんは後ろにいるよ?」
なんで私に声をかけてきたのかがわからなくて、私は首を傾げた。
サビーノ
「うん、知ってる。……僕はサテラさんに声をかけたかったんだよ」
殿下は穏やかに微笑む。
あれ?って、私はこの時初めて思った。
私は子供だった。
殿下が一番に会いに来るその意味を、まだちゃんとわかっていなかったんだ。
クラリスタ
「サビーノ殿下……」
その寂しそうな声に、私は振り向く。
そして、とてもとても後悔した。
お姉ちゃんは、見たことないくらい悲しそうな顔をしていた。
そう、だよね。
恋人よりその妹に先に話しかけるって、子供の私にもヘンだってわかる。
ぽやっとしてる殿下は、そういうの、わからないのかもしれないけど。
ここにいちゃいけない。
そう思った。
サテラ
「私……パパたちとダンジョン行くから」
そう言い残して、私はその場から逃げ出した。
クラリスタ
「サテラ!!」
お姉ちゃんが、私の名前を呼んだ気がした。
でも、私は絶対絶対振り向くものかと、前を向いて走り続けた。
お姉ちゃんの悲しそうな声が、どこまでも私を追いかけてくるみたいだった。
どうしていいかわからなかった。
森になんて行かなければよかった。
話しかけられても、逃げればよかった。
どうして、あの人は私に話しかけてくるの……
まだ朝早い時間だったから、パパもママもダンジョンに行く前だった。
良かった。
パパとママは強い。
炎獄だって、2人となら頑張れば13階くらいは行けちゃう。
そうすれば、ダンジョンからしばらく出なくて済む。
アナ
「サテラちゃん、大丈夫?」
いつもは楽しくおしゃべりしながら探索するのに、今日の私は無言だった。
ママが心配して声をかけてくれたけど、
サテラ
「大丈夫だよ!ちょっと落ち込んでただけだから」
誤魔化してしまった。
だって、優しいママとパパになんて言ったらいいかわからなかった。
二人はお姉ちゃんが殿下と付き合ってるのは知ってると思うけど、殿下が私の方に先に話しかけてくることは、知らない。
心配、かけたくない……
大好きなお姉ちゃんが殿下と恋人になって、誰より私が喜んでいたはずだったのに。
どうしてかな。
殿下に会いたくない。
だからこのダンジョンが永遠に続けばいいのに。
そう思った。
17日。
お姉ちゃんはグリーンジュースを飲んでいた。
……。
私のせい、かな。
ご飯のあと、お姉ちゃんは2階に戻ってしまった。
サビーノ殿下の居場所を導きの蝶で確認。今日は市場で買い物をしているみたいだった。
私はお姉ちゃんを追いかけて、2階へ。
お姉ちゃんはベッドで横になっていた。
近寄ると、起き上がって私を見た。
クラリスタ
「サテラ、昨日はごめんね」
お姉ちゃんは申し訳なさそうな顔をしていた。
サテラ
「なんで?お姉ちゃんは悪くないよ……」
クラリスタ
「でも、昨日は」
サテラ
「謝らなきゃいけないのは、私だもん……ごめんなさい」
大好きなお姉ちゃんを悲しませたのは、私。
それが辛くて、どうしようもなくて……
私が謝ったら、お姉ちゃんは私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。
お姉ちゃん、どうして私に優しくしてくれるの?
私、お姉ちゃんに嫌われたって仕方ない子なのに。
そこにやって来た、お姉ちゃんの恋人は――
全く空気が読めず、私に今朝買って来たらしい青い貝殻を渡そうとしてきた。
いつもの私なら、多分ありがとうって受け取ってたと思う。
だけど、私は精一杯の理性でそれを拒否した。
サテラ
「やめて。そういうの、どうしてお姉ちゃんに渡さないの」
サビーノ
「……それは」
自分で聞いたくせに、答えを聞きたくなかった。
でも、これ以上彼に何を言えばいいかもわからなかった。
私が殿下を睨みつけていたら、結局彼は質問には答えず、2階に上がっていった。
一体、どういう顔してお姉ちゃんに会いに行くっていうの!?
わからない。
わからないよ。
一番わからないのは、私自身の心だった。
殿下が青い貝殻をくれるって言ってくれた時、私は……
『嬉しかった』。
そんなこと、思っちゃいけないのに。
お姉ちゃんに会いに行って、って言わなきゃいけないのに。
どうして私、あの時一瞬だけ、受け取ろうとしちゃったんだろう。

















