モニカ国に冬がやって来た。
 
 
エルネア杯は終わったが、給料日はまだ遠い。
来年のためのヴェスタ貯蓄もしておきたいし、子供も生まれるし……そんなことを考え、俺は未だに極貧生活を送っていた。
住所は城なのにな。
 
 
地味なイケメン、アンドレイから差し入れを貰った。
 

 
その日暮らしなので正直嬉しい。
 
彼と俺は相性がいいのか、かなり前から食事に誘えるようにはなっているが……
今のところ親友にしたい!と思える出来事もないので仲良し止まりである。
 
 
 
レズリーは果物の話をしているが、俺にそんな余裕はない。
タルトタタンなんぞを食べられるのは、給料日以降になるだろうな……。
 
 
バルナバ君は寒空の下でも半袖で過ごしている。
子供は元気だな。
 
彼は山岳長子。
いずれはファミリーを率いていく身。
 
彼が歩き始めてもうすぐ1年が経とうとしているが、今のところ誰かと牧場で遊んでいるのを見かけない。
まだ1歳だし、恋路を心配したって仕方ないけど、気になるものはどうしようもない。
 
 
 
ちなみに独身山岳長子マリユスは未だに絶賛彼女募集中だ。
いい歳なんだからそろそろ身を固めた方がいいんじゃないか。
 
 
そんなことを考えながら歩いていたら、バルナバ君の母ニエヴェスさんから差し入れを貰ってしまった。
 
女性から物を受け取らない主義の俺が!!
 
 
ニエヴェス
「収穫祭の日に、息子にパンをくれたでしょう?そのお礼と思って下さい」
 
 
受け取ってしまったガインピッツァ。
返そうとしたら、やんわり断られてしまった……。
 
 
コンラート
「……ありがとうございます」
 
 
しつこく返そうとするのも失礼なので、ここは有り難く頂いておくことにした。
 
 
が、それをタイミング悪くベアトリスに目撃されてしまった。
 
 
コンラート
「ま、まてベアトリス。これは浮気じゃない」
 
ベアトリス
「??ニエヴェスさんからお礼を貰ってただけだよね?」
 
 
ベアトリスは特に気にしていないようで良かった。
 
俺はベアトリス一筋。
絶対に浮気なんかしないからな……!
 
 
 
 
 
翌日は麦の種を配る日。
 
 
特に何事もなく、
 
 
終わった。
 
 
一日中働くと疲れるな。
ローガンでもいれば、食事にでも誘ってのんびりするか。
 
そう思っていたら、
 
 
そっくりさんのエルヴェに酒場に誘われた。
丁度いい。
 
 
コンラート
「エルヴェは甘いものが好きなのか?」
 
エルヴェ
「そうだね。女の子みたいってよく言われるよ」
 
 
……来年の誕生日、チョコレートケーキでも差し入れするか。
 
 
 
 
 
 
翌日。
 
エルヴェ
「昨日酒場に付き合って貰ったお礼だよ」
 
 
そう言って珍しくエルヴェが差し入れをくれた。
だいたい俺に差し入れをくれるのはローガンかレズリーなので、エルヴェから貰えるなんて嬉しい。
 
 
……それが例えミルクといえど。
 
 
 
嬉しい……
 
 
ような、嬉しくないような。
 
 
 
 
 
 
市場をうろついていたら、ニエヴェスさんが今日も声をかけてきた。
 
 
社交辞令的な天気の会話だけして、彼女は人混みに紛れて去っていった。
 
だけどふわりと優しく笑い、声をかけてくれる彼女の姿に、俺は……
 
 
ローガン
「恋に落ちてしまった!」
 
コンラート
「おい、話を捏造するな💢」
 
 
横から現れたローガンがよくわからない茶々入れをしてきた。
 
 
ローガン
「でも君、すごく嬉しそうな顔してる」
 
コンラート
「ね、捏造だ。もしくは幻覚だ」
 
 
俺はローガンの言葉を全力で否定した。
が、俺がポーカーフェイスを保てていないことは、誰よりも俺が一番よくわかっている。
 
 
コンラート
「ニエヴェスさんを見てると……実家のような安心感があるというか……」
 
 
ごにょごにょ。
俺の言い訳に、ローガンは首を傾げている。
 
なんでわかんないんだよ!
彼女から漂う実家のお母さん感が!!!
 
彼女がいるとわけもなく安心できないか?
 
 
ローガン
「あぁ……君はマザコンってこと?ちょっと僕にはわからないな」
 
コンラート
「そ、そこまでは言ってない!」
 
 
言葉選びって難しいんだぞ。そんなヘンな言葉で俺とニエヴェスさんを評価してくれるな!
 
 
 
 
俺はベアトリス以外の女性で唯一、ニエヴェスさんだけは無闇に遠ざけられない相手と思っていた。