夕べ、何時に眠ったか覚えてない…。
朝早くに目が覚めて、時計を見る。
時間はまだ5時過ぎだろうか…。
横に眠っている彼を起こさないように、そっとベッドから降りて、この部屋にもあるだろうバスルームを探す。
意外とすぐに分かって、着替えを持って、シャワーをかりた。
下着類をお洗濯。
でも、どこに干そうか、悩むあたし。
鈴影さんと同じ部屋じゃなければ、バスルームとかに干せるのにさぁ…ここじゃ、干せないじゃない!
あ、クローゼットの中でもいいかな。
ハンガーあったし、服を洗って、その中に隠して干しても、乾きそうだわ。
よし、そうしよう。
洗う予定じゃなかった服も洗って、手で絞る。
タオルをもう一枚借りて、洗った服の水分を吸い取る。
ある程度、水分が減って、それを持ってクローゼットへ。
ハンガーにかけて、クローゼットを後にした。
「ユメミおはよう。何かしてたの?」
いきなり鈴影さんの声がして、ドキッとした。
「おはようございます。別になにもしてないですよ。昨日は、変なことを言ってごめんなさい」
あたしは昨日のことを謝った。
「ほんとにね。ユメミ、もう少し、周りに頼っても罰は当たらないよ?一人で抱え込まなくていいから」
優しい鈴影さんの言葉に、涙が出そうになる。
「ありがとうございます。十分頼っているんだけどな…これ以上甘えちゃ、ダメな人間になりそうよ?」
「大丈夫だよ。さ、髪の毛乾かしておいで。風邪を引くよ」
あたしはうなずき、ドライヤーで乾かす。
髪の毛を乾かし、ソファーのところに戻る。
鈴影さんは、新聞に目を通し、何か考えている。
そっとクローゼットに行って、着替えることにした。
新聞…あたしも以前よりは、できる限り、読むように努力はしてるけど、一日に何冊もの新聞を読む気力なんてないわね…。
鈴影さんは、新聞を読むのは、世界の情勢を見るためだって言ってたわね…日本語、ドイツ語、英語、フランス語、中国語etc,…。
本家でも、やっぱり同じくらいの量の新聞に目を通す。
邪魔にならないように、テレビをつけて、音量を下げる。
とはいえ、ドイツ語だから、あたしには少ししか分からないけど、聴いてるだけでもましかなと思う。

すごい集中力で、新聞をさっさと読み終わる。
すごいわね…あんなに早く読んで、頭に入っているのかしら…。
とうとう、最後の新聞を読み終わった。
あたしがずっと見ていたので、鈴影さんは聞いてきた。
「ユメミ、どうかしたのか?」
「いえ、すごい量の新聞を読んでいるなと…しかも、見てたら、一部読むのに、さほど時間かかってないんだもの。それでちゃんと情報として入っているから、すごいなって…」
「いつものことだからね…慣れてしまえば、こんなものだろう。それよりユメミ、これを君にあげよう」
冗談めかしに、ドイツ語の新聞をあたしに渡す。
「ひ、ひどい!読めるわけないじゃない!辞書片手に読んだとしても、一日かかりそうだわ!」
「今日、出かける予定はないんだから、十分読めそうだけど?」
むっ!
じゃぁ何、出かけたいところがあるなら、早めに言えよってことかしら!?
あたしの顔に出ていたのか、彼は笑っていた。
「冗談だよ。本当に行きたいところはないの?」
「行きたいところといわれてもね、あたし、どこに何があるかなんて、さっぱりよ!以前来たときは、魔王子のお城の周辺だけだったじゃない。観光なんて、魔女博物館くらいしか行ってないわ。そうね、鈴影さんのお勧めの場所とかに行って見たいわ」
あたしは、そう提案してみた。
「そうだな…日帰りで行こうと思うと、セスナか電車だな…どっちで行きたい?」
簡単に言うけど、セスナって…。
「電車で行ってみたいな。日帰りでいけそうなところはあるの?」
「ここからだと、ケルンあたりが片道1時間半くらいで行けるけど?」
「ケルンって、大きな大聖堂があるところよね。行って見たい!」
「分かった。朝食が終わったら、すぐに出かけようか?」
あたしはうなずき、出かける用意をしてから、ダイニングに向かった。

朝食が終わって、一旦部屋に戻り、身支度を再度整えて、用意された車に乗って、フランクフルトの大きな駅まで送ってもらった。
でも、さすがに大都市の中心駅。
たくさんの色で分けられた電車のマップ。
さっぱり分からない!
「ユメミ、離れないようにね」
言って、鈴影さんは、あたしの手をとって、切符を購入。
特急券2枚を買って、改札を抜ける。
迷うことなく、ケルン行きの線路に向かい、特急が来るまで少し待つ。
「ねえ、鈴影さん、ミカエリスの家長がここにいるってどれくらいの人が気付いているの?さっきから、厳しい視線を感じるんだけど…」
あたしの言葉に、鈴影さんは苦笑い。
「まぁ、おおかた気付いているだろうね」
やっぱり…。
「あのさ、ミカエリスって、敵さん多い?」
取引してもらえなかったところとかさ、契約破棄とかさ、ビジネス界においての敵って多そうじゃない?
「気にする必要はないよ。そこまで恨みをもたれてもね…。それは自分の会社に落ち度があったからで、決してこちらの落ち度じゃないよ。逆恨みもいいところだな」
って、いるんじゃない!
あたし、電車で行きたいって軽はずみなことを言ったけど、本来なら、鈴影さんって、SPが付いていてもおかしくないんじゃないの!?
あたしがそのことを言うと、鈴影さんは、気にする様でもなく、言ってきた。
「いるよ、一応はね。ただ、オレの護衛というより、ユメミの護衛というべきかな。そばにいないけど」
「鈴影さんの護衛は?」
「俺の護衛?いてどうするの。まぁ、体裁を繕うのに、つけることはあるけどね。基本、いないよ」
そうよね、騎士団の総帥がSPをつけるなんて、考えられないか…。

特急列車が到着し、あたしたちは乗り込んだ。
電車に揺られ、外の景色を楽しむ。
しばらく走ると、車内販売。
鈴影さんは、車内販売のお姉さんを呼び止めて、コーヒーを二つ、注文した。
「熱いから、気をつけて」
あたしはうなずき、カップを受取る。
日本と違う景色を眺め、街の景観を美しく見せる為か、建物の高さとか、かわらの色、壁の色が暖かい色、窓には、綺麗な花壇で飾られている。
「ドイツの家って、綺麗ね。どの家も、窓に綺麗な花が飾られているわ…」
あたしのつぶやきに、鈴影さんは窓を見る。
「ああ、ドイツ人主婦の気遣いだよ。窓を綺麗に拭いて、花を育て、少しでも暮らしやすいように工夫をする。景観を大事にする主婦だからこそ、掃除に手を抜かない」
へぇ~、初めて知った。
ドイツ人って勤勉な人が多いのね。
でも、見ているだけで、心が晴れてくるみたいだわ。

お昼前に、ケルンに到着し、観光の前にランチをすることにした。
とはいえ、本日日曜日。
開いているお店は少しだけ。
市内を歩きながら、お店を探す。
わりとすぐに見つけることができて、中に入って、食事を取った。
会計を済ませ、店を後にして、本来の目的地、ケルン大聖堂を目指す。
さすがに大きいので、すぐに見つけることができた。
大聖堂の広場に着き、建物の重厚さに圧倒される。
いくつもの尖塔の中に聳え立つ、さらに高い対の尖塔。
あたしは、言葉が出なかった。
「中に入ってみる?」
横から、鈴影さんの声がする。
あたしはうなずいて、中に入ることにした。
中もすごく重厚で、観光客が騒いでいるのを見ると、なんだか、この教会に合わないなって思う。
あたしは、座席に座り、しばらくステンドグラスや、天井を見上げていた。
本当に、すごく神聖な場所のように感じた。