大気はうさぎをやさしい瞳で見ながら、
少し新鮮な空気を吸いに、席を外した。

☆★ 新しい恋?! ☆★

使用人専用の通用口を通って、裏庭に出る。

そこで少したたずんでいると、
衛「大気くん。」
衛が声をかけてきた。

大「衛さん。」
大気は驚いたような声を出した。
大「どうしたんですか?
こんなところに。」

大気の言葉に
衛「いや・・・。」
衛は言いよどんだが、
衛「きみがこちらに来るのが見えたから。」
そう返事をした。

大気はその返事を聞いて、
ここにいるのも何かの因縁だと思った。

同じことを衛も感じ取ったのだろう。

衛「きみのこの家に対する忠誠心は、
感服するよ。」
そんなことを言ってきた。

大気はわかっていた。

衛の言ったことの真意を。

大「衛さん、本当に申し訳ありません。
この家を本当はつぶしたいと思っているでしょうに、
それなのに、この家にそれでも尽くしてくださっていること。」
大気は周りに人がいないのを確認しながら、
恐る恐る言った。

衛「いや、大丈夫。
きみのおかげでこの家に入り込むことができたんだ。
きみの意志に逆らうことはしないよ。」
衛は首を振りながら言った。

大「いえ、わたしがこの家をつぶさないのは、
すべて夜天さまのため。
夜天さまがこの家をしっかりと
守ることを望んでらっしゃるから。
夜天さまがこの家をつぶすことを
望んでらっしゃらないから。」
大気はそこまで一気に言った。

大「でも、この家が夜天さまのためにならないのなら、
この家をつぶすことが夜天さまのためになるのなら・・・。」
大気は一瞬目を閉じた。

そして、再び目を開けると、
大「もしそうなら、わたしはこの家をつぶします。
ためらいもなく。」
大気はそう静かに言った。

そのアメジスト色の瞳には
静かな炎がやどっていた。

*****

う「大気さん、どこいってたの?」
うさぎが無邪気な声で、声をかけてきた。

大「いえ、少し執事としての役目がありましたので。」
大気はそう答えるにとどまった。

夜「大気。
うさぎがきみのためにパンの
お代わりを頼もうとしているんだけど。」
夜天がそういってきた。

大気は夜天に微笑んだ。

自分勝手でわがままだけど、
どこか憎めなくて、
それでいて繊細で心優しい
たった1人の自分の主。

大「ありがとうございます、夜天さま、うさぎさん。」
大気は微笑んだ。

大「せっかくですから、いただきましょう。
アヤさんにお電話を。」
大気はそういって、電話を取った。

大気は夜天のほうをちらりと見た。

大(わたしはいつだって、
あなたのためだけに生きているのですから。)
大気は夜天に心の中でそう語り掛けた。

*****

やがてキッチンから焼きたてパンが届いた。

う「わーい♪」
うさぎはかなり食べているのに、
まだ食べる気満々らしい。

うさぎがパンをほおばるその姿に
夜天はびっくりしていたし、
大気はほほえましく感じていた。

やっぱり、夜天にとって
うさぎは、今必要な存在な気がしていた。

何としても、うさぎには
この家に長くいてもらいたい、
大気はそう決心していた。

もっとも、レイにとっては
胃が痛くなるような行動をとるのも
またうさぎらしい、といえなくもないが。

あきれたようなレイの顔。

おどろいたような夜天の顔。

くすくすと笑う星野。

そして隣の部屋でお茶の用意をしているまことも
また、うさぎの魅力に取りつかれていた。

一同は、笑顔と穏やかな時間の中にいた。

夜天家にとって必要なのは
このような時間だったのかもしれない。

意識的ではなくても、みんながそう感じていた。

[newpage]

翌日のことだった。

夏休みももうすぐ終わりだなー。

うさぎがそう感じていたその時、
1つのアイディアが思い浮かんだ。

うさぎは大気をどう呼び出そうか、
そう考えながら廊下を歩いていた時、
たまたま、大気がある部屋の
入り口にいるのを見つけた。

う「た・い・き・さん。」
うさぎは大気にそっと話しかけた。

大「うさぎさん。」
大気は驚いた。

大「どうしたんですか?」
大気は優しい声できいた。

う「あ、えーっと、このお部屋は?」
うさぎは少しその部屋をちらりとのぞいた。

大「こちらは夜天さまがTV会議のためのお部屋です。」
大気はそう説明した。

う「え、じゃあ、今日夜天さんって・・・。」
うさぎの疑問に
大「ええ、今日はTV会議の予定です。」
大気はそう答えた。

そういえば、うさぎは夜天の仕事をしているところを
見たことがなかった。

う「えーっと、少しのぞいても・・・。」
うさぎは興味をそそられていた。

大「そうですね、となりの控室からのぞく感じなら。
うさぎさん、夜天さまのお仕事に
少し興味をお持ちになってくださって
とてもうれしく思いますよ。」
大気はニコニコしながら言った。

大「となりのお部屋なので、
もしあきたなら、こちらのドアから
出て行ってかまいませんから。」
大気はそう言ったのだが・・・。

正直言って、うさぎは退屈するか、
それとも居眠りするのが
関の山なような感じがしていた。

うさぎはそんなこととはつゆ知らず、
わくわくしていたが。

[newpage]

そして、会議が始まったのだが、
案の定、うさぎにはちんぷんかんぷんな内容で、
すぐにうさぎは飽きてしまった。

しかし、真剣な表情で会議に臨んでいる夜天の姿を見ると
なんだかやっぱり自分とは住む世界が違う気がして、
うさぎは少し寂しかった。

うさぎはそっと大気に
う[部屋に戻ります。]
そうメッセージを送ると、
自分の部屋に戻った。

部屋に戻って、まぶしいので
カーテンを閉めようと思ったとき、
美奈子が温室へ入っていくのが見えた。

う(あの温室・・・。)
うさぎはあの温室で出会った謎の庭師を思い出した。

*****

気になったうさぎはそのまま温室の扉を開けた。

先ほど美奈子が入っていたから、
当然のごとく、扉はあっけなくあいた。

うさぎはこっそりと中に進んでいったが、
その時だった。

あの庭師ー確か最上エースという名だったっけーと
美奈子が抱き合っているのをうさぎは目撃してしまった。

う(え?美奈子ちゃん・・・。)
うさぎは困惑していた。

う(もしかして、もしかして・・・。)
うさぎは考えていた。

と、その時、いつかまことから教えてもらった
美奈子の悲恋の話を思い出した。

う(新しい恋?!)
うさぎはそうピンときた。

う(美奈子ちゃんが新しい恋をしたんなら、
おーえんしなきゃ!)
うさぎは美奈子の応援団になる、そう決めた。

*****

エ「まずいだろ。
こんな状況。」
エースは美奈子にいった。

美「だって・・・、
またあなたがいなくなったらって思ったら・・・。」
美奈子はそう悲しげに言った。

美「あなたがいなくなってから、
あたしがどんな思いでいたかなんて・・・。」
美奈子の見せた表情にエースはたまらない思いがした。

エ「美奈子。
大丈夫だ。
大気たちのおかげで、
おれはこの家に戻ってくることができた。
もうへまはしないさ。」
エースは美奈子を安心させるように言った。

美「本当ね。
もういなくなったりしないわね。」
美奈子はうっすら涙を浮かべていた。

*****

う(なに話してるんだろう、聞こえない。)
2人とうさぎは少し距離があるのと、
2人が息をひそめながら話していたため、
うさぎには全く2人の会話が聞こえていなかった。

う(もう1歩・・・。)
うさぎがそう思って、1歩踏み出そうとしたとき、
ぽん、突然肩をたたかれた。

う(!)
うさぎは振り返ると、そこには大気がいた。

大「のぞきですか?」
大気はくすくすと笑いながら言った。

大「ここはわたしに任せて、
うさぎさんはお部屋にお戻りください。」
笑顔だが、有無を言わせないような大気の態度に
うさぎはこくこくとうなずくと、温室を出ていった。

大「美奈子さん。」
大気は言った。

その言葉に2人はぱっと離れた。

大「いつまでも油を売っていないで、
お仕事に戻ってください。」
大気のその言葉に、美奈子はうなずいて
温室を出ていった。

大気はため息をついていった。

大「まったく、また美奈子さんに
あんなつらい思いをさせるつもりなのですか?」

そして、付け加えのように
大「とにかく、美奈子さんのために今はこらえてください。
必ず、あなたと美奈子さんのことは認めさせますから。」
大気はエースの肩をポンとたたいた。