でも、もうこんな風にあってはいけない。

どうして?

地球と月の住人は通じてはならないの。

それは神のおきて。

でも、もう遅い・・・。

☆★ 星の寿命を生きる ☆★

ネオ・クイーン・セレニティのつぶやいた乾いた響き。

そこにいた全員の気持ちを重苦しくするには、十分だった。

エ「許してください。」
エリオスはクイーンの顔を直視できずに、そういうと
そのまま、ひざまずいた。

エ「何よりも、誰よりもひかれあっているあなた方を
引き裂くようなことをいうこのわたしを許してください。」
エリオスの声は、そういうことを言わねばならない自分も
とてもつらいのだ、そういうことを雄弁に語っていた。

エ「いえ、いっそのこと許していただけないほうが・・・、
恨んでいただけたほうが、キング、クイーン、
あなた方は楽なのかもしれません。」
エリオスはそう、首を振りながら言った。

キ「エリオス・・・、すまない。」
キング・エンディミオンはそれだけの言葉を
振り絞るように言った。

その時だった。

ス「どうしてなの!」
スモールレディの声が響いた。

ス「パパとママは誰よりも愛し合ってるのに・・・、
それなのに、その愛がいけないなんて、
どうしてなの!」
スモールレディはそう叫ぶと、
わっと泣き出した。

セーラーヴィーナスがスモールレディを抱きしめ、
そのまま泣かせていた。

そのまま誰も口をきけず、
スモールレディの泣き声だけが響いていた。

*****

スモールレディが泣きつかれたころに、
ヴィーナスはスモールレディを連れて、
壁際のほうへ移動した。

エ(申し訳ありません、乙女よ。
敬愛するプリンセス・スモールレディ・セレニティ。)
エリオスは心の中でスモールレディに謝罪した。

エリオスは心の整理をするように、
1つ首を振ると、先ほどの話を続けようとした。

エ「クイーン、あなたは現世、地球人として生まれ、
地球人として育ってきました。
でも、今のその『幻の銀水晶』を使いこなせる、その力。
やはり、その力を持つ以上、あなたは月の民。
だから、地球の人間と月の人間は、通じてはならない、
その禁忌が再び、啓示として下ったのです。」
エリオスはそう説明した。

なんとなく、エリオスの言いたいことは分かった。

もしも、自分が普通の地球人として、人生を続けていたら・・・。

クリスタル・トーキョーを建国せず、
クイーンにならずにいたら、
こんなことにはならなかったのだろう。

クイーンだけでなく、他の戦士たちも
同じ思いを抱えていた。

クイーン、いや、うさぎがクリスタル・トーキョーを
建国すると決めたとき、だれも反対しなかった。

それはうさぎが私利私欲のためでなく、
地球のために、と考えてしたことだったのが、
みんなにもわかったからだった。

でも、こうなってしまった以上、
うさぎをいさめればよかった。

みんながその後悔で、重苦しい気持ちになっていた。

[newpage]

ネオ「わたし・・・、反乱を起こしたチームのリーダーと
話し合おうと思っていたの。
わたしの考えをわかってもらおうと思って・・・。」
ふっと、クイーンがことばを発した。

ネオ「でも・・・、もうあきらめたほうがよさそう。」
クイーンのことばはどこか自嘲気味だった。

クイーンのいいたいことはなんとなく、全員がわかった。

あきらめないはずのクイーンの「あきらめたほうが
よさそう」という発言にも、だれも驚かなかった。

セーラーマーズもセーラースターヒーラーも、
あの地震が起きる前のまがまがしい空気感を思い出していた。

おそらく、あれが地球が『幻の銀水晶』の支配を拒んだ、
その瞬間だったのだろう。

メ「エリオス。」
セーラースターメイカーがおもむろに
エリオスに呼びかけた。

メ「もしかして・・・、地球は・・・、
もう『幻の銀水晶』の力を
受け入れないのではないですか?」
メイカーは自分の懸念が現実のものと
ならないでほしいと思っていたが。

エリオスはうなずいた。
エ「おそらく・・・、そうだと思います。」

そのことばは一同にショックを与えた。

クイーンの地球を愛する気持ちがわかっていたから
なおさらだった。

マキ「では、クリスタル・パレスも・・・。」
セーラーマーキュリーがか細い声で言った。

エ「おそらく、今はまだ『幻の銀水晶』の力が残っていますから。
でも、遅かれ早かれ、パレスの消滅は免れないでしょう。」
エリオスの言葉は希望をなくすものだった。

エ「でも・・・。」
エリオスは言葉をつづけた。

エ「長い時間をかけて、地球と月の力が和解していくことが必要です。
そして、その間、月の力は地球から相応に離れていなければなりません。」
エリオスはそう言った。

キ「ということは・・・。」
キングは何かを察したようだった。

キ「わたしとセレニティは、
別れなければならない、ということだな。」

キングのその言葉に、一同は、
とりわけクイーンはショックを受けた。

[newpage]

前世から愛した人。

そして、生まれ変わってまた恋をして、
そして、やっと結ばれた人。

何度生まれ変わっても、またあなたに恋をする、
そう決めた人。

その人と別れなければならない。

その事実が、クイーンの心を締め付けた。

このまま、息ができずに死んでしまうのではないか、
そう思えるくらいだった。

ネオ「きっと、また生まれ変わって、あの人に恋をしても
また、こんな風に別れなければならないのね。
ならば、もう生まれ変わりたくない。
本当に・・・、もう・・・生まれ変わりたくない・・・。」
クイーンの声は悲痛だった。

ヴィーナスたちも、セーラースターファイターたちも、
同じような気持ちだった。

その時だった。
エ「では、星の寿命を生きますか?」
エリオスはそう聞いてきた。

エ「星の寿命を生きるのであれば、
もう生まれ変わることはありません。
星が滅びない限り。」

それは、おそらくみんなの肉体が滅びてしまっても、
クイーンだけはたったひとりで生き続ける、
そういうことなのだろう。

自分は1人では何もできない。

愛する仲間がいなければ。

その時だった。

ジピ「クイーン!」
セーラージュピターが叫んだ。

ジピ「あたしはいつだって、
クイーンと運命を共にする覚悟はできてる。
もしもクイーンが星の寿命を生きるのであれば、
あたしも一緒に。」
ジュピターのその言葉に
フ「あたしも。」
ヒ「あたしも。」
ファイターもヒーラーも太陽系の生まれではないのに、
声を上げてくれた。

クイーンはみんなをみた。

マーズもマーキュリーも、メイカーも、
そして今スモールレディといるヴィーナスも
うなずいていた。

みんな同じように星の寿命を生きると。

クイーンの瞳に涙があふれてきた。
ネオ「みんな・・・、ありがとう。」

エ「みなさんのお気持ちも決まったようですね。
クイーン、あなたはやはりこんなに慕われている。
きっとあなたは、どんな試練も乗り越えられるお方です。」
エリオスはひざまずいた。

エ「ただ、それには太陽系の
セーラークリスタルの力が1つになる必要があります。
しかし、現状では太陽系にセーラー戦士のいない星が3つあります。
セーラースターライツの皆様方、
あなた方にそのセーラークリスタルを引き受けていただきたいのです。」
エリオスはそう頭を下げた。

フ「セーラー戦士のいない星。」
メ「その星はどこに?」

ファイターとメイカーは気になるようだった。

エ「2つは、キングのお持ちのゴールデンクリスタルが守護する星、
それは、太陽と地球です。」

そう言われて、盲点だったことに気づいた。

ヒ「あと1つは?」
ヒーラーも気になっていた。

エリオスは答えた。
エ「それは、カイロンです。」