ごめんね、せーや・・・。
ごめんね、大気さん・・・。

そして、ごめんね、夜天くん・・・。

☆★ 偽物両想い ☆★

やっぱり火野と夜天のところにいくか、
おれはそう決心をつけて、歩き出そうとしたとき、
大「星野?」
大気に声をかけられた。

傍らにはおだんごがいた。

星「ああ、大気・・・。
おだんごと一緒に演劇部の公演みにいってたんだよな。」
おれはそういって取り繕おうとした。

しかし・・・、
大「星野?なにかあったんですか?」
大気はそう聞いてきた。

正直言って鋭いとしか言いようがない。

しかし、
星「なんでもないさ。
じゃあ、いこうかおだんご。」
おれはそう言って、おだんごの腕を引っ張った。

とにかく、ここから一刻も早く去りたかった。

*****

わたしは星野がクラブのシフト、
夜天がクラスのシフトに入っている間、
月野さんと一緒に演劇部の公演に行っていた。

脚本の執筆はわたしももちろん参加した。

わたしは複雑なプロットのストーリーが好きなので、
ついつい複雑なプロットにしがちだが、
部員の皆さんが
「もう少しわかりやすくしたほうがいい。」
というのでいろいろと手直しをした。

そのせいか、だいぶわかりやすくなったストーリーになった。

それを思うとやはりコラボというのは楽しくもあり、
非常に勉強になる。

だからこそ、
う「すごい面白いお話だった。」
月野さんからそう言ってもらえたのは
何よりもうれしかった。

もっとも、あの優しい月野さんのことだから、
気をつかっていってくれた可能性も
なくはないが・・・。

でも、月野さんの拍手の仕方を見る限りは
あまり義理という感じもしないような気もした。

希望的観測かもしれないが。

そしてちょうど星野がシフトが終わるころに
月野さんを送ってきたのだが、
星野の様子がどことなく変だった。

そのとき、校舎の廊下のほうに目が行ってしまった。

夜天と火野さんが歩いているのが目に入った。

なるほど、そういうわけですか。

*****

文化祭でいろいろ込み合っているせいか、
なかなか火野と話ができそうな場所はなかった。

結局、職員室の近くまで来てしまった。

レ「ごめんなさい!」
火野は開口一番、そう言った。

レ「実は、あの後聞いたの。
星野くんに口止めされていたって。」
火野は責任を感じているようだった。

でも、口を滑らせてしまったのはぼくだ。

夜「別に・・・、あれはぼくの責任だし。」
だから、そう言った。

レ「でも・・・。」
火野はなおもそう言った。

でも、あれがなければ、星野と月野が付き合う、
ということはなかったかもしれない。

そう思うだけで、苦い思いが込み上げてきた。

[newpage]

とりあえず、あたしは彼氏になったばかりの
せーやと回ることになった。

だって、やっとできた彼氏だし。

文化祭でデートするのもあこがれだった。

まもちゃんは意外と恥ずかしがり屋で
人前で腕を組むことなんてできなかった。

だから、
う「ねえ、せーや、腕組んでいい?」
あたしはそっとせーやにいった。

なんとなく、いうだけで、
かなりどきどきしていた。

せーやは戸惑っているようだったけど、
星「・・・、いいよ。」
笑ってそう言ってくれた。

そして、そっと腕を出してくれた。

あたしはその腕につかまった。

本当のことを言えば、
この腕が夜天くんの腕だったらいいのに・・・。

一瞬、そんな思いが頭をかすめたが、
あたしはぶんぶんと頭を振って、
その考えを振り払った。

そう、あたしはこれから、せーやと幸せになるんだから。

*****

文化祭は人が多く、ぼくがいつもいる中庭にも
いろいろ露店がいっぱい出ていた。

クラスのシフトもうんざりだし、
ぼくはクラブにも所属していないため、
本当に退屈だった。

ふう、とため息をつきながら、廊下を歩いていたら、
大気に出会った。

大「大丈夫ですか?夜天?
人の多い場所はこたえませんか?」
大気はそう言ってきてくれた。

夜「大丈夫。」
ぼくは心配かけないように、そう答えた。

大気は何かを察したように、
大「その様子じゃ、少し疲れているようですね。
うらの駐車場あたりにいたらどうですか?」
ぼくの肩をぽんとたたいて、そう言ってくれた。

*****

たしか、美奈子ちゃんがシフトの時間の時に
せーやとうちのクラスの出し物に行ったら、
なにかサービスしてくれる、といっていたような気がする。

そんなことをせーやにいったら
星「愛野のやつ、また派手にからかうとか
そういうんじゃないか?」
そんなことを言って、苦笑いしていた。

でも、
星「いいぜ、おだんごは仲間をとっても大事にしてるからな。
いっちょ、からかわれてやろうぜ。」
せーやはそういってくれた。

さすがに、アイドルだけあるし、
せーやは3人の中で一番バラエティ番組に出ていることもあり、
こんなことなんて、仕事でも日常茶飯事なのだろうと思う。

だから、シフト表を確認して、
美奈子ちゃんのシフトの時間に行ってみることにした。

*****

美「うさぎちゃん、星野くん、いらっしゃーい♪。」
美奈子ちゃんが明るい笑顔で出迎えてくれた。

美「さあさあ、カップル席ここに座って。」
そのままカップル席(そんな席あったっけ?)に座らされた。

美「じゃあ、この愛の女神、美奈子様と
ゲームにチャレンジ!」
美奈子ちゃんは不敵に笑っていた。

なにをさせられるのか、不安だったけど。

[newpage]

愛野のやつ、いきなり野球拳をするとか言い出して、
クラスのみんなに全力で止められていた。

当たり前だ。

おれだって、アイドルだから、
文化祭で相手を脱がせたなんて
噂が出回ったら、炎上するに違いない。

ちょうど木野も同じシフトだったため、
そのまま木野に引きずられていった。

ほっとしたのもつかの間、
大「星野、ではわたしと一勝負しましょうか。」
大気が不敵な笑みを浮かべてやってきた。

*****

大気のやつ、この時間のシフトのやつと
代わってもらったのだという。

大「まあ、愛野さんが何かしかけそうで
面白そうだったので。」
大気はくすくす笑いながらそう言っていた。

そして、おれと大気はオセロで勝負することになった。

*****

結局、せーやは大気さんにオセロ勝負で負け、
強制的に1オーダー、追加で頼むことになってしまった。

(これはクラスのメンバーが客できたときのルールで
違うお客さんだったら、そんなことはしない。)

う「大丈夫大丈夫。
あたし、ぜんぜん食べられるから。」
あたしはそう言って、せーやを慰めた。

星「そりゃあ、おだんごは焼きそば
4人前食べるようなやつだからな。」
せーやはそう言ってくれたけれど・・・。

あたしはパンケーキを追加で頼んだ。

やがて、まこちゃんが焼いてくれた
パンケーキが運ばれてきた。

『うさぎちゃん、星野くん、交際おめでとう』
パンケーキの表面にはチョコレートでそう書いてあった。

*****

そうやって、おれとおだんごは文化祭をいろいろと回った。

でも・・・、おれは気づいていた。

おだんごが時折、ここにいない相手のことを考えていることを。

そして・・・、おれは我慢の限界だった。

星「おだんご・・・、本当は夜天のところに
行きたいんじゃないのか?」
おれがそういうと、
う「そ・・・、そんなことないよ。」
おだんごはそういった。

でも、あきらかに声が裏返っていた。

もう、おれも限界だった。

星「いけよ、おだんご、夜天のところへ!」
おれはおだんごの顔が見られなかった。

いや、おだんごに顔を見られたくなかった、
というのが正確だった。

おだんごは
う「ご・・・、ごめんね、せーや・・・。」
そういって走っていった。

おだんごの走り去る音だけがおれの耳に響いていた。