仕上げ 1
翔は、美夕が良く着ていた服を用意し、美夕の格好を真似てみた。
体は翔のほうが大きくなっていたが、きゃしゃな体つきと、面立ちは、美夕にそっくりだ。
そして、色つきの眼鏡をかけると、翔もおどろくほど、美夕に似ていた。
極めつけは鈴だ。いつも母がちりちり鳴らしていた鈴の音は、懐かしかった。
中学校が、午前授業の日、翔は美夕の服を持って、宗の家に向かった。家の裏側の、あまり人目につかないところで着替え、コートを羽織ると色つき眼鏡と鈴を取り出し、玄関へ回った。玄関に鍵が掛かっていたので、外から中を覗いてみると、奈津美はコタツの中で、うたた寝をしていた。
空いているところがないか、探していると、勝手口が空いていた。
勝手口から中に入るとコートを脱いで、奈津美に近づき、鈴を鳴らした。
チリリン・チリリン 鈴の音で奈津美が目を覚ました。そして翔の姿を見ると、驚いて飛び起きた。あらかじめカーテンを閉めておいたので、部屋の中は薄暗かった。
翔が、チリリンと鈴を、鳴らしながら、翔は奈津美を見つめた。
ほんの五分ほどの出来事である。
しかし、奈津美にとってこの五分は長かった。奈津美はこの五分の間に大変な妄想を起こし、混乱していた。
立ったままの翔を見ながら、
「お願い、来ないで。」
とつぶやく。奈津美はジリジリと、後ずさりしていく、
「ごめんなさい、あなたが死ぬとは思わなかったのよ。」
間をおいて
「宗ちゃんとは三年、いえ五年程前からの関係よ・・・
でも、その前はただのお客だったのよ。宗ちゃんは飲みにも来るし、・・・保険にも入ってくれて・・・」
奈津美はジリジリ下がりながら、話続けた。
「あなたの保険も、宗ちゃんが入ったのよ、私がすすめたわけじゃないの。
それに、私は、ただ宗ちゃんに、一緒に暮らしてほしいっていっただけで、
まさか、それで、あなたが死ぬとは思ってなかった。」
さらに後ずさりしながら、
「離・離婚すれば良かったじゃない・・・あなた宗とはうまくいってなかったんでしょう。・・・しかも、あのお父さんと、お姑さんだもんね。わかるわ・・・・苦労したんでしょう。
勘違いしないで、離婚は宗が望んだのよ・・・ わたしがそうしてほしい、なんて、い・言ったんじゃないんだから・・・ お願い・・ わかって・・・」
そして、部屋の隅に、追い詰められて、ジタバタもがきながら、
「イヤー! もうこないでー!! お願いだから許してエー!!!」
と叫んでいた。
登場人物
高原 美夕(みゆう) 母親、病死して幽霊になる
高原 翔(しょう) 長男、中学1年
高原 麗美(れみ) 長女、小学6年
高原 由宇(ゆう) 次男、小学2年
高原 亜姫(あき) 二女、幼稚園5歳
高原 礼(れい) 祖父、(有)たかはらの社長
高原 ユミエ 祖母、
高原奈津美(なつみ) 後妻
高原 宗(そう) 父親、(有)たかはらの専務
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草薙香 グランディオ・学園祭
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私の父 草薙香のお爺さん